僕がママのところに来た理由は。13
十三 ご主人の病気再発
ママが毎日お仕事に行くようになってから、一か月ほど経った。僕もママも、新しいお仕事に合わせた生活リズムに慣れてきた。
ご主人の体調も随分良くなり、このままご主人は元気になっていくんだろう。と、そう思い始めていた頃。
また、ご主人の体調が崩れた。病院で検査してもらうと、また腫瘍が出来ていることが分かった。
ご主人は、また入院して手術をすることになった。また暫くは、ママと二人の生活だ。
ご主人が居ないお家では、僕はサークルから出て、ずっとママの側にいるんだ。ママがご飯を作っているときも、お仕事をしている時もずっと。
ママはお仕事の帰りに病院に行って、ご主人の洗濯物を届けたりして、いつもより忙しそうだけど、なんとなく心はのんびりしているみたい。
「あら、やっぱりハピには分かるのね。ママはお仕事と病院と、少し時間的には忙しくなったけど、気持ちはすごく楽なの。ハピをサークルから出しても怒られないし、何をしても自由だし。大嫌いなニュースを聞かなくてもいい。
ママはね、ご主人に良い奥さんと思ってもらいたいと思っていたようだわ。何でもしてあげて、何でも言う通りにして、いつもニコニコ笑っていて。そんな良い奥さんと思ってもらいたいと。
そうじゃないと、ママがここに居る価値はない。いや、ママの価値なんてない、と思っているのよ。子供を捨てた悪いママの価値なんてないって。
だから、何でもご主人のいうことを聞いて、嫌な時でも「はい。分かりました。」と言って、その場だけを取り繕ってきたの。でもね、本当はもう疲れて、嫌になっていたのよ。」
ママ。本当はそうじゃないと思うんだ。
僕はペチャおばさんから色々お話を聞いたけど、ママは子供を捨てた悪い人なんかじゃないよ。
ママは一生懸命やって来たんでしょ。いつも良いお母さんになろう、子供たちを幸せにしよう、心配かけないように頑張ろう、って。いつも一人で戦ってきたんでしょ。
だけど、ママが願うような結果にはならいことが多かった。お仕事をいっぱいしても、お金がいっぱい貰えて、子供たちに充分に好きなものを買ってあげたり、喜ばせてあげることは出来なかった。
いつも自分一人で頑張ろうとするから、誰かに「助けて」を言わないから、苦しくなってくるんだよ。
苦しくなっても、我慢して我慢して、苦しいって言わないから、心が死んでしまって、逃げたくなるんだよ。
「ハピのいう通りね。ママは、これからは、もっとママの気持ちを大事にしてあげようと思うの。ご主人よりもママ。誰よりもママ。今までずっと後回しにしてきた、ママの本当の気持ちをよく探してあげることにするわ。」
ご主人は二週間ほど入院して、お家に帰って来た。そして、僕はまたサークルに戻った。ママの心も。
ママの心は、死んでしまってサイボーグのようになっていたけど、お仕事とご主人のご飯作りと僕のお世話は、完璧にしていたよ。だって、悪く言われたくないからね。
ママは、ママの責任を果たそうと、そして将来の希望のために、毎日を淡々とこなしていた。
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