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「あまおう」の地位は揺らぐのか──商標で守る高級いちご
2025年1月に「あまおう」の育成者権が満了するというニュースが報じられ、ちょっとした話題となっています。
甘くて大粒、ジューシーな食感と艶やかな赤色が際立つ「あまおう」は、高い販売単価で知られる高級いちごの代表格。贈答品としての人気も非常に高く、そのブランド力は日本一ともいわれるほどです。
本記事では、育成者権と商標権という2つの視点から、今後のあまおうブランドがどうなっていくのかを考えてみましょう。
今回のポイント
育成者権が切れるとどうなる?
「あまおう」が商標登録されている意味は?
育成者権の満了後、あまおうを名乗って全国で生産できるの?
「あまおう」ブランドの今後は?
そもそも「あまおう」の育成者権と商標権って何?
りょう:ゆう、「あまおう」ってイチゴ知ってる?
ゆう:うん、知ってるよ。甘くて大きいやつだよね。
りょう:そうそう、「あまおう」は、福岡県が開発したいちごで、2005年に「福岡S6号」という品種名で品種登録されてるんだ。
ゆう:え、品種登録って何?
りょう:新しい植物の品種を登録できる制度。種苗法っていう法律なんだけど、品種登録すると育成者権っていう権利がもらえる。その品種を独占的に生産・販売できる権利だね。
ゆう:誰が「あまおう」を登録しているの?
りょう:福岡県が登録していて、福岡県が育成者権を持っている。
ゆう:へーそうなんだ。
りょう:ややこしいのは、「あまおう」って名前で品種登録されているわけではないんだよね。登録されている名前は「福岡S6号」。
ゆう:福岡S6号じゃ、あんまりおいしそうじゃないね。
りょう:笑、そだね。よく知られた「あまおう」は品種名ではなく、ブランド名(商標)なんだ、「あまおう」は「あかい」「まるい」「おおきい」「うまい」の頭文字をとったもの。
ゆう:甘い王様かと思ってた、、
りょう:「甘王」って使われることもあるよ、「甘くてイチゴの王様」って感じするじゃん。実はブランド名「あまおう/甘王」は、全国農業協同組合連合会(JA全農)が商標登録しているんだ。
「あまおう/甘王」の商標登録
・登録第4615573号
・登録第4904223号
・登録第5417885号
ゆう:また、違う登録がでてきた、商標登録って何?
りょう:商品とかサービスに使うブランド名を登録できる制度。商標法って聞いたことない?商標登録すると商標権っていう権利がもらえる。登録したブランド名を登録した商品とかサービスに独占的に使える権利だね。
ゆう:JA全農がブランド名「あまおう/甘王」の権利を持っているってことね。
りょう:そうそう、「あまおう」は、種苗法と商標法の2つの法律によって保護されているんだ。
補足
種苗法で品種登録を受けた品種と同じ名称を、その品種の種苗等について商標登録することはできません。また、商標登録を受けた種苗等についての商標と同じ名称で品種登録することもできません。
育成者権が切れるとどうなる?
ゆう:ニュースでは、育成者権が2025年1月で切れるっていってたね。
りょう:そだね、育成者権が存続する限り、福岡県は「あまおう」を独占的に栽培・販売とかできるんだけどね、それが切れちゃう。
ゆう:育成者権には期限があるんだね。
りょう:イチゴみたいな品種の育成者権は、昔は品種登録日から20年できれることになってたんだよね。「あまおう」の品種登録日は2005年1月19日。だから、その20年後の2025年1月19日に「あまおう」の育成者権は消えちゃう。
ゆう:育成者権が消えちゃうとどうなるの?
りょう:福岡県が「あまおう」の栽培・販売とかを独占できなくなるね。
ゆう:じゃあ、どこでも「あまおう」作られちゃうの?
りょう:だから、福岡県とJA全農は、あまおうの苗を販売するときに「県内のみで生産する」とかの誓約を交わした生産者のみに苗を供給するらしいよ。
ゆう:それで大丈夫?
りょう:十分じゃないだろね。生産者が契約を破ったらもう苗を渡さないとか、損害を賠償してもらうとかあると思うけど、苗が持ち出されちゃった後だとね。生産者本人が契約を守ってても、誰かが横流ししちゃうなんてこともあるかも。
ゆう:じゃ、結局、いろんなとこで作られた「あまおう」が売られることになるの?
りょう:そこで活躍するのが商標権なんだ。
商標権の存在:あまおうを名乗れるのは誰?
ゆう:さっき言っていたブランド名のやつね。
りょう:そうそう、育成者権が切れても「あまおう/甘王」の商標権は有効なんだ。商標の存続期間は登録から10年ごとに更新できるから、半永久的に維持することもできる。
ゆう:結局、どうなるの?
りょう:仮に「あまおう」の苗が流出したとしても、日本国内で「あまおう/甘王」として販売することはできないんだよ。
ゆう:じゃあ、「あまおう」は今まで通りって信じていいんだね。
今回のまとめ
「あまおう」の育成者権は2025年1月に消滅するが、商標権や苗管理の仕組みによりブランドは守られる見込み。
理論上「あまおう」の品種が県外に流出する可能性があるが、「あまおう」と同じ名称で販売はできない。
あまおうブランドの重要性は依然として続く。
福岡県が誇るブランド力と生産技術に対する信頼感は高く、急激な値崩れは考えにくい。
商標権を活用したブランド戦略に加え、福岡県やJA全農による苗流出の管理体制が機能しているうちは、あまおうの高級ブランドとしての地位が大きく揺らぐことはないでしょう。
今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。
弁理士 中村幸雄
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