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韓国の記憶➂

全州にて初日

 全州に着くとバス停までミギョンが彼氏と迎えに来てくれていた。昨年まで兵役に就いていたという彼は日本人男性にはない精悍さというか、落ちつきがあった。あとで気づいたのだが、この落ち着いた雰囲気はミギョンから紹介された韓国人男性皆に共通していた。やはり兵役のせいなのだろうか。
 そしてホテルに向かいチェックインをしようとするとミギョンがホテルはキャンセルして私の家に泊まれという。さすがにそれはちょっと無理だよと言っても聞いてくれない。親切なんだがやや迷惑でもある。でもおそらく韓国ではこれが客人に対するマナーなのかもしれないと思い応じることにした。ホテルはミギョンがキャンセルしてくれたが多分違約金が発生していたと思う。ミギョンは何も言わなかったが多分彼女が払ってくれたのだろう。
 彼女の実家はホテルから車で20分ほどの所にあった。少し離れたところに駅があり、駅の近くには繁華街らしき賑わいもあった。
 彼女の家は古い農家のような造りで庭が広くて母家の他に離れがあった。彼女はそこで暮らしているという。
 車から降りるとご両親が出迎えて下さった。韓国ドラマに出てくるような怒りっぽいお父さんではなく、すぐに感情的になる暑苦しいお母さんでもない。とても穏やかな雰囲気の優しいご両親だった(本当に涙が出るぐらい優しかった)。ミギョンの雰囲気が日本人と変わらないぐらい穏やかで物静かだから当然と言えば当然なんだろうが、韓国人家族と言えば賑やかすぎるしすぐに怒鳴り合うようなイメージがあったので少し驚いた。
 私はとにかくクタクタだったから早く横になって休みたかったのでミギョンに案内されて部屋に通してもらった。リフォームされたばかりのようなきれいな部屋で、風呂もキッチンもあり、ワンルームマンションとさほど変わらない。おまけに広い。とりあえずシャワー(全然温かくならない)を浴びさせてもらい、部屋着に着替えてようやく落ち着くことが出来た。そして布団を敷いてもらいそのままダウン。いつ眠りに落ちたのか全く記憶にない完璧な寝落ちだった。
 ところが、夜中に暑くて目が覚めた。どうやらオンドルのせいらしい。これが布団をポカポカに温めていて、どうにも暑くてたまらない。ためしに敷布団と床の間に手を入れてみたら暑くてたまらず手を引っ込めた。何とかしようにもミギョンは何故かベッド(オンドルの部屋なのに)で爆睡している。仕方なく敷布団の上に掛け布団を敷いてその上に寝ることにしたがそれでも身体が暑くてたまらない。なにせ部屋が暑いんである。試しに窓を開けてみたら外は肌が切れるんじゃないかと思うぐらい寒い。なんせ氷点下である。だがその寒さがむしろ心地よく感じるオンドルの熱さである。ミギョンには内緒で部屋の窓を閉め切らずに1cmだけ開いておいた。その夜は結局アンダーウェアのTシャツだけ着て下はショーツ姿のまま寝た。それでも暑くて寝苦しかった。