【逃げ切り失敗】J2 第38節 松本山雅×アルビレックス新潟 マッチレビュー
スタメン
松本はリーグ戦5連敗中。残留争いで崖っぷちに追い込まれている状況だ。町田戦からは3枚を変更。サプライズだったのは榎本樹のスタメン起用だろう。前節2ゴールを挙げた絶好調の選手を今季初の先発に抜擢。初出場となった金沢戦から9試合連続で出場を記録し、完全に定位置を確保しつつある。ベンチメンバーに目を向けると、山口一真が14試合ぶりに外れることに。代わって阪野豊史が4試合ぶりに名を連ねている。
対する新潟も4試合勝利がなく、後半戦に入ってイマイチ波に乗り切れない状態が続いている印象だ。前回対戦時との最も大きな違いは本間至恩の不在。負傷離脱によって背番号10の存在の大きさを改めて感じさせる。それでも、トップ下に入る高木善朗は10ゴール14アシストと圧倒的な数字を残しており要警戒だ。
出会い頭をモノにする
直近3試合ほどの松本は、守備ブロックを敷いてカウンター1発を狙うような戦い方。組織的な守備の練度が決して高いとは言えず、ビルドアップ能力に優れる新潟に対して前からプレスをハメるのは難しいと思っていた。
ところが、意表を突いて松本は立ち上がりからフルパワーで入る。2トップはGKに下げたボールも執拗に追いかけて前からの圧力を強めていく。町田戦から学びを得て修正した部分があるとすれば、全体の配置を変更したこと。3-4-2-1で4バックの相手にかみ合わせが悪く、浮いたサイドバックを使われてしまった前節。それを踏まえてか、町田戦でも試合途中から採用した3-5-2でインサイドハーフがサイドバックを捕まえるように役割を明確化していた。
おそらく新潟は松本が前掛かりに試合に入ると予想していなかったのだろう。面食らったような様子で、全体的にバタついてしまった。
そんな隙をしっかりと形にしたのが前半5分の先制シーン。奪ったら縦に速く、”相手をひっくり返すこと”を意識していた常田から前線にロングボールが飛ぶ。伊藤がヘディングで逸らすと、反応した榎本がDFより一歩先に触って入れ替わることに成功。クロスは一度防がれるも、榎本はすぐに守備へ切り替えて相手のクリアを阻み、ボールはバイタルエリアの佐藤へ。トラップでシュートの打てる位置に置くと左足を一閃。糸を引くような見事なミドルシュートがネットを揺らして幸先よく先制する。
常田の正確なロングフィード、榎本の大胆な仕掛け、ネガティブトランジションの良さ、佐藤のトラップと良い意味で力の抜けたシュート....個々人の良いプレーがいくつも重なってゴールに結びついた。個人的には、チームの狙いをピッチ上で表現して得点に結びつけたのが一番の収穫だったと思う。
この試合の松本の狙いは、相手をひっくり返すこと。要は、新潟のセンターバックに前向きな守備をさせず、背走させることを狙いとしていた。そのために高い位置を取るサイドバックの背後に2トップが流れ、ボールを奪ったら(適当にクリアするのではなく)FWをめがけてロングボールを蹴り込んで起点とする。基本的なことと思われるかもしれないが、前節できなかったことをしっかりとチーム全体で意思統一して改善できているのは良いサイクルが回っている証拠。前線に榎本という明確なターゲットがいたのも大きかったかもしれない。
狙うは先行逃げ切り
この日の松本のゲームプランは「先行逃げ切り」。これに尽きる。切り札としてベンチに置いていたセルジーニョや榎本をスタートから起用し、序盤から積極的に前プレを敢行した事実からも、90分内でのエネルギー配分を前倒ししていたのは明らかだったと思う。そして序盤から飛ばせば60分過ぎくらいにガス欠に陥るのは目に見えているので、ベンチに控える安東輝・小手川宏基で中盤の強度を維持しつつ、場合によっては鈴木国友をインサイドハーフに入れることも考えていたはずだ。
そういう意味では、立ち上がり10分までに良い出来事と悪い出来事があった。良い出来事は先制点。これは言うまでもないだろう。悪い出来事は何かと言うと、佐藤が早々にイエローカードをもらってしまったこと。アンカーの位置で広いエリアをカバーする必要があり、しかも相手のキーマン高木善朗をマークする彼が警告をもらうには早すぎた。2枚目の警告を受けて退場すればゲームプランは水の泡なので、慎重なプレーを選択せざるを得ない。加えて、シーズン累積4枚目のカードで次戦は出場停止。甲府戦も起用できるならば、後半途中で安東と替える算段だったのではないか。ところが、次戦出られないということで、今日は最後まで頑張ってもらうと決意したように思う。もちろん、退場するリスクとは常に隣り合わせの危険な綱渡りではあるが。
先制したあとは新潟にボールを持たれる時間も長く、耐える展開が続いたが、当初のゲームプランからすれば1-0での折り返しは万々歳。どれだけボールを握られようと、シュートの嵐を浴びようと、勝点3がもぎ取れるならば手段は選ばないのが今の松本だ。
噛み合ってしまった歯車
後半に向けて新潟は小見に代えて高澤を投入。前線に高さというオプションをもたせてくる。地上戦だけではなく、ややアバウトなボールも使えるようになって攻撃の幅を広げてきた。
松本にとって一番クリティカルだった新潟の修正は、センターバックがドリブルで持ち運ぶ意識を強めたこと。もともと足元の技術に優れる千葉と舞行龍は、前半からボールに触る回数はかなり多かったし、縦パスも積極的に入れていた。後半に入り、時間経過とともに松本の運動量が落ち始めると、2トップによる新潟センターバックへの制限が緩くなってくる。目の前にスペースがあると見るや、十数メートルをドリブルで持ち運び、松本の中盤まで食い込んだ上で縦パスをバシバシ通してくる。非常に厄介だ。
アンカー+インサイドハーフ2枚の松本に対して、新潟の中盤はトップ下+ダブルボランチで同数。そこへセンターバックが上がってくると、必然的に数的不利な状況を作られてしまう。前半は2トップがしっかりと監視をしていたので、千葉と舞行龍にそれほど自由を与えなかったが、飛ばしていた分ツケが回ってくるのも早い。55分過ぎくらいからは、数的優位を作り出す新潟に対して守備がはまらなくなっていた。
松本がパワーダウンする時間帯と、新潟がビルドアップに工夫を加えたタイミングがバッチリ噛み合ってしまい、主導権を握られてしまう。
そんな中で与えたペナルティエリア左のフリーキック。6枚並べた壁の下を通すトリッキーなキックは圍がなんとか防ぐも、こぼれ球を谷口に折り返されて最後は高澤に同点ゴールを許してしまう。新潟の試合はハイライトでしか追えていないのだが、壁の下を通すフリーキックはあんまり記憶にない。松本が壁の下に選手を寝かせていなかったのを見て咄嗟に判断したのかもしれない。ただ、ニア側のコースは狭かったし、壁の下を抜けてもセーブできると圍は判断したのだろう。実際にシュート自体は止めているのでその判断は正しかった。
いずれにせよ60分くらいまでリードした状態で先発メンバーを引っ張り、そこからは選手交代で強度の落ちた箇所を補いながら逃げ切るというプランは崩れたことになる。
今季初スタメンで、かつ前半から何度もジャンプを繰り返していた榎本が60分を前にして足を攣ってしまうアクシデント。同時に松本は3人選手を入れ替えて攻勢に出る。
阪野豊史、鈴木国友、星キョーワァンとハイタワーを前線に並べて、左には田中パウロ淳一という槍を入れたのだが機能せず。高さのある選手を並べた割にはクロス爆撃を徹底できないのは、今季の松本あるあるでもあるのだが。まあクロスを放り込んで殴ろうとすると、どうしてもパワー不足が否めない。榎本いれば多少は改善されるのだが、相手DFの上から叩き下ろすようなハンマー役がほしいところだ(ル●オさん....)
阪野が前節の小手川逆バージョンの決定機を向かたが、シュートはゴール右へ。最後まで新潟の守備をこじ開けられずに試合終了。連敗は5で止めたが、7試合勝利なしとなった。
総括
この試合も90分を通してのゲームプランは見えてきたのは好印象だったが、喉から手が欲しかった勝点3は取れず。どうしてもフィニッシュの部分でエネルギー不足を露呈してしまう結果となった。
残留圏との勝点差は1ポイント詰めて5になったものの、未だ崖っぷちであることには変わりはない。次節甲府はまだ昇格の可能性を残しており、両者ともに必勝を誓って臨む一戦になりそうだ。
アウェイに乗り込んでの一戦となるが、どこへ行っても気持ちは一つ。
俺たちの街へと勝利を持ち帰ろう。
One Sou1
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