忘れられないの
まだ若かったあの頃。
誰だってきっとそうであるように、私にも忘れられない人がいた。
もう二度と会えないのに。
何気ない雑踏の中で。
美しい夕焼けの下で。
澄んだ明け方の星の下で。
細く長いため息は、ぷかりと浮かんでは消えた。
本当に大事な気持ちは、とうてい言葉にできない。
カタチを与えると、それはただの「後悔」に成り下がるだけ。
だから、どうやったってこの上なく濃いため息でしか、はき出せない。
私はいつもそうだ。
本当に大事な人を、大事にできないのだ。
何度も同じことを繰り返す大バカ者だ。
いつかのドラマの忘れられないセリフ。
「後悔は、かつてそこに愛があった証」
忘れられない人。忘れたくない人。忘れてしまった人。
今にも空から雨粒が落ちてきそう。
あの日の長いため息を包み込むみたいに。