#061 プロマネのお仕事(補遺編1) 「正射必中」 - アウトプットの85%はプロセスで決まる
こんにちは。中小企業診断士の多田と申します。
前回まで 10回にわたって PMBOK の内容をまとめてきましたが、
あと数回、ちょっと違う視点からプロジェクトマネジメントの重要性について書いてみたいと思います。
初回は、デミング博士という方が提唱したプロセス重視の考え方について。
デミング博士はアメリカの方ですが、日本の弓道で使われる「正射必中」という言葉が博士の考え方を上手く表現しているように思います。
そもそもプロマネって必要なの?
前回までプロマネの仕事を見てきましたが、その内容は、大きく
(1) 立ち上げ
(2) 計画
(3) 実行
(4) 監視・コントロール
(5) 終結
の5つのプロセスに分けられます。
これらの表の中でもプロマネが特に忙しいのは (2) の計画フェーズで、ここがしっかりできていると、日々のマネジメントを楽に回すことができるようになると思います。
(そのため、立ち上げ・計画フェーズが被らなければ、複数のプロジェクトを掛け持ちするプロマネも多いと思います。)
プロマネは、実際にソフトウェアを開発したり、Web サイトに掲載する記事を書いたりすることはありません(※)。
なので、プロマネがいなくても、プロジェクトメンバーが優秀であれば成果物はできあがってくるような気もします。
(※)まあ、実際には人手が足りなくてプロマネ自ら作業に参加することもあります。
デミング博士とは
W・エドワーズ・デミング - Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/W%E3%83%BB%E3%82%A8%E3%83%89%E3%83%AF%E3%83%BC%E3%82%BA%E3%83%BB%E3%83%87%E3%83%9F%E3%83%B3%E3%82%B0
デミング博士は1900年にアメリカでお生まれになった統計学者。
戦後、日本で国勢調査の計画立案に関わるとともに、日本企業(主に製造業)の経営者向けに「統計的プロセス管理手法」という統計をベースにした品質管理手法を広めました。
この教えが日本の製造業の発展に大きな貢献をしたと言われています。
正しいプロセスが正しい結果を生む
このデミング博士の教えは、正しいマネジメント・正しいプロセスが正しいアウトプットを生む、という点で一貫しています。
デミング博士は、マネジメントの適切な原則を採用することにより、組織を向上させ、同時に(再作業、訴訟沙汰を減らし、顧客満足度を向上させることで)コストを削減できるとおっしゃった。鍵となるのは、継続的な改善を行い、製造業を断片の集まりではなくシステムとみなすことである」
(Wikipediaより)
マネジメントには「適切な原則」というものが存在し、その原則を守り、組織的な改善を行うことが重要であるとのこと。
また、
フォードが驚いたのは、デミングが品質ではなく経営のことを語りだしたことである。彼は、よりよい自動車を開発するときの問題の85%はマネジメントの責任だとした。
(Wikipediaより)
7つ目の障害
「予期せぬ結果に対し、マネジメントが設計したシステムに85%の責任があるにもかかわらず、ミスの15%しか責任がない全従業員を非難する。」
(Wikipediaより)
とあるように、マネジメントやプロセスの質が、アウトプットの85%に影響を与えると述べられています。
品質の 85% は開発プロセスで決定される
「品質はプロセスで作り込む」という考え方は、ISO9001 や CMMI などでは一般的ですが、こうした考えのベースにはデミング博士の教えによるところが大きいのではないかと思っています。
これ、我々が普段の生活の中で何か勉強するような場合も同じような気がします。自分なりの効率的な勉強の仕方(プロセス)を確立している人は、大学受験、資格試験、何をやってもうまくいくように思います。
正射必中
昨年10月、ゴディバジャパン(とても高級なチョコレート屋さん)の社長さんが講演された内容が Web に掲載されていました。
「正射必中」弓道の考え方が、ゴディバの7年で売上3倍を実現した | Agenda note (アジェンダノート)
https://agenda-note.com/conference/detail/id=2168
私のビジネスの考え方は、来日してから30年間続けている弓道に影響を受けています。弓道には「正射必中(せいしゃひっちゅう)」という言葉があります。これは、正しく射れば必ず当たるという意味で、「的に当てることではなく、正しく射ることに集中する」。そうすれば必ず結果が付いてくるという考え方です。
この文章を拝見したとき、まさにこのプロセス重視の考え方に似ているなぁと思いました。
プロセスが正しければ結果は後からついてくる。
売上げ目標だけに注目するのではなく、まずその目標を達成するための考え方やプロセスが正しいかどうかにフォーカスをあてるべきなのだと思います。
マネージャは、単に目標数値だけをメンバーに指示するのではなく、その組織が正しいプロセスで動いているか、そのプロセスに改善の余地はないか、を常に考えていかなければいけません。
そもそもプロマネって必要なの? → …ということで、とても重要です!
これまで見てきたとおり、正しいプロセスの元にプロジェクトを運営すれば(正射)、プロジェクトが成功する確率は大幅に高まる(必中)と言えると思います。
プロマネは、メンバーのように実際にアウトプットに直結する作業はしないかもしれませんが、プロセスを管理するプロマネが優秀かどうかで、プロジェクトのアウトプットは大きく変わってきてしまいます。
プロジェクトは「有期性」「特殊性」の特徴から、ルーチンワークとはマネジメントの仕方が大きく異なります。
プロマネは、日々きちんと勉強し、自分の現場にあったプロセスを試行錯誤しながら確立していく努力をしなければいけません。
まとめ。
(1) デミング博士はアメリカ生まれの統計学者・コンサルタントで、「統計的プロセス管理手法」を広めることで戦後日本の製造業の発展に大きな貢献をされた方です。
(2) デミング博士のの教えは、「正しいマネジメントや正しいシステムが正しいアウトプットを生む」という点で一貫しています。ISO9001 や CMMI などの現在では当たり前になった「品質はプロセスで作り込む」という考え方も、こうした流れに沿うものであると考えられます。
(3) 弓道の「正射必中」という言葉にもあるように、矢が的に当たったかどうかの結果だけにフォーカスするのではなく、矢を射るまでの姿勢が正しいかどうかに意識を向ける方がより重要なように思います。この考え方は、プロジェクトマネジメントにおいても同じだと考えます。
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(ここに書かれている内容はいずれも筆者の経験に基づくものではありますが、特定の会社・組織・個人を指しているものではありません。)