続・ヒツジくんは高電圧の柵の中
近所にヒツジが住んでいる。
先日、息子と散歩していると、太陽光パネルの畑のヒツジが4頭に増えていた。
飼い主らしき長靴着用の男性が背の高い柵越しにヒツジを見つめながら、そばを通りかかった息子に「ほぉら、ヒツジさんがいるよ」と優しく声をかけてきた。
私が息子に追いつきざまに「ヒツジ、増えましたね」と会釈しながら話を振ると、
「今、運んで来たんです」とも。
なるほど、そばには軽トラックが停めてある。
彼らは、ここから少し離れた町のこれまた太陽光パネルの下で草を食べながら暮らしていたヒツジたちらしい。
「ここにはひどい野犬もいなさそうだし、大丈夫かなと思って移しました」と明るい笑顔。
「あの子も一頭だと寂しがるんですよね」と愛おしそうに頭をかく。
「以前この子たちがいたところはフェンスが甘くて、野犬に7頭やられました」と表情を曇らせ肩を落とす。
「だから今、そっちはフェンスの改修工事を入れているんです」と何かを振り切る笑顔!
聞いてもいないのに、ヒツジたちを取り巻く事情を次々に話して聞かせてくれた情感豊かな長靴の男性。
野犬が襲撃してきたであろう夜(夜、というのは私の勝手な憶測)のことを想像し、私はヒツジたちも大変だったんだなと、思う。
よくぞ生き延びた。
私は「また時々声をかけに来ますね」と言って息子とその場を離れた。
小雨が降り始めた。足早に家を目指す。
振り返るとカスミの向こうに、長靴の男性がいつまでもヒツジたちを見つめていた。
こうしてヒツジくんはひとりじゃなくなった。
なぜだか少しだけ、隣人の心も和んだ。
じめじめはっきりしない天気が続く。
夏の到来を告げる青い空と白い雲は見えないが、ヒツジくんは家族と一緒に今日もせっせと草をはんでいる。