【解説】トランプ復帰の中国共産党、習近平が目指す世界とは?
共産党一党支配の統治システム
トランプに畏怖する中国経済
トランプが戻ってくる
アメリカにおいて保守主義の象徴的存在となっているドナルド・トランプ氏が、2024年の大統領選挙に再び出馬する決意を示し、政界への復帰を目指しています。そしてハリス副大統領を破り返り咲きました。
トランプ氏は「アメリカ第一主義」を掲げ、共和党の中でも特に強硬な保守派として活動してきました。そして2020年台において、習近平氏を苦しめたアメリカの盟主です。トランプの目標は自国第一主義を前提としたアメリカ国内の経済成長と産業の保護であり、特に国内雇用の創出を重視したビジネス重視の政策を強力に推進しています。
その政治的ビジョンの中で最も注目されているのは、貿易政策です。トランプ氏は特に中国に対して強硬な姿勢をとり、貿易赤字の是正と国内産業の保護を目指しています。関税を最大60%まで引き上げる計画があり、これは中国からの輸入品に厳しい制約を課し、アメリカ国内の製造業や農業に対する影響が大きいです。この関税引き上げは、同時に海外資本の流出を防ぐ目的も持っています。
共和党の保守強行派:共和党内で影響力を高め、強硬な保守主義を推進。
自国第一主義:アメリカ国内の雇用と産業を優先する政策で、グローバルな影響よりも自国経済に重きを置く。
ビジネス主義:経済成長を促進し、ビジネスが繁栄する環境を提供することを重視。
トランプ氏の「アメリカ第一」主義は、郊外や中小企業に支持されており、彼の政策が実現することで国内の産業基盤が再構築される可能性が高まります。トランプの復帰は中国経済にも大きな痛手でもあるのです。
少しずつ経済成長が止まりつつある中国にトドメをさす政策であるかもしれないと私は考えています。ただ実際に対中自体が大統領選のキャンペーンとなっているため、大統領選後にどこまでマニフェストに書かれたことを実行するかは不明です。
習近平と毛沢東、超えられない壁
習近平のトップダウン
中国の政治体制において、習近平国家主席が権力の集中を進め、絶対的リーダーシップを確立しています。2014年には、国家主席と国家副主席の任期が2期10年に制限されていましたが、現在ではこの制限が撤廃され、習近平氏が事実上の終身制に近い体制を手に入れました。
このような長期政権の実現により、中国共産党の中央集権化が一層進んでいます。
そして既に党中央には汪洋氏や李克強氏、胡春華氏など共青団出身の人が一層され、全て習近平に近い方や無派閥の方です。
習近平氏の権力集中は、毛沢東時代を彷彿とさせると批判されることもあり、国内外で注目を集めています。しかし毛沢東のような長期政権になれるかは分かりません。
2014年時点:国家主席と国家副主席の任期は2期10年に制限されていた。
現在:国家主席と国家副主席の任期制限が撤廃され、習近平氏は長期政権の基盤を築く。
権力の集中:毛沢東以来の権力を持ち、強固な支配体制を確立。
習近平氏が尊敬する毛沢東は、21年にわたって中国を支配しましたが、習近平氏が同様に長期間にわたるリーダーシップを継続することは、党内外で賛否が分かれる問題です。中国は今後、長期的な統治のもとでどのように国内外の課題に対応するかが注目されます。
習近平と経済
不動産バブルの崩壊と不況
かつて急成長を遂げた中国経済は、近年成長の鈍化が懸念されています。その背景には、長期にわたる人口増加が20年代で頭打ちとなり、いわゆる「人口ボーナス」の時代が終焉を迎えたことがあります。中国の人口は現在14億人に達しており、今後は減少が見込まれるため、経済成長の基盤である消費と労働力の供給が減少し、経済に深刻な影響を与える可能性があります。
また、人口減少と並行して、不動産バブルの崩壊も大きな課題となっています。中国では長年、不動産市場が過剰な投資の対象となってきましたが、供給過剰と価格高騰が続いた結果、バブルが生まれ、現在その崩壊が進行しています。不動産業界は深刻な不況に陥っており、地方経済にも大きな影響を与えています。多くの地方政府は不動産売買によって税収を確保してきましたが、現在は財政難に直面しており、経済全体に暗い影を落としています。
人口増加のピーク:14億人で止まり、今後は減少が予測される。
不動産バブル:長年の投資過剰と価格上昇により、不動産市場が崩壊。
経済への影響:人口減少が進行する中、経済全体の停滞が進行。
不動産バブルの崩壊により、多くの企業が財政的な困難に直面し、失業率の上昇や消費の減少が懸念されています。さらに、地方政府が財政難に直面する中で、公共サービスの低下や社会保障制度の弱体化も予想され、国民の生活への影響が広がっています。
中でも私が気がかりなのは中国の若年層の失業率です。若者の失業が増えることはまさしく中国のデフレを示すものであり、欧米メディアが報じるものと国内メディアが報じるもの、現実とそれぞれ乖離するものが大きいと考えられるでしょう。
反スパイ法の制定
反スパイ法の制定
中国は近年、国家安全保障を強化するために反スパイ法を制定し、外国企業や外国人の活動に対する監視を強化しています。残念ながら母国へ帰れない方もいます。反スパイ法の施行により、外国人や外国企業がスパイ行為と見なされるリスクが高まり、ビジネス活動にも影響が出ています。例えば日本のアステラス製薬の社員がスパイ行為に関与したとして逮捕され、今年実刑判決を受けたことが大きなニュースとなりました。
この法律は、単なるスパイ行為だけでなく、軍事施設の写真撮影や手書きの地図作成、ウイグルや台湾に関する話題に触れることも違法とされるリスクがあり、多くの外国人が無意識のうちに違反してしまう可能性が指摘されています。これにより、外国企業は中国でのビジネス活動に慎重にならざるを得ない状況が生まれています。
対象行為:軍事施設の写真、手書きの地図、ウイグルや台湾に関する会話。
外国企業への影響:企業活動が制限され、情報収集やマーケット調査が難航。
国内での取り締まり強化:安全保障を名目に外国企業や外国人の行動を厳格に監視。
日本の経済界にとっては中国の反スパイ法が何を違法と示しているか不明瞭であり、該当するものを例示することが好ましいと言えるはずです。それがなければいけない。
この反スパイ法の導入は、外国企業にとってリスクが増すと同時に、海外からの投資が減少する可能性を高めています。外国企業は今後、中国でのビジネス展開に対してさらに慎重なアプローチをとる必要があるでしょう。
政府の縮小、党の権力強化
No.2首相の弱体化
習近平政権では、首相の権限が縮小され、国務院(政府)の権力が制限されています。李強首相はもはや「名目上のリーダー」に過ぎず、実質的な政策決定権が大幅に削減されています。特に、全人代の後に行われる首相の記者会見が廃止され、国務院の権威がさらに低下しています。
中国共産党の中央委員会が国務院を上回る権力を持ち、実際には党中央が政府を指導する体制が強化されています。このため、李強首相の役割は単なる経済顧問に近いものであり、実際の政策決定にはほとんど関与できない状況です。党中央は「党の指導に絶対従う」方針を強調し、政府機関が党の支配下に完全に組み込まれる形となっています。
記者会見の廃止:全人代後の首相の記者会見が廃止され、首相の発言の場が制限。
党中央の権威:国務院の権限が中央委員会に集中し、党中央の指導に従う。
習近平国家主席の思想:党の方針を全面的に支持し、政府は党の下部組織と化している。
習近平氏の指導のもと、中国の政治体制は中央集権化が加速しています。李強首相の役割は制約され、党の指示に従うだけの存在となっていることが、今後の中国の政策にも影響を及ぼすでしょう。
また党の権限が強化されたこともあり、習近平氏の側近である蔡奇氏の行動にも注目です。この辺りが習近平氏に変わる党の実務者を指示するキーパーソンとなるかもしれません。
改革開放見出せず
3中全会で改革開放見出せず
2023年の3中全会で、習近平政権は国家安全保障を最優先に掲げ、経済成長や改革開放の議論をほとんど行いませんでした。これにより、中国は経済の自由化よりも国家の統制を優先する方針が一層明確化しました。特に、反スパイ法や汚職摘発、戦狼外交などが議題に上り、国内の安定を重視する姿勢が強調されました。
安全保障政策:
反スパイ法の制定:国家安全のための外国勢力排除を目的とした厳格な法制度。
汚職摘発:党内の腐敗を防止し、統制を強化する。
戦狼外交:国際社会での強硬姿勢を貫き、中国の立場を堅持。
ウイグル統治:少数民族に対する徹底的な管理と治安維持。
経済政策:
金融緩和:景気を支えるための金融政策。
売れ残り住宅の買い取り:不動産バブル崩壊の影響を抑えるための対策。
株価対策:市場の安定を図るための支援策を実施。
この3中全会で経済政策が後回しにされたことで、中国は国家統制を一層強化していく方向性が明確になりました。今後も安全保障を優先する政策が継続される可能性が高いです。
四中全会は対トランプの世界線で
大統領選挙後の4中全会
次に予定される4中全会では、国家ガバナンスや経済政策について議論が行われる予定です。特に、3中全会で扱われなかった経済政策がここで再び取り上げられるかが注目されています。中国の長期的な経済発展を支えるため、国家ガバナンスの近代化や特色ある社会主義制度の改善が議論される見込みです。
国家ガバナンスの近代化:中国独自の社会主義体制を改革し、安定的な発展を図る。
経済政策の行方:経済成長を重視した政策が復活するかが焦点。
中国共産党の長期ビジョン:国内の課題に対する党の対応方針を議論。
国内外の投資家や企業は4中全会の決定に注目しており、ここでの議論が中国経済の将来を左右する重要なポイントとなります。
コラム:グローバル経済への影響
中国経済の不調や不動産市場の崩壊が、世界経済にどのような影響を与えるかが注目されています。中国は世界第二の経済大国であり、多くの国にとって最大の貿易相手国です。したがって、中国の経済減速は輸出産業や貿易に依存する他国にも影響を及ぼし、世界的な景気後退の要因となり得ます。
コラム:中小企業への影響
中国国内での厳しい統制は、特に中小企業に大きな負担を与えています。反スパイ法や汚職摘発、税制の変更などが中小企業の活動を制約し、経済活動を制限する要因となっています。これにより、国内の中小企業がどのように成長するのかが疑問視されています。
コラム:習近平政権の長期戦略
習近平氏は「中国の夢」を掲げ、2049年までに中国を世界のリーダーにするという長期的なビジョンを持っています。彼の長期戦略には、一党支配体制の強化、軍事力の拡大、経済成長の持続が含まれていますが、その道筋には多くの課題とリスクが伴います。
また4期目の可能性が高い習近平氏ですが、チャイナセブンの誰を留任させ、高齢化する側近やかつての部下意外に誰を務めさせるかもカギでしょう。
例えば王毅外交部長は仮に2027年まで外交部長を務めれば74歳です。既に定年を超えているため、おそらく外れることになりますが、有力な後継は狐狩りで知られる劉建超氏の可能性は高いでしょう。
経済も国防も習近平の側近やかつての部下を務めた方で政策通だと、リソースに限りがあります。4期目は習近平の側近の大半が引退の68歳を迎えるため、本当に中国の政治情勢が不安視されるでしょう。