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米国商標からみる事業の状況

日本の商標法では、実際の使用の有無にかかわらず、一定の登録要件を満たせば登録によって商標権を設定する「登録主義」を採用しています。

日々ニュースなどを見ていると、これが当たり前のように思えますが、このような制度を採用していない国も存在します。

米国もこのような国の一つ。米国では「使用主義」を採用しており、登録の有無にかかわらず、実際の商標の使用によって商標権が発生します。

米国でも商標の登録制度は存在します。ただ、米国の連邦法の下での商標登録は、日本のように商標権を発生させるためのものではなく、実際の使用によって発生した商標権の効力を独占排他権として確認し、全米で万全の保護を与えようとするものです。

すなわち、米国では商標を使用した範囲で商標権が発生しますが、商標登録を受ければ、その出願日に全米で商標を使用していたとみなされるなど、権利者をより手厚く保護できる仕組みになっています。

このように商標の使用を権利発生の要件とする米国では、登録後も定期的に商標の使用状況を示す使用見本を提出して使用宣誓を行う必要があり、これを怠ると商標登録を維持することができません(米国商標法8条)。

そのため、米国での商標の登録状況は実際の商標の使用状況とリンクしており、米国での商標の登録状況を見れば、その企業の状況をある程度予測することができます。

米国特許商標庁のデータベース

米国特許商標庁(USPTO)が提供するデータベースTrademark Electronic Search System (TESS)では、米国での商標登録出願や商標登録の情報を検索できます。

スペースX社(Space Exploration Technologies)、ツイッター社(Twitter)、かつてビジネスマンであった米国大統領トランプ氏(Trump, Donald J)の検索結果を観てみましょう。

I.スペースX社

画像1


II.ツイッター社

図1


III.トランプ氏

トランプ


米国商標と関連事業の状況との関係

上述のように検索された商標には、Reg. Numberが付与されているものと、付与されていないもの、LIVEと表示されているものと、DEADと表示されているものがあります。

Reg. Numberは商標登録されたときに付与される番号。Reg. Numberが付与されているか否かで、商標登録がされているか否かが判断できます。

LIVEは出願が審査に継続しているか、商標登録が継続中であることを示します。DEADは出願拒絶や登録の失効を意味します。

これらによって各商標は以下の4つの状態に分類でき、いずれの状態にあるかで関連事業の状況を予想できます。

①商標登録がされ、現在有効なもの
Reg. Numberが付与され、LIVEと表示

②商標登録出願がされ、登録のための手続きが継続中のもの
Reg. Numberが付与されておらず、LIVEと表示

③商標登録はされたが、登録が失効しているもの
Reg. Numberが付与され、DEADと表示

④商標登録出願がされたが登録されなかったもの
Reg. Numberが付与されておらず、DEADと表示


①は実際に使用されている商標。例えば以下のものが該当します。

DRAGON
HYPERLOOP
TWITTER
PERISCOPE
TRUMP HOME
DONALD J. TRUMP SIGNATURE COLLECTION


②は始めたばかりの事業、または近いうち開始する事業に使用する商標。

STARSHIP


③は事業に使用されたものの現在は使用されていないもの。事業継続を断念した商標ともいえます。例えば、以下が該当します。

THE TRUMP SHUTTL
TRUMP STEAKS
TRUMP UNIVERSITY

ロムニー氏が列挙する「トランプ氏の失敗事業」


④は商標登録要件を満たさず登録できなかったもの、事業化の計画はあったものの具体化されなかったもの等が該当します。ただ、同じ商標で別の商品やサービスで使用が継続されているケースもあります。


スペースX社、ツイッター社およびトランプ氏の①~④の比率は大体以下のような感じです。

スペースX社
①29%
②52%
③0%
④19%

ツイッター社
①60%
②20%
③5%
④16%

トランプ氏
①22%
②0%
③35%
④43%

①を継続、②をチャレンジ、③④を撤退という見方をすると、各事業者の状況が見えてきます。

スペースX社は②チャレンジの比率が高く、①継続も多いため、果敢なチャレンジを形にしていく勢いが感じられます。

ツイッター社は①継続が多く、②チャレンジの比率が抑えられていることから、多くのサービスを長く継続しているが、ある意味行き詰まりを見せており、新規のチャレンジ比率が低いと言えます。

トランプ氏は、ビジネス面での新たなチャレンジを行っておらず、ビジネスに関して撤退傾向があることが分かります。


このように、米国での商標の状況を見ることで各企業の状況を予測することができます。企業の分析ツールの一つとして米国商標を活用してみてはいかがでしょうか。


今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。

弁理士 中村幸雄
https://yukio-nakamura.com/

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