僕がママのところに来た理由は。16
十六 引っ越し
それからママは、毎日お家を探すようになった。僕と一緒に暮らせる新しいお家を。
お家が見つかっても、すぐにお引越しをするお金は無かったんだけど、それでも毎日、寝る前にお家を探すのが日課になっていた。
「ハピ。ママは、毎日これからハピと暮らすお家を想像してワクワクして楽しんでいるのよ。部屋の中の家具の配置を考えたりするとね、とっても楽しいのよ。」
ママは、お友達や知り合いの人に、ママが借りることが出来るお家があるか、聞いてみたんだ。
ママは自己破産してるから、お家を借りたりすることが出来ないと、思い込んでいたんだけど、本当はそうじゃなかった。保証人になってくれる人がいれば、ママだってお家を借りることが出来たんだ。
それまで、自己破産してる人は、お家を借りることが出来ない、って思い込んでいたのは、ママがこの家を出て行かなくても良い理由にしていたのかもしれないね。
現実的な不安や心配事が、本当の本当の気持ちを隠すようにして、前に進めなくさせていたのかもしれない。
「ハピの推理はすごいわね。
ママも、そう思ってたところ。
本当は、出ていきたいのか、行きたくないのか、どっちかよくわからなくなる時もあったのよ。このまま、少し我慢して、ここで暮らせば、生活に困ることはない。
生活には便利な場所だし、建物は新しくて綺麗だし、快適だし。
ママのお給料で、家賃を払えるお家となると、そうはいかないし、この先いつまで家賃を払い続けて行けるかなんて、どこにも保障はない。だったら、なんとなく自分を誤魔化してここに居るのも良いんじゃないか、ってそう
思うこともあったわ。
でもね、先日のバシャールの話を聞いて分かったの。
もし出ていくとすれば、新しいものが入って来るスペースが出来る。でも、出ていかなければ新しいものが入って来る余地はない。
だったら、新しいものが入って来るスペースを作ろう。このままこの延長線上で、死んだように生きていくのは嫌だ。
そう決めたのよ。」
ママがそう決めたら、僕たちの新しいお家が見つかったんだ。
ママは、不動産屋さんと一緒に、新しいお家を見に行った。いろいろなお家を見て、僕のお散歩がゆっくり出来そうな環境にあるお家に決めたんだ。
その時、ママの貯金は、お家を借りて引っ越しをするには少し足りなかった。でもね、不思議なことが起きたんだ。
新しいお家を借りるために必要な額のお金が、ママの所に届いたんだ。
それからママは、毎日お仕事から帰ると、段ボールに荷物を詰めて要らないモノを捨てて・・・引っ越しの準備をしていたら、あっという間に引っ越しの日が来た。
引っ越し屋さんが荷物を載せて、新しいお家に運んで行った。荷物を運び終えて、ママが迎えに来てくれるまで、僕はご主人と二人で待ってたんだ。
ご主人とは、あまり一緒に遊ばなかったし、お散歩にもいかなかったけど、僕はご主人のコトは嫌いじゃないんだ。ちょっと怖いけど。もっといっぱい遊んでおけば良かったな。
一時間くらい待ってたら、ママがお迎えに来た。僕はご主人にさよならを言って、ママの車に乗った。
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