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ならさなかった指パッチン

入学式の朝のこと。

真新しい制服に、ピカピカのランドセル。

伸ばしかけの髪を二つに結い、身支度を整え、こそばゆそうに笑う娘。

夫婦そろって娘の晴れ姿を目に焼き付けようと、心待ちにしていた日がやって来たのだ。

***

不安もある。希望もある。とにもかくにも、感慨はひとしお。

束の間の春休みの間、娘と一緒に入学準備をしてきた。

布から選んで手作りしたお道具袋、シューズ入れ、コップ入れ、ナフキン入れ。

鉛筆一本一本、おはじき一つ一つへの名前付けも睡魔とたたかいながら、コツコツなんとか完成させた。

何度も持ち物を確認し、実際に娘が道具たちを使う所を想像した。

新しいお友だち出来るかな。新しい先生はどんな人かな。

良き出会いに恵まれますように。そう願う親心を込めながら。

***

入学式の受付にはまだ時間はあるが、少し早めに出発しよう。

そこへ「お母さん、白いくつはー?」玄関から響く娘の声。

「!・・・シロイ・・・クツ・・・?」一瞬で頭が真っ白になり、やがてゆっくりと白目になる私。

そうだ、値段とデザインに迷い保留にしておいた白い運動靴。

入学準備の最後に買わなきゃと心にとめていた。けれど。

買ってないわ。

【うっかりにも、ホドってものがあるでしょうが!(どうか北の国から吾郎さん風に読んでほしい)】

自分への全力のツッコミを脳内で炸裂させ、「ななななな、どどどどどどうしよう」と慌てふためく私。

娘が普段はいているのは淡いピンクのエナメル素材のVANS。

たしか学校の規定では「白い運動靴」と書いてあった。

遠目から見れば淡いピンクが白っぽいし、まあいいじゃない。VANSで行けば。

いや入学初日からエナメル素材の目立つ靴で登校させるのはちょっと・・・

んんん!あーでもない、こーでもない。

ほんの一瞬が、永遠とも感じられる逡巡。

私の心の中をかけめぐる天使と悪魔ならぬ「まあいいか」と「ねばならない」。

もはやうっかり八兵衛すぎる私に冷めた目線を送りつつも夫が、「もうユーホー(地元のホームセンター)開いてるで」と助け船。

【 それだ! 】

ふざけていると思われそうで指パッチンこそ控えさせていただいたが、私の頭上には間違いなく光が降り注いだ。パァァァァァン。

早朝から開店しているユーホーに一縷の望みを見出し、3人で駆けつける。

店内のスニーカーコーナーには緊急事態の「動物的勘」が働き最短距離で到達。

そして迷うことなくゲットしたSHUNSOKU。

車内で記名、娘の足にもジャストフィット!

感動的な朝の時間が、私のおっぺけのせいで、なんともスリリングな時間に早変わり。

肩で息をし、髪を振り乱した入学式スタイルの母親が、朝からレジで「すぐ使いますので…」といってタグを切ってもらう時の情けなさといったら・・・!ひゃっほい。

そうしてなんとか無事に(?)、入学式に間に合った私たちであった。

桜咲く正門前の写真には、ピカピカの娘の笑顔と白い運動靴が光る。

***

あれから3カ月。

週末、白い運動靴をゴシゴシ洗う娘の姿に、あの日のドタバタの朝のことを思い出し、人知れず赤面する私。

娘にとって人生で初めての「1学期」が、もうすぐ終わる。

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