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僕がママのところに来た理由は。8

八 会社を辞めたママ

 

 

ママが毎日行く会社には、八年くらい務めているんだ。その前も、ママはずっといろんなお仕事をしていたんだ。

 

 ママが子供の頃は、ママのお母さんを助けようと思って、学校に行く前に早起きして新聞配達したり、学校が終わってからレストランでアルバイトしたりしてたんだ。

 職場に行って働いたら、お金が貰える。

それは、とても大切なことだって、ママはずっと信じている。子供の頃からずっと。

 ママのお父さんみたいに、好きな事をして遊んでいたらお金が貰えなくて、足りなくなって、家賃が払えなくなって、ご飯が買えなくなって、とっても困るんだ。それからね、お仕事しないで遊んでばかりいると、怠け者って言われて叱られるんだ。

 だから、少しでも時間があったら、ママはお仕事をするんだ。お金が貰えない家の掃除や洗濯でも、いつも忙しそうにするんだよ。だって、じっとしていると怠け者って思われるんだもんね。

 

 僕はそんな風には思わないけど。

少しでも時間があったら、お昼寝したりしてゆっくり休めばいい。ママがゆっくり休んだら、僕が一緒に遊んであげるよ。

それにしても、ママがお昼寝しているところは、見たことがない。僕がお昼寝している時に、ママも寝てるのかな?

「ハピ。ママもね、本当はハピと一緒にお昼寝したいのよ。でもね、お家の仕事がいっぱいあって、お休みの日もあんまりゆっくりする時間がないの。

ママは、何のために生まれてきたんだろうね。お仕事して、お金儲けして、ご飯やお家のお金を払って、ご飯食べて寝て起きてまたお仕事して・・・

ずっとそうやって、死んでいくのかな?」

「ママ。僕の事、忘れてない?

僕は、ママが台所でご飯を作っている時も、お部屋の掃除をしてる時も、いつもママのことを見てるよ。

 ママが話しかけてくれると、とっても嬉しいんだ。一緒にお散歩に行くのも、とっても嬉しいんだよ。ママは、嬉しくないの?

 僕は、ママを助けるためにココに来たんだよ。」

「ママは、ハピのことが大好きよ。もっと一緒に遊びたいし、一緒にお昼寝もしたいし、お散歩もゆっくり行きたいし、ドッグランで思いっきり走らせてあげたいと思ってる。だけどね、いっぱいお仕事があって、一日がすぐに終わってしまうから、ゆっくりできないの。ハピにも淋しい思いをさせてるね。ごめんね。悪いママだね。」

 

 ママはいつも自分が悪いって思ってるんだね。どうしてだろう?

全然悪くないと僕は思うけど。

 

 ママは何をするためにココに来たんだろう?毎日忙しく働くためにココに来たんだろうか?

 それはよく分からないけど、もっと違う何かをするために、ここに来ているんじゃないかと、僕は思うんだ。

 ママもきっとそれに気が付いたんだろう。

ママは、何か勉強を始めたみたいだ。

あの時、ご主人が怒ってパソコンを壊した時に知りたかった“精神世界”の勉強をしている。とても楽しそうに毎日勉強しているぞ。勉強を進めていくうちに、ママは会社に行くことが大切なことではないと思えてきたんだって。

本当に生きていく、ということは、生活する為にお金を稼ぐ、それを消費する、それだけじゃないと思ったんだ。

ハムスターの滑車みたいにクルクルクルクル走り続けて、回り続けるような人生では終わりたくないって、そう思ったんだって。

 ママは、好きな事をしたい。お金のために会社にお勤めするんじゃなくて、好きな事をしてお金を儲けたい。と、新しいお仕事を考え始めたんだ。

 

 ママの好きな事、得意な事で、お金儲けが出来そうなこと・・・。

ママは、キラキラしたものを作るのが得意だし、大好きなので、それを作ってネットショップを始めたんだ。

 ママが作るキラキラしたネックレスやピアス、ブレスレッドは、どんどん増えていったよ。ネットショップも作って、毎日お店に商品を増やしていった。

 

 ママのお店の商品は、少しづつ売れた。そんなにたくさんではないけど、少しづつ。

ママはお店を増やして、たくさん商品が売れるように頑張っていたよ。

それから、半年くらいたって、ママは会社を辞めたんだ。八年間毎日通っていた会社。最後の出勤日は、とっても気分が良かったんだって。会社にいる大勢のお友達にさようならを言って、嬉しくて歌いながら帰って来たよ。

「ハピ。明日から、ずっとママと一緒に遊べるよ。お散歩もゆっくり行こうね。」

ママはとっても嬉しそうだった。

 

 それから、ママは毎日お家で仕事をしていた。キラキラのものを作って袋に入れて、郵便で送って。お客さんがきてくれるように、毎日パソコンでブログを書いていたよ。

キラキラのものの作り方を教えるお仕事も始めたよ。お家にお客さんが来て、みんなで楽しそうにキラキラを作るんだ。ママのお客さんは次々と増えていった。

 

暫くの間、ママのお仕事は上手く行っていたみたい。だけど、だんだんとお仕事が少なくなってきたんだ。

作っても売れなくなったキラキラのものは、どんどん増えていって、箱いっぱいになった。ママは、作るのを辞めようと思い始めたんだ。

 その代わり、ママは毎日、どこかへお出かけするようになった。お出かけから帰って来たママはとても疲れているんだ。外が真っ暗になってから帰って来る日もあって、そんな日は僕はお散歩に行けなくて、一日中サークルの中にいるんだ。

 ママはどこに行ってるんだろう?

「ママはね、またお仕事を始めたのよ。せっかくハピと毎日一緒に居られると思ったのに。ごめんね。

お家でキラキラを作って、ネットショップで売っても、お客さんに来てもらって一緒にキラキラを作っても、お金が足りなくなるのよ。

 いつかママの事業が成功して、いっぱいお金が貰えるようになったら、返そうと思って借りていたお金がもう無くなってしまったの。いくら頑張っても少しずつ減って行って。もう限界。またどこかにお仕事に行かないとお金を返すことも出来なくなったのよ。ママはね、子供の時からずっと、どこかに働きに行ってお金を儲ける事しか知らなくてね。どこかに行かないとお金が貰えない、このままじゃ足りなくなる。足りなくなったらどうしよう、って思いながら、キラキラを作ってネットショップしたりお客さんに来てもらったりしてたの。本当は、ネットショップとかしてる人は、ママの他にもいっぱいいるし、ママの作るキラキラが、そんなにたくさん売れてどこかに働きに行ってもらうお給料よりもいっぱい稼げるなんて、思ってなかったんだよね。だけど、そうなったらいいな、って。もう毎日忙しく会社に行きたくないな、と思っていただけ、だったんだね。

 心の底で思っている通りのことになってしまったのよ。

やっぱりママは、どこかに働きに行ってお給料をもらう方が安心できるのよ。

 ママが勉強した精神世界の本にもそう書いてあったわ。

 心の底で思っている通りの現実になる。ってね。」

 ママは、また毎日お仕事に出掛けるようになって、また毎日時計ばかり見るようになった。それから、また僕と遊ぶ時も忙しそうになった。

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