検品に落ちた正規ブランド品と商標権
ダイソーがFENDIの生地を無許可で販売していたとしてダイソーを運営する株式会社大創産業と仕入れ担当の20代女性社員とを商標法違反の疑いで書類送検されました。この件について掘り下げ、注意すべき点をまとめたいと思います。
今回のポイント
偽ブランド品ではなく、正規に製造されたものであっても、商標権侵害となることがあるのか?
商標権を侵害をした者にはどのような責任が科せられるのか?
今回の事件から学ぶべき注意点は?
ダイソーがFENDIの生地を販売?
りょう:え、ダイソーがFENDIの生地を売ってたの?
ゆう:そうなんだって。問題はその生地の販売がFENDIの商標権を侵害している疑いがあることなんだよね。ダイソーを運営する株式会社大創産業と仕入れ担当の20代女性社員とが商標法違反の疑いで書類送検されたらしいよ。
りょう:商標権って何?
ゆう:商標権って、商品やサービスの名前やロゴなどを独占的に使える権利のことだよ。FENDIが商標権を持っている商標を無断で使うことは違法だからね。
りょう:それってFENDIの偽物ってこと?
ゆう:警察も当初、偽ブランド品と思って捜査していたらしいんだけど、どうやらそうじゃないみたいんだ。FENDIの正規ライセンスを持った業者が傘を製造するために作った布地らしいんだよね。
りょう:本物なら問題ないんじゃないの?
ゆう:ところがそうでもなくてね。最終の製品検査でFENDIの品質基準を満たさないということで、業者に返品された不適格品の布地みたい。
りょう:なんでそれをダイソーが売ってるの?
ゆう:不適格品の布地が出回って、それをダイソーが仕入れちゃったみたい。
りょう:うん、なんかまずそうだね、笑
ゆう:ダイソーの仕入れ担当者が、仕入先の「大丈夫」って言葉をそのまま信じちゃったみたいね。
りょう:なるほどね。でも、もともとはFENDIの正規ライセンスを持った業者が製造したんだよね。どんな責任負うんだろ。。。
ダイソーの行為は商標権侵害?
りょう:そもそも、どんなとこが問題なの?
ゆう:ダイソー側のやったことが商標権侵害になるってことだね。無断で、他者が登録した商標をその指定商品等に付したり、そんな商標を付した商品を譲渡、引き渡ししたり、譲渡や引渡しのために展示や所持したりすると、商標権侵害になっちゃうんだけどね。
りょう:なになに、指定商品って?
ゆう:これFENDIが登録している商標なんだけどね、【指定商品】ってFENDIっていうブランド名を使う商品のこと。
りょう:商品も登録するってわけね。
ゆう:そうそう、FENDIがこんな商標権を持ってるから、ダイソーがFENDIの文字やロゴが入っている布地を販売(譲渡)したり、そのために店舗に陳列(展示)したり、在庫として管理(所持)することとかは、商標権侵害ってなるんだよね。
りょう:・・・でもそうなら、FENDIの正規品を仕入れて売ったり、メルカリなんかで転売することも、商標権侵害ってことにならない??違いが分かんないな・・・
ゆう:鋭いね!これらの行為が全部商標権侵害なら、それは実情にあってないよね。
りょう:そうだね
ゆう:正規品を仕入れて販売することは正当な商取引だし、そもそもFENDIがブランド名やロゴを付すのはFENDI商品を流通過程に置くためだからね。FENDIが望んだブランド名やロゴを望んだ品質の商品に付し、望んだルートで点々と流通していく限り、FENDIにとっては何も問題ないはずだよね。FENDIのブランドとして使用されてるからね。
りょう:今回のダイソーはどう違うの?
ゆう:今回の布地は、品質基準を満たさないためFENDIが「流通させない」と決めた不適格品。FENDIが流通させるつもりがなかったものだよ。FENDIは、そんな不適格品がFENDIのブランド名で流通することを望まないよね。
りょう:勝手に販売しちゃったもんね。。。
ゆう:同じFENDIブランドなのに、正規ルートと、望んでいない裏ルートがあるんじゃ、FENDIが望むブランディングできないからね。あと、ほんとは認めていない欠陥品が自社のブランド名で流通すると、ブランドにも傷がつくよね。FENDIが販売してよいと認めたって誤解されるし。
りょう:え、やばって感じだよね。
ゆう:こんな劣悪品が流通すると、ブランドを信用した消費者にとっても不利益だし。
りょう:確かにね。
ゆう:こんな風に事情はまちまちだから、商標権侵害かどうかって、形式的な行為だけで判断するんじゃなくて、実質的な違法性があるかどうかで判断するんだよね。商標法の最初にはこんな目的が書いてある。この目的に照らして、商標の本来の機能(出所を表示する機能や品質を保証する機能等)を害しているかどうかで判断することになるよ。
りょう:うーん、むずかしいことはむずかしい、笑
ゆう:今回に似た裁判例としては、ワイズ事件(大阪地裁1995年7月11日判決、判例時報1522号139頁)っていうのがあるんだよね。
りょう:なんか似てるね、、
ゆう:今回のダイソーのケースも、FENDIが流通させないことを決めたブランド品をダイソーが無断で販売したからね。商標権侵害となる可能性は高いんじゃないかな。
ダイソー側の責任は?
りょう:ダイソーってどんな責任負いそうなの?
ゆう:商標権侵害に対しては、民事上の責任と刑事上の責任があるんだよね。民事上の責任だと、販売等の差止、損害賠償、不当利得の返還、謝罪広告等だね。損害賠償や謝罪広告などは、故意(わざと)または過失(うっかり)で侵害したことが条件だけど。
りょう:わざとじゃなさそうだけど、うっかりはしてたのかな。
ゆう:特に商標法だと、商標権を侵害しただけで過失があったって推定されるんだよね。これを覆すには、ダイソー側が過失がなかったって立証する必要があるんだけど、これってすごく難しいんだよね。知りませんでした・・・じゃ済まないってこと。
りょう:ニュースじゃ警察っていってたよね。
ゆう:そうだね。刑事上の責任を視野に入れてるってことだよね。懲役とか罰金とかね。ダイソーを運営する大創産業は法人だから罰金も大きくて最大3億円ってことになってる。
りょう:うわー大変だね。
ゆう:でも、刑事罰の場合、商標権侵害が故意に行われることを必要とするからね。ニュースの内容だけだと、ダイソーもやその仕入れ担当者もわざとじゃなくて、うっかり侵害しちゃったって感じに見えるけどね。
りょう:うん、そんな気したね。でも、気をつけなきゃね。
ゆう:そうだね。商品を仕入れる前に、信頼できる仕入先かどうか、商品が正規品かどうかをしっかり調べなきゃね。商品に商標が入っている場合は特にね。FENDIみたいな超有名ブランドは特に。
りょう:そうだよね。気をつけよう。
今回のまとめ
以下が今回のまとめになります。
正規に製造されたものであっても、商標権者が市場に流通させないことを決めたブランド品(不適格品、傷物、展示用サンプル等)を、第三者が無断で販売することは商標権侵害の可能性がある。
商標権を侵害をした者は民事上・刑事上の責任を負う可能性がある。
民事上の責任として、販売差止だけではなく、損害賠償や謝罪広告等の責任も負いやすい。
刑事上の責任は故意に商標権を侵害した場合に科せられる。
法人には重い罰金が科せられる。
商標トラブルを避けるためには、正規品の取り扱いにも留意すべき。
以上ポイントをまとめました。商標トラブルを避けるためのご参考になれば幸いです。
今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。
弁理士 中村幸雄
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