トップガンだけが映画じゃない、けど
トップガンでヒットしてここを読んでくださっている人がいるとして、ぼくはただのトップガンマニアだと思われるかもしれません。職業は写真家です。
写真の世界で有名な評論家スーザン・ソンタグが「二度読む価値のない本は、一度も読む価値がない」という恐ろしく切れ味の鋭い言葉を残しています。映画に関してはぼくはこれと同じ意見です。
「シックスセンス」や「ユージュアル・サスペクツ」よりも、ずっと「ショーシャンクの空に」のほうが好きなのは、どんでん返しや伏線回収だけじゃなくドラマがあるから。
ぼくと同じくらいの世代になると、「なかなか情報がなくて新しい映画は見てないんですよ」という人も多いと思います。昔は好きでね、封切りを待って見にいったんだよ、と。「クレイマー・クレイマー」や「タワーリング・インフェルノ」をリアルタイムで見ていた人たちがいまどうしているかもわかりません。
周りにもそういう人たちたくさんいます。
映画館がベストだけど、レンタルでも配信でもいいから映画はずっと見てほしい
と思うけど、オトナになるってこういうことかって理解はします。
映画の質も変わってきちゃったし。あるとき思い立って「今日は休みだから映画を観るぞ!」と近所のシネコンに行ったとして、マーヴェルのヒーローもの(しかも知ってるキャラクターがいない)と、難病をテーマにした邦画と、素敵な若い男女がポスターに出ていて青っぽい色の切ない写真に細い明朝体でひらがなのタイトルがついてる邦画と、実話がベースになってる戦争もの・・・、これだと買い物して家に帰りたくなりますよね。
そこで世代を問わず、これだったら文句なしにおすすめですよという映画を二本だけ紹介します。
「カモン・カモン」(原題は「C'mon C'mon 」)
これを撮ったマイク・ミルズのファンだからすごく楽しみにしていて、一般的には「ホアキン・フェニックスが「ジョーカー」の後で選んだのはこの映画だった」という触れ込みが有名でしょうか。どんな映画だって選べたろうに、彼はこういう映画を選んだのだってことですよね。もちろん双方に対する褒め言葉。
モノクロなので興行的には難しいところあるかもしれないけれど、ほんとうにいい映画です。内緒にしておきたいくらい、自分だけの宝物にして。
ウッディ・アレンの「マンハッタン」のムードで、ヴィム・ヴェンダースの「都会のアリス」のオマージュやってるような。昔の映画の良さを持ちつつ、現代の問題から目を背けないで、でも説教臭くない。登場人物の魅力が強いメッセージになってます。
あと映像がすごくきれい。モノクロでフラットな(メリハリが弱い)トーンにして、ここまで統一するのすごく大変なのに。丁寧で愛情を持っていて、お客さんのこと信じているんだなって思います。
マイク・ミルズは多作ではないけれど、これ気に入ったら他の作品と、あと「フランシス・ハ」という映画もぜひ。
もう一本は大きな賞もとってるから紹介するまでもないけど
「コーダ あいの歌」
いまLGBTとか人種とか、弱者を取り上げるのすごく難しい時代になっていて、そもそも誰かを弱者だっていう視点に問題があるんだ、当事者でもない人がどうこう言うなって、かならず軽く炎上します。サイードがオリエンタリズムを新たな解釈にして、「貧しい彼らは、わたしたちよりも豊かな心を持っている」という考えそのものが差別なのだって定義してから、ずっとデリケートな問題。
でも憐れむのではなく、理解しあいたいって思ったとき、映画は大きな力になるはず。大手の映画会社だと難しかったかもしれないから、そこがまずは素晴らしいです。
で、たぶんこの映画のテーマに「それぞれの場所にいる人たちが、お互いを損ねることなくわかりあう」ということがあると思います。残る人と出ていく人、若い人と歳をとった人、障がいがある人といわゆる健常者・・・。
ネタバレになりますが、自分の娘のいちばんの長所が歌のうまさなのに、その両親が耳が聞こえないって、写真家のぼくの両親が目が見えないのと同じなんだって思うと涙が止まりません。それを残酷なまでに描いて、でもハッピーエンドに持っていく。そこにあるのが音楽の力で、わかり合いたいと思う心。
最後に歌うジョニ・ミッチェルの「青春の光と影」はあまりに有名で、しかも最高の名場面(途中から生活のシーンに切り替わるところも素晴らしい)ですが、その前に発表会でデヴィッド・ボウイの「スターマン」を歌うところすごく好きです。あの子たちが生まれる前の曲のはず。もうボウイはずいぶん前に死んじゃったけど曲はこうしてずっと愛され続けている。世代を超えて。しかもあらためて歌詞を見ると、本当にすごい人だったんだと思います。
マーヴェリックを見にいくと、映画館によっても違うかもしれませんが、予告編のどれかで「スターマン」が流れて、そのときもこの映画のこと思い出しました。
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