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#084 菅政権と中小企業の統合・再編について思うこと

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こんにちは。中小企業診断士の多田と申します。

先々週の9月16日に、菅内閣が発足しました。

令和2年9月16日 菅内閣の発足 | 令和2年 | 総理の一日 | ニュース | 首相官邸ホームページ
https://www.kantei.go.jp/jp/99_suga/actions/202009/16suganaikaku.html

これを期に、
「新内閣では中小企業に対するサポートが薄くなるのでは?」
という不安を煽るようなニュースが広まっているように感じます。

発端は日本経済新聞によるインタビュー

これら一連の話の発端は、どうやら9月5日に行われた日本経済新聞によるインタビューのようです。

菅氏、中小企業の再編促す 競争力強化へ法改正検討  :日本経済新聞 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO63502940W0A900C2EA2000/

曰く、
「中小企業基本法を見直すことで、中小企業の統合・再編を促進する」
とのこと。
統合・再編が行われるということは、社長さんの数が減ると言うことです。
今現在、自社の経営に奔走されている社長さんにしてみれば、心中穏やかでは無いと思います。

中小企業基本法の見直し、とは

具体的なインタビューの内容がわからないので推測になりますが、ここで言われている「中小企業基本法の見直し」でまず行われるのは、中小企業の定義の見直しではないかと思います。

現在の中小企業基本法では、中小企業の定義は以下のように定められています。

中小企業庁:「中小企業・小規模企業者の定義」
https://www.chusho.meti.go.jp/soshiki/teigi.html

中小企業の定義

(上記画像は中小企業庁のWebサイト https://www.chusho.meti.go.jp/faq/faq/faq01_teigi.htm より)

このように、業種によって資本金の額や従業員の数で中小企業かどうか、小規模事業者かどうか、が決められています。
補助金など、中小企業者や小規模事業者にのみ認められているメリットもあるため、あえて自分の会社をこの規模に留めておこうとする経営者の方もいらっしゃるようです。

まず、この定義を変更して、より規模の大きい会社も中小企業に含まれるようにする改革はありそうに思います。

デービッド・アトキンソン氏の主張について

こうした話を遡っていくと、デービッド・アトキンソンさんの主張に行き着きます。

菅首相はアトキンソン信者、中小企業に再編圧力(ニュースイッチ) - Yahoo!ニュース https://news.yahoo.co.jp/articles/d51454658e2edd1496072f236c45f839189e6686

アトキンソンさんの論は、以下の記事がわかりやすいでしょうか。

「日本は生産性が低い」最大の原因は中小企業だ
https://toyokeizai.net/articles/-/339534

要点を抜き出すと、
・日本に限らず海外のどの国のデータを見ても、小規模事業者より中規模事業者の方が、中堅企業より大企業の方が生産性が高い。
・規模の経済は経済学の基本。企業の規模が大きくなれば余裕ができイノベーションが進む。専門性を発揮しやすく、生産性の向上に寄与しやすくなる。

ということのようです。

アトキンソン氏の論で気になるところ

全体としてあまり反論するところはありませんが、私が若干腑に落ちないのが以下の2点です。

(その1) 相関関係と因果関係がごっちゃになっていないか

会社の規模と生産性に相関がある、というのはその通りかと思うのですが、それは「相関関係」を示しているに過ぎず、必ずしも「会社の規模を大きくすれば生産性が上がる」という「因果関係」を示しているとは限りません。

#024 「因果関係」と「相関関係」と「偽相関」
https://note.com/yukio_tada/n/n4b2be9e2c1bd

(その2) 実際のところ、中小企業を再編・統合する場合の障壁は何なのか

中小企業の経営者の方だって、もちろん自社の生産性を上げたいと思っているに違いありません。さらには、自分や家族の報酬も上げたいでしょうし、社員の給料も上げてあげたいと思っているはずです。
にも関わらず、生産性が上がるはずの中小企業の統合が進まないとしたら、そこには何らかの障壁があるはずです。

実際のところ、現在でも中小の M&A 案件は多くあるようです。1社だけでは経営が厳しいので同じ業態の会社と統合したいとか、不採算の事業だけを切り出してその事業が専門の会社に譲渡したいとか、息子が会社を継ぐ気が無いので自分が元気なうちに会社をゆずりたいとか、などといった話はよく聞きます。
しかし、実際にこれらの会社のマッチングを行おうとすると、様々な問題が発生します。
例えば、対象となる2社の相性はすごく良いのに、それら2社が遠く離れているような場合。給料は今のままで良いから引っ越したくない、という社員さんの意見をどう考えれば良いでしょうか?

中小企業の統合・再編より先にできること

中小企業の生産性を上げるためには、まずは「生産性の高い企業がやっていることを取り入れる」という当たり前のことを地道にやっていくことが必要だと考えています。
その結果として統合が進むのであればもちろんそれも良いですし、統合しなくてもできることもまだまだあるように思います。

例えば、ITサービス等はどんどんクラウド化が進んでいるので、小さな企業でも大きな企業と変わらないメリットが得られるようになってきています。

「持たない経営」を意識することで、規模の小ささをカバーする

上記の IT サービスに関して、企業の生産性を上げるために、例えば社内にグループウェアを導入する場合を考えてみましょう。

仮に、あるグループウェアを使う場合、1企業あたり100万円のサーバーを社内に設置しないといけないとします。
この場合、
(A) 社員数5名の企業が2つあった場合、それぞれの会社は100万円づつ払う必要があり、1人あたり20万円のコストになります。
一方、
(B) これらの会社が合併して10名の会社になれば、1人あたり10万円のコストで済むことになります。

たしかに、この状況では、2つの会社を統合した方が生産性は高くなります。

しかし、現在はクラウドの時代です。自社内にサーバーを設置しなくても、利用者の人数に応じた月額料金を支払えば、同じサービスが受けられるようになってきています。
このようなサービスにおいては、
(A) 社員数5名の会社が2つある場合でも、
(B) これらの会社が合併して10名の会社になっても、
社員1人あたりのコストは変わりません。

これは1つの例ですが、このようなできるだけ資産を持たない経営を意識することで、小さな会社のデメリットを消すことができるのではないでしょうか。

まとめ。

(1) 9月16日に菅内閣が発足しました。菅内閣では、中小企業基本法を改正し、中小企業の統合・再編を促すような政策が実行されるようです。

(2) こうした施策は、デービッド・アトキンソン氏の主張に基づく部分が大きいと噂されています。実際、アトキンソン氏が主張するように、企業の規模と生産性との間には、明確な相関関係が見て取れます。

(3) ただし、実際には、様々な事情から企業の統合・再編は簡単なことではありません。統合・再編よりも前に、まず、生産性の高い企業のやり方をどんどん取り入れてみる、「持たない経営」をすることで、規模の小ささをカバーする、など、まだまだできることはたくさんあるのではないかと思います。

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(ここに書かれている内容はいずれも筆者の経験に基づくものではありますが、特定の会社・組織・個人を指しているものではありません。)


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