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韓国の記憶➀

仁川から全州へ

 大学生のとき、韓国語なんて全く話せないのに韓国に行った。仲良くなった留学生のユンさんの実家を訪れることになって、半年前に留学を終えて帰国していた彼女のもとに向かうために単身韓国を訪れた。
 仁川空港に着いて苦心惨憺何とか苦労しながらも入国して、バスターミナルに向かい切符を買う列に並んだ。いざ自分の番が来て切符売り場のおばちゃんに「チョンジュ」と伝えるのだけど一向に通じない。仕方がないから紙切れに「全州」と書いてみせたらどうやら漢字が読めないらしい。おばちゃんは不機嫌になって今にもキレそうな様子だったけど、漢字が読めない人がいるだなんて想像もしていなかったからひどく驚いた。
 結局友人に電話して、友人が電話越しにおばちゃんとやり取りして切符を買うことが出来た。韓国語なんて話せなくても行けば何とかなるさとタカをくくっていたから、この先どうなるんだろうと暗澹とした気持ちになった。
 高速道路を走るバスの車窓から眺める景色は日本と変わらないようにもみえて、それでも何か違う。その何かが何なのかは分からないが、違う世界にいるんだという違和感を感じさせる。
 バスは二時間ぐらい走ってサービスエリアに入った。
 そしてバスの運転手がなにやらアナウンスを始めたのだが何を言っているのかさっぱりわからなくて、周りの人達がぞろぞろとバスから降りていくのを見て、多分休憩なんだろうと気がついた。
 でも何分後に出発するかわからない。私が戻って来なくても出発してしまうかもしれない。だから慌ててトイレだけ済ませてバスに戻った。すると似たようなバスがずらりと並んでいるから自分が乗ってきたバスがどれだか分からなくなってしまった。見渡す限りハングル文字の海。何処行きのバスなのかもさっぱり分からない。さすがに途方にくれた。
 日が沈みかけている山間部の景色は寂しいけれど、何だか胸を打つものがあった。