僕がママのところに来た理由は。21
二十一 再生
退院して家に帰って来たママは、お家の方付けを始めた。
まだゆっくりしか歩けないので、お仕事には出掛けずに、お家の中を綺麗に、快適に、好きなものだけを置くことにしたんだ。
まだ使えるから勿体ないと思っていたものや、あまり必要じゃないもの、古くてもう着ない服も、もう読まない本も、全部片づけた。そうしたらね、すごくスッキリしたんだって。
ママは、これからやりたい事を考えた。
やりたいというか、やれそうな事、お金儲け出来そうな事を考えた。
いつもいつも、何かをしていないと落ち着かない。何かをしていないと焦燥感に襲われる。子供のころからずっと。一生懸命働かないとお金が無くなる・・・。
働かざる者、食うべからず。
ママは、子供の頃からずっとそう思って生きてきたんだ。ママのお母さんがいつもそう言っていたからね。
今、思うように足が動かなくなって、出来る事は何だろうと、ママは考えたんだ。どうにかしてお仕事してお金儲けしなきゃ、お金が無くなってしまう。
沢山の病院代も支払ったし、これから先、今までのようにキラキラのお仕事がいつまで出来るんだろう。
またママは、以前のように“今”ではない“先”のことを心配し始めた。
何かを差し出さないと、受け取れるものは何もない。
時間や、労働力や、知識や、自分がもっているものを何か提供しなければ、対価は得られない。
ママの中で、この考えは本当に本当に根深く染み着いていたんだ。
だから、足が動かなくても何かしなきゃ。って、ソワソワして落ち着かない。
だけど、本当にそうなのかな?
僕は、ママを見ていて本当にそうなのかなって思うよ。
ママが離婚をしてご主人の家を出た時は、どうだった?
ママは、何もしていないけど、新しいお家を借りて引っ越しをするために必要な金額と同じ額のお金を受け取ることが出来たよね。
特別なお仕事をしたわけでもないし、誰かにお願いしたわけでもない。
だけど、ぴったりの金額のお金を受け取ったんだ。
ママが、ご主人と再婚したとき。
ママは、どんな気持ちだったんだろう。
子供を捨てた悪い母親。って、自分のことを責めていたよね。
子供を捨てた悪い母親は、幸せになる資格なんてない。豊かになる資格なんてない。
こんな人生もう終わりにして死んでしまいたいって、そう思ってたよね。
だから、ママの経済はその通りになって自己破産したんだ。
豊かになってはいけない。幸せになってはいけない。もう終わりにしたい。
ママの思いが通じてる。
「ハピ。ハピはそれを教えてくれるために、ママのところに来てくれたのね。」
「ママ。やっと氣がついたんだね。僕を見てよ。僕は何かお仕事したり頑張ったり我慢したりしてる?」
「ハピは、ママのために我慢してくれることはあるかもしれない。けど、いつもハピの氣分のいいように、好きな所でお昼寝して、好きな時にご飯食べて、楽しそうにみえるわ。」
「そうだよ、ママ。僕は、いつでも僕の氣分がいいように生きてるんだ。だから、ママが大切に可愛がってくれるんでしょ。」
「ハピが、居てくれるだけで、ママはとっても幸せな気持ちになるのよ。疲れていても、ハピを撫でたりハピの顔を見るだけで、とっても癒される。」
僕は、ただそこに居るだけで、ママに愛されて、ママを癒すことが出来る。
ママたち人間だって、本当はそういう存在なんじゃないの?
「精神世界の本には、ハピの言うように、そこに居るだけで価値のある愛される存在、って書いてあるけど、本当にそうなのかしら」
じゃあね、ママ。実験してみようよ!