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#048(号外) クレイトン・クリステンセン氏逝去

イノベーションのジレンマ

こんにちは。中小企業診断士の多田と申します。

この note、普段は週に一度、毎週月曜日に更新しているのですが、今回はちょっと大きなニュースが飛び込んできましたので、割り込みで1エントリ書いておこうと思います。

クレイトン・クリステンセン氏逝去

本日(1月25日)の日経新聞より。

C・クリステンセン氏死去 「イノベーションのジレンマ」  :日本経済新聞 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO54845880V20C20A1000000/
企業のイノベーションに関する研究で知られる米ハーバード大経営大学院教授のクレイトン・クリステンセン氏が1月23日、米東部マサチューセッツ州ボストンで死去した。67歳だった。米メディアによると、白血病のため闘病生活を送っていた。

私の仕事に対する考え方、この方から非常に多くの影響を受けています。とても残念です。

クリステンセン教授の著書・業績

もっとも有名なのは「イノベーションのジレンマ」でしょうか。

ハードディスク業界におけるイノベーションの例などを通じて、「既存の企業は顧客の声を聞く余りに自社の製品・サービスをどんどん肥大化させてしまう」「その裏で、最初は顧客の要求を満たすことさえ難しい新しい技術が別の企業によって成長を続け、いずれは破壊的イノベーションとして既存のビジネスに取って代わる」という、イノベーションの法則が語られています。

ジレンマ、というのは、ある2つの選択肢がある状態で、どちらを選んでも不利益になってしまう葛藤状態のことを言います。
イノベーションのジレンマにおいては、既存の企業は、目先の顧客を重視すればいずれ破壊的イノベーションに市場を奪われてしまうし、将来の破壊的イノベーションに備えて準備をすれば目先の顧客を失うことになります。
こうした構造的な問題が、技術革新の早い分野では顕著に見られます。

なお、この著書が出されて以降、日本でも「既存のビジネスを破壊する(ディスラプトする)」といった言葉がよく聞かれるようになりました。
また、最近では、既存の大企業が自社の現在のビジネスを自分たちで破壊していくことの重要性についても議論されるようになってきています。

「イノベーションのジレンマ」との出会い

私が「イノベーションのジレンマ」という言葉にであったのは、2002年〜2003年くらいだったように記憶しています。

2000年に、京都のATRという研究所に出向し、無線やインターネットなどの新しい技術を使った「これまでに無い新しい楽器」に関する研究を行う経験をさせて頂きました。
当時の成果は、国内外の学会でも発表し、それなりの成果を出すことができたように思います。

その後2001年に現在の会社に復帰し、復帰後のミッションとして、ATR時代の研究成果を新しい商品やビジネスとして世の中に出すことに取り組んでいたのですが、ここで「会社という枠組にはまった途端に、世の中に成果を出すことが難しくなる」という壁に当たることになります。
会社の名前を背負っていないときは自分のやりたいことが思うようにできたのに、それを会社でやろうとすると急に難しくなってしまう。

なぜ自社の優れた技術がビジネスにならないのか、優れた技術があるにも関わらず世の中にイノベーションを起こせないのか。当時は私も30歳そこそこでエンジニアとしても最高にモチベーションが高まっていた時期だったので、成果が出せないことにひどく悩み、傷つきました。
当時は、人が悪いのだと思っていました。この会社にはイノベーションを起こす気が無い、世の中を変える気が無い。きっと上層部にはモチベーションの低い人がいるにちがいない、そう思っていました。

そんなときに読んだのが、この「イノベーションのジレンマ」です。

イノベーションは、モチベーションでは解決できない

この本に書いてあったのは、既存の企業においてイノベーションが起こせないのは、人の問題では無く、会社同士の構造に起因する問題であるということです。
既存の企業は、いくら社員が変わろうと努力しても、新しく出てくる新興企業には太刀打ちできず、いずれ新興企業による破壊的イノベーションに破壊される。
さらには、既存企業の社員がモチベーション高く一生懸命やればやるほど、次のビジネスに繋がるような新しいイノベーションが起きない、という点に衝撃を受けました。

仕組みを変えないといくら努力しても結果が出ない、という考え方は、その後の自分の仕事に対する考え方に大きな影響を与えていると思います。
頑張る、というのはもちろん大切ですが、所属している組織がそもそも成果がでない仕組みになってしまっているのであれば、「とりあえず頑張ってみる」というのは時間の無駄でしかありません。
問題の本質を見極めて、まず仕組みのおかしいところに手をつける。さらには、会社の仕組みを変えることが難しいのであれば、別の組織を作るか、違う組織に移る必要がある、ということを常に意識するようになりました。

思い起こせば、私が診断士の資格を取って中小企業支援のお仕事をしようと思ったのも、仕組み上大企業では不可能なことというのはたくさんあり、中小企業の利点を活かして上手く立ち回ることができれば十分大企業に勝つことができる、という確信を持っているからだと思います。

最後にクリステンセン氏のお話を伺った際の思い出

2015年11月、当時お仕事でご一緒させて頂いていた富士通さんの取り計らいで、来日したクリステンセンさんの講演を拝聴する機会をいただくことができました。
その際に伺ったのが、「イノベーションのジレンマ」を更に発展させた「イノベーションのライフサイクル」という概念です。

この概念によると、何かしらの事業というのは、
1. 「破壊的イノベーション」によって生まれ、
2. 「継続的イノベーション」によって顧客の声を反映して成長し、
3. 「効率化イノベーション」によって収益を最大化する

というライフサイクルを辿ります。

この、異なる種類のイノベーションを定義し、事業フェーズ毎に分ける、という考え方も、今の自分の仕事に対する向き合い方に大きな影響を与えていると思います。

この件については、この note の第1回に書きましたので、そちらも目を通して頂けると嬉しいです。

#001 「イノベーションセンター」はなぜうまくいかないのか|多田幸生(中小企業診断士)|note
https://note.com/yukio_tada/n/nd65f77150c09?creator_urlname=yukio_tada

まとめ。

(1) クレイトン・クリステンセン氏は、1952年アメリカ生まれの経済学者・経営学者です。主にハーバードビジネススクールにて教鞭をとられました。残念ながら2020年1月23日に白血病で逝去。享年67歳。

(2) クリステンセン氏の主な著書としては、「イノベーションのジレンマ」「イノベーションへの解」などがあります。「イノベーションのジレンマ」で述べた「破壊的イノベーション(Disruptive Innovation)」という言葉は、その後、経営における重要なテーマになりました。また、この著書が出版されたのを契機に、「ディスラプトする」という言葉もビジネスの世界でよく使われるようになったと思います。

(3) 近年では「イノベーションのライフサイクル」という概念を提案されていました。イノベーションを「破壊的イノベーション」「継続的イノベーション」「効率化イノベーション」という3つのフェーズに分けることにより、その時その時でどういう施策を打つべきがを明確にすべき、という主張です。フェーズの違いによって、リーダーに求められる役割や素養は全く異なります。この違いを意識することが組織を成長させていく上で極めて重要です。

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(ここに書かれている内容はいずれも筆者の経験に基づくものではありますが、特定の会社・組織・個人を指しているものではありません。)

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