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#064 「あつまれどうぶつの森」の仮想世界で生まれた新しいビジネス

あつ森1

こんにちは。中小企業診断士の多田と申します。

今回は、今年の3月に発売された Nintendo Switch 用ソフト「あつまれどうぶつの森(以下「あつ森」)について。
我が家でも家族それぞれ合計3本の「あつ森」が稼働中。外出できない状況の中でいい暇つぶしになっています。

今回は、その「あつ森」の仮想世界の中で新しいビジネスが生まれている、というお話です。
お金儲けのネタは色々なところにあるのだと気づかされます。

「あつ森」とはどんなゲームか

あつまれ どうぶつの森 | Nintendo Switch | 任天堂
https://www.nintendo.co.jp/switch/acbaa/index.html

「あつ森」は、自分自身のアバターが主人公となり、1ユーザーに1つ割り当てられた「無人島」に移り住んで、そこで生活をするというゲームです。
木や花を育てたり、釣りをしたり、虫を捕ったり、採ったものを売ってお金を稼いだり、稼いだお金で服や家具を買ったりして、自身の生活環境をアップグレードしていきます。

インターネットを介して他の島と行き来することができ、「あつ森」の世界の中で現実世界の友人とコミュニケーションができるのが大きな特徴で、
この「インターネットを介して他の人とコミュニケーションできる」という特徴のおかげで、以下に紹介する色々なビジネスが生まれてきています。

「あつ森」のユーザー数

先日公開された任天堂さんの決算資料に、「あつ森」の販売数が出ていました。

2020年3月期 決算説明資料
https://www.nintendo.co.jp/ir/pdf/2020/200507_3.pdf

あつ森6週セルスルー

上記のページによると、「あつ森」の発売当初6週のセルスルー(小売店から顧客に販売された数)は、1,341万本。
ものすごい数字です。
購入したユーザーがずっと遊び続けるわけではありませんが、それでも大体全世界で1000万人くらいが遊んでいるプラットフォームであると言えると思います。

国内海外比率

こちらの資料は、同じ決算説明資料にあった国内外比率の数字。
だいたい日本国内で300万人、海外で700万人くらいの割合になるようです。

これだけの数のユーザーがいると、その上でいろいろ新しいことをはじめようとする人が現れます。

事例1:  「あつ森」の雑草除去を行う会社の話

1つ目は、ゲームの中で他人の島の雑草を除去する仕事を始めた会社の話。

「あつまれ どうぶつの森」で雑草除去を代行する会社、海外で誕生
https://news.livedoor.com/article/detail/18195791/
放置していると自然と地面に発生し成長する『あつまれどうぶつの森』の「雑草」。一部のDIYなどで必要な素材ではあるものの、せっかくプレイヤーが完成させた完璧な景観を崩す存在でもあり、毎日地道に除去するのが面倒だと思うプレイヤーも少なくないはずだ。
そんな雑草の除去サービスを無償で行うという会社「WeedCo」が海外で誕生した。ユーザー名「tybat11」ことタイラン・バトン氏が海外掲示板Redditに同社の設立を発表するスレッドを数日前に立てたところ、すでに大きな反響を得ているという。

自分の島の雑草の除去をお願いしたい場合、Reddit の業者のアカウントに連絡すれば、指定の時間に自分の島に業者のキャラクターがやってきて草取りをしてくれるとのこと。また、この会社は従業員(草取り作業員)の募集もしており、同じく従業員になりたい場合も Reddit の業者のアカウントに連絡すれば良いそうです。

現在は基本的に無料のサービスですが、チップは歓迎しているとのこと。
仮想世界の上で、知らない人同士が役務の提供を通じてつながりはじめています。

事例2: 「あつ森」上で実現した指原さんの仮想握手会

指原莉乃「あつ森」で仮想握手会 アイドル時代の衣装でお出迎えに「最高すぎる」
https://www.sponichi.co.jp/entertainment/news/2020/05/02/kiji/20200502s00041000245000c.html

元 HKT48 の指原莉乃さんは、自身の島にファンの方を呼んで、チャットで会話したりする仮想の握手会を開いたそうです。
ご本人の twitter でその様子が画像付きで tweet されています。

「握手会ごっこ。 変な言葉はBANされてリテラシーしっかりしてる任天堂さんと察しのいいファンに感謝。
https://twitter.com/345__chan/status/1256411907637927937

ちなみにこの「握手会」、本物の握手会とは違って、CD を購入していないくても参加できたようです。
こちらも現時点では無料のファンサービスの一環ですが、お金を払っても仮想世界での握手会に参加したいと思うファンも多いのではないでしょうか。

事例3: 「あつ森」のインテリアコーディネーター

最近では、さらに、もっとリアルにお金が動くビジネスも登場してきているようです。

『あつまれ どうぶつの森』にてインテリアメーカーが「部屋コーデのコンサル業」を始める。お値段5200円から | AUTOMATON
https://automaton-media.com/articles/newsjp/20200506-123462/
そして多くのプレイヤーの楽しみでもあり、悩みの種でもあるのが自宅のコーディネイト。
(中略)
自身でコーディネートすることこそが本作の醍醐味であるが、そこを丸投げしたいというユーザーも、一部いることだろう。
ここにブルーオーシャンを見出したのがイギリスに拠点を置くインテリア専門企業、Olivia’sだ。同社のウェブサイトからは洗練されたチェアやテーブルを購入できる。もちろん販売されているのはあくまで「現実の」調度品。ところがOlivia’sはこのたび、新たなサービスとして『あつ森』におけるインテリアコーディネートのコンサルタントを開始する。5月4日、自社ブログにて発表した。

このサービスをはじめた Olivia's という会社(https://olivias.com/)は、実際に家具を販売している会社です。
その会社のインテリアコーディネーターに対して、「あつ森」の中の仮想世界のインテリアの相談をできるとのこと。
料金はおよそ1時間の相談で40ポンド(約5200円)だそうです。
さらに、この会社では、この業務を専門に行う「あつ森インテリアコーディネーター」の新規採用も開始しているそうです。

Olivia’s という実際の家具販売店のブランドイメージをうまく使った、とてもおもしろいビジネスだと思います。
この事業が成功するかどうかはわかりませんが、「あつ森インテリアコーディネーター」はリモート勤務が前提となるはずで、コーディネーターの資格を持っていても何らかの事情で外に働きに行けない人にとってはいい稼ぎ口になるように思います。

仮想世界ビジネスの過去事例

過去にも、こうした仮想世界での生活をビジネスにしようとする取り組みはありました。

有名なのは2005年〜2010年くらいに流行った Second Life というプラットフォーム。
アメリカの Linden Lab(リンデンラボ)という会社が作ったのですが、日本でも、電通さんあたりが大規模なプロモーションをしたことで一時話題になりました。
ユーザー数は最大で100万人くらいだったようです。

Second Life - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/Second_Life

※以下の写真は https://markezine.jp/article/detail/1254 からお借りしています。

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この Second Life、できることの多さだけに注目すれば、「あつ森」よりも上だったと思います。例えば、Second Life では、「あつ森」では不可能な以下のような機能が備わっていました。

・メタバース(参加者全員が集まる世界)
→ 参加者全員が1つの共通の土地の上で暮らすことができました。これを実現するためには、ものすごい計算リソースと複雑な処理が必要になるはずです。
・プログラミングによる拡張
→ Linden Script Language というスクリプト言語を使ってプログラミングすることで、ユーザがアイテムなどを作ることができました。
・リアルマネートレーディング
→ ゲームの中で使う通過を PayPal 経由で現金化することができました。
・ライブ配信
→ 音声ストリーミングアプリと組み合わせることで、仮想世界の中で音楽ライブを開催することができました。

当時は、電通さんのプロモーションもあって。今後こうした仮想世界でのビジネスがあたりまえになるのでは、という期待感がありましたが、残念ながら Second Life は 2010年くらいから下火になってしまいます。

「自由度が高い」「できることが多い」というのは、一見良さそうではあるのですが、その一方で「最初の敷居が高い」「次に何をしたら良いのか分からない」という難しさがあったように思います。

ちなみに、Second Life 自体は今でも存在しているようです。興味のある方は以下から体験してみるのも良いのではないかと。

Official Site | Second Life - Virtual Worlds, Virtual Reality, VR, Avatars, Free 3D Chat
https://secondlife.com/

重要なのは、導入時の UX 設計とネットワーク外部性

何かサービスを導入し、多くの人に使ってもらうためには、入口の敷居を下げて、誰でも簡単に参加できるようにすることが重要です。
そして、導入後、ユーザーに対して小さなイベントを段階的にクリアさせることで、徐々にユーザーを教育し、だんだん複雑なことができるように仕向けていきます
任天堂さんはゲームに対するこれまでの多くの知見を元に、このあたりのカスタマージャーニーを設計することが本当に上手なのだと思います。

また、プラットフォームビジネスを考えるときに重要なのが「ネットワーク外部性」という考え方です。
「ネットワーク外部性」とは、同じサービスを使用するユーザー数が増えれば増えるほど、1人1人のユーザーがそのサービスから得られる価値が増えることを言います。
「あつ森」の場合、自分の家族や知り合い、遠く離れた友達が「あつ森」をやることによって、自分が「あつ森」をやる楽しみもどんどん増えていきます。
このスパイラルにはまると、プラットフォームは一気に成長していきます。

「あつ森」の今後

現在の「あつ森」のユーザー数はおよそ1000万人。

この大きなプラットフォームの上で、今後任天堂さんがどのような策を仕掛けてくるのか本当に楽しみです。様々な新しいマネタイズの方法が考えられると思います。
例えば、現在、スマホアプリの「タヌポータル」との連携が始まっています。このスマホアプリを拡張することで、パートナー企業が自社製品に関係するデザインの壁紙や洋服を配布する、といったようなことは簡単に実現できそうです。

まとめ。

(1) 「あつまれどうぶつの森」は今年の3月に発売された Nintendo Switch 用のゲームソフト。全世界におよそ 1000万人のユーザーがいます。インターネットを介して通信をすることでキャラクター同士がお互いの島を行き来することができ、ユーザー間のコミュニケーションができる点が特徴です。

(2) 「あつ森」の上で、雑草を取ったり、アイドルが握手会をやったり、インテリアコーディネータが部屋のデザインをアドバイスしたりするビジネスが出始めています。こうしたビジネスは、これまでになかった新しい価値を提供することができるのに加え、オンラインで全て完結するため、能力があっても時間や場所の関係で働けなかった人に新しい働き方を提供できる可能性があります。

(3) 任天堂さんは、導入の敷居を下げる、導入後段階的にユーザーを教育する、といった UX の作り込みに非常に長けているため、こうしたプラットフォームの立ち上げがとてもうまく行っていると思います。加えて、友達がやっているから自分もやってみよう、というモチベーションからもユーザー数が増えていきます。今後、このようにして成長した「あつ森」プラットフォームの上でどういう展開が起きるのかがとても楽しみです。

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(ここに書かれている内容はいずれも筆者の経験に基づくものではありますが、特定の会社・組織・個人を指しているものではありません。)

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