ニューロダイバーシティ:なぜ日本でADHDが増えているのか
10年間で83万人増えたADHD患者
2022年の情報ですが、信州大学医学部が公表した調査結果によると、2010年から2019年の間に、日本国内では新たにADHDの患者が83万人増えたことを報告しています。特に20歳以上の伸びが約21倍となっており、顕著な数字として報告されております。そして、続けて次のことが記載されております。
大人のADHDの認知度の高まりについて、詳しく論文を読むと、どうやら2つの理由があるようです。
2013年にADHDと自閉症スペクトラムを組み合わせて診断できる「精神障害の診断と統計マニュアル(第5版)」(DSM-5)が発表されたこと
2012 年に日本で初めて ADHD の成人向け治療薬が承認されたこと
つまり、DSM-5が発表される以前はADHDと自閉症スペクトラム(ASD)の二重診断ができない状況であったものが、2013年を境に二重診断できるようになったこと、加えて診断すれば処方できる薬も承認されたことが、急激な増加に寄与しているようです。要するに、医師によって医療的な処置である「治す」という行為ができるようになったからADHDの患者が増えたことが要因に含まれていると示唆されています。
ADHD薬剤量の推移
それでは、実際に、ADHDの治療薬の数字を調べてみました。厚生労働省が公表している「向精神薬の薬剤料の推移等について」のP.54を見て頂くと明らかですが、2013年以降ADHD治療薬が大幅に増加しております。また同資料のP.55にあるように、30歳未満の若い世代に処方されていることがわかります。さらに、同資料のP.7には5歳刻みで向精神薬の薬剤料の記載がありますが、10歳から15歳に傑出してADHD薬剤料が多くなっていることが明らかです。ADHD治療薬に関していうと、大人になる少し手前の子どもたちに多く処方されていることがわかります。
国連から見た日本の子どもの権利状況
これまで示したように、2013年以降に急激にADHD患者が増加し、多くの薬剤が投与されております。その点について、国連から見た日本の子ども権利状況にも公表されております。このレポートは国連こどもの権利委員会の総括所見を受けての報告書です。このレポートにも関連することが2点記載されており、真を突いた指摘であると私は思います。
ここでいう社会的決定要因には、信州大学の論文に指摘がある点も含まれることになるだろうと思います。また非医学的形態の処遇とは、「治す」という行為以外の処置のことを意味します。後にも述べますが、「治す」ということは何か疾病があり、それを薬で解消する、あるいは、和らげるということになります。しかし、本当に「治す」必要があるのか、あるいは、「治す」対象ではなく、ありのままを受け入れるという処置が軽視されているということだと思います。
現在の日本のADHDの方への対応の仕方が、投薬という治療を最優先に実施している姿を浮き彫りにしている指摘だと思います。そして、「薬物の処方は最後の手段、かつ個別アセスメントを経た後に初めて行う」との指摘を重く受け止めるべきことだと思います。また後半の研究を実施することに関しては、信州大学の論文にも下記の記載があり、日本のADHDの方々への対処の現在地を把握するためにも、是非とも調査研究を実施してもらい、広く公表をして頂きたいです。
考察
発達障害という言葉が世の中に浸透し、一定の理解が進んできたことはよいのですが、それが障害という言葉になっているがゆえに、「正常な状態」とは異なる「欠如・欠陥」、あるいは「病状」として捉えたのだと思います。そして医療がADHDを疾病と捉えた結果、いわゆる「治す」ということに着眼点が当てられ、国連の指摘にある「非医学的形態の処遇が等閑視されている」という実態があるのだと思います。但し、これは医療機関のみが責められることではなく、私たちの社会がADHDの方を「障害」として捉え、障害を支援するために必要なこととして要請した結果、医療行為という結果になっているのだと私は思います。
ADHDは障害ではなく、脳の特性と捉え、皆が安心して生活できる環境をどのようにしたらつくれるのか、非常に大きな課題であり、チャレンジだと思います。
そして、国連からの「深刻に懸念する」という言葉を日本がどのように受け止め、その結果を今後示せるか、ここに日本のニューロダイバーシティの未来が託されていると言ってもよいかと思います。そのような社会を作り出していくために、国や議員を頼るのではなく、このNoteをご覧になって頂けている皆さま、そして、同様の問題を日々 Note で記載されている皆さまといつの日か協力し、本当のニューロダイバーシティを実現できる社会にできたら、それは本当に誇れる未来になるように思います。
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