【復権への第一歩】J2第42節 松本山雅×V・ファーレン長崎 マッチレビュー
スタメン
前節相模原に引き分け、他会場の結果によりJ3降格が決定した松本。ホーム最終戦となる今節は消化試合でありながらも、来年に向けた第一歩となる試合でもある。サポーターの期待に応えられなかったシーズンをどう締めくくるか。この試合の出来は、来シーズンの観客動員やシーズンチケットやグッズの販売数にも大きく影響するだろう。
基本となるメンバーは変わらないが、何人かサプライズがあった。まずは、横山歩夢。前半戦は柴田監督のもとで出場機会を得ていた彼だが、後半戦は一転してベンチ外の日々が続いた。以前、インタビューで「2週間~3週間コンディションが良くアピールを続けられたらスタメンに抜擢する」と名波監督自ら語っていたように、トレーニングで良い姿を見せられたようだ。また、神田渉馬と共にクラブ史上初めて下部組織から昇格を掴んだ稲福卓がベンチ入り。彼もまた、サポーターの期待を背負う選手で、名波監督の評価も高いようだ。
一方の長崎は、前節昇格の可能性が消滅。おそらく来季も続投するであろう松田監督のもとでシーズンの集大成を見せたい試合となる。松本キラーである都倉はスタメンに名を連ね、この試合が現役ラストゲームとなる玉田圭司もベンチに控えている。
憑き物が取れた躍動感
システムは終盤戦に入って継続している3-5-2だが、選手たちが見せたプレーは直近数試合とは全く違うものだった。このレビューでも繰り返し書いているが、3-5-2にシステムを固定してからの松本は、守備時5-3-2でブロックを組むことを基本としている。失点しないことに主眼を置きながら、カウンターとセットプレーで得る数少ないチャンスを決めきるべしという考え方である。
しかし、この日は前線から積極的なプレスを敢行。2トップの1角に入った横山を中心に、長崎最終ラインにもプレッシングを掛け、ボランチから後ろも引くのではなくインターセプトを狙う事が多かったと思う。残留争いという緊張感が高く、ヒリヒリする試合展開は否が応でも選手の動きを固くしていたはず。降格が決まってしまい、良い意味で吹っ切れたところもあるかもしれない。チーム全体からしばらく見たことのなかった”躍動感”が感じられたのはポジティブだったと思う。
前半の飲水タイムまでは、長崎も面食らったような様子で、効果的な打ち手を繰り出せずにいた。奇襲を仕掛けるという意図ではなかったとは思うが、結果的には長崎の出鼻をくじく形に。この時間帯が松本としては勝負だったと思う。
ゾーンの攻略法
勢いに任せて無策で討ち入ったわけではない松本。明確に狙っていたのは、サイドを攻略すること。中央の門が固い長崎に対して、まずはサイドの数的優位を活かして攻め込もうという考えである。
2トップの横山とルカオは積極的にサイド、もっと具体的にはサイドバックの背後へ流れてボールを引き出す。特に攻撃参加の頻度が多い左サイドバックの加藤の裏に流れる事が多かったように感じた。横山であれば背後のスペースへ、ルカオであればポストプレーで起点となることも視野に入れながら、いずれにしてもサイドで攻撃の起点を作りたかったのは間違いない。
サイドに流れた2トップに加えて、ウィングバックとセルジーニョ、さらにはボランチまで絡んでくれば4対3の数的優位を作ることができる。長崎の守備はゾーンなので、基本ポジションを外して流れてくる選手の対応は難しくなりがち。相手の特性も生かした打ち手だったと思う。
それでも純粋に長崎の個のクオリティに競り負けることが多かった点は否めず、一方的に殴り続けられなかった理由でもある。
飲水タイム明けの反撃
前半の立ち上がりこそ松本の積極的な姿勢に面食らった長崎だが、飲水タイムを経て持ち直す。短時間で修正できる力があるからこそ、この順位にいるのだということを見せつけた。
全体の重心を前掛かりにする松本だが、最終ラインを構成する野々村鷹人、橋内優也、常田克人は決してスピード勝負ができるメンバーではない。この点は柴田監督体制の時から顕在化していた課題で、監督のチーム作りというよりは、スカッドの問題が大きい。負傷離脱している大野佑哉が入ると、まだ改善される傾向にあるが、彼も不在。
長崎は奪うとシンプルに松本最終ラインの背後へ蹴り込むことで、陣地回復に成功する。特に狙われたのは松本の右サイド。空中戦での勝負にストロングを発揮する一方で、地上戦では不安定さの残る野々村を狙い撃ちする格好だ。相手の抱えるウィークポイントを的確に突いてくるあたりは、相変わらずいやらしい監督だなと思う。
先制を許したのも同様の形から。敵陣まで攻め込んでいた松本だが、野々村がオーバーラップした後のスペースを都倉に使われると、鋭い動き出しで常田の前を取った植中に流し込まれてしまった。2トップの関係性だけで崩しきった連携は見事だったし、あえてゴール前に入るタイミングを遅らせてスペースを確保し、一度ファーサイドに動き出してからニアに入る植中の動きも秀逸。シーズン10得点目を奪った今シーズンの活躍は、決してフロックではないことを証明してみせた。
新たな歴史が刻まれる
降格が決まった中ではあるが、ホーム最終戦で意地を見せたい松本は、後半から榎本樹を投入。反撃に出る。
と思いきや、立ち上がりに失点。中盤でボールを奪われると、先制点を同じように松本右サイドを起点とされてカウンターを受ける。都倉が時間を作り、オーバーラップした米田がクロスを上げると、待っていたのは完全フリーとなったウェリントン・ハット。ヘディングで押し込まれて痛恨の追加点を与えてしまう。
奪われてから得点が決まるまでおよそ14秒と速いカウンターだったのは事実だが、長崎の3人に対して5人の選手が戻っていた中であっさりネットを揺らされてしまったのは残念だった。いわゆる”安い失点”が多いのは終盤戦に勝点を拾えなかった要因のひとつだと考えているが、この場面でも人は揃っているのに守り切れない、歯がゆいシチュエーションとなってしまった。
ただ、試合への興味が90分間続いたのは、直後に宮部大己のゴールで1点差に詰め寄ったことが大きかった。システムの噛み合わせの関係でサイドで数的優位を作りやすい中で、ファーサイドでフリーになった外山凌を見ていたセルジーニョはさすが。それ以外にも、引き出した縦パスは通らなかったが、すぐに体勢を立て直してエリア内でクロスを呼び込んだ榎本。セルジーニョの右で動き出して加藤を引きつけ、マークを緩めたルカオのオフ・ザ・ボールの動き。シュートではなく、冷静に折り返す選択をした外山。最後こぼれ球に執念深く詰めていた宮部。と、ゴールに関わったすべての動きが効果的だった。
反撃の狼煙が上がったアルウィンが一層盛り上がったのは50分。佐藤和弘に代わって稲福卓が投入される。下部組織からストレートで昇格した選手が、トップチームで出場するのはクラブ史上初。松本山雅というクラブの歴史に新たな1ページが刻まれた瞬間だ。
稲福は決して消化試合だから起用されたわけではなかった。最終ラインからサイドまで顔を出せる豊富な運動量、球際での強さ、こぼれ球への嗅覚、止める蹴るという基礎技術。ボランチに求められる能力を万遍なく兼ね備えている万能型。J2で上位を張る長崎相手にも十分に通用するところを見せてくれた。そして、何より印象的だったのは、臆せず身振り手振りを交えて指示を飛ばすリーダシップ。松本山雅U-18でも主将を務めたポテンシャルを遺憾なく発揮していた彼の左腕には、うっすらとキャプテンマークが見えた気がした。
試合はこのまま1-2で終了。11試合勝利なし、最下位でシーズンを終えることとなった。
総括
評価の難しい試合だったと思う。敗れたのは事実だし、内容でも長崎のほうが一日の長があった。それでも、横山歩夢・榎本樹・稲福卓と次世代の松本山雅を担っていくであろう若手が随所に好プレーを披露し、見ごたえは十分。シーズンを通してネガティブな事柄が多かった中で、最後にほんの少しだけ、希望の光が見えた気がする。
とはいえ、最終盤に11試合勝利から遠ざかったというのは、まさに降格するチームのそれ。あっさりと失点してしまう守備は最後まで改善できず、チームとしての積み上げも乏しかった。
文字通りゼロから作り直しになるだろう。このレビューを書いている12/11時点で名波監督の続投が正式にリリースされた。降格が決まったクラブにしては、かなり早い決断だと思う。試合後のインタビューでJFLに落ちたとしても監督を続けるだけの覚悟を持って松本に来たと語っていたが、名波監督にとっては実質来季が本番。名波監督の志向するサッカーとスカッドのギャップをシーズン中に埋めることは難しかった。
今オフも相当に選手は入れ替わるだろうし、上位カテゴリーに引き抜かれる選手も出てくるだろう。サポーターとしては辛い冬になる覚悟は必要だ。
僕はTwitterでもつぶやいたが、来季も引き続きクラブを応援していく。JFLにいた時からクラブを見続けているが、ジェットコースターのようなここ10年間は本当に刺激的だった。そしてJ3という舞台に堕ちてしまったクラブが、どのような舵取りをしていくのか。個人的に非常に興味があるので、どうなるか見てみようというスタンスだ。
最後に、拙い表現も多く、やたら長いレビューを書くこともありましたが、お付き合いいただいた皆様本当にありがとうございました。
皆様の応援のおかげで、全42試合マッチレビューを書き切ることができました!
noteでスキをしてくださった方々、リツイート・いいねでリアクションしてくださった方々、コメントを下さった方々、一度でもnoteに見に来てくださった方々、本当に感謝です。
オフシーズン・来季も多分頑張ると思いますので、引き続きよろしくお願いしますmm
One Sou1
▼今シーズン書いた42試合のマッチレビューはこちら
▼Twitterはこちら