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失神した子供時代から温泉を吸い込むほどまでに愛すようになった源泉かけ流し
5(ごくじょうな)月26(ふろ)の日ということで本日5月26日は源泉かけ流し温泉の日。
源泉かけ流しとは、源泉(温泉水)を浴槽に流し続ける状態のことをいう。
生まれ育った秋田県は温泉の宝庫で、小さいときから温泉は身近にあったと聞けば、さぞかし温泉好きな子どもだったろうと思われるだろうが、どっこい温泉が大嫌いだった。
入浴するのも匂いをかぐのも全力で拒否していた女子が温泉水をシミシミにした手ぬぐいを昔の泥棒のように鼻の下で結んで帰るほど愛すようになり、さらに後継者不足により温泉がどんどん廃業していくのをなんとかせねばと思うも、なんともできないもどかしさで胸がぐるんぐるんになっているという話。
卵の腐った匂いで気絶しそうだった2時間のバス旅
団塊ジュニア世代真っ只中に生まれた私は、町内のどこを歩いていても子どもの笑い声があちらこちらにあふれ、町内の老人会員よりも子供会員のほうが多かったほど、子どもだらけの中で育った。
今では70越えの栄吉(父)が定員オーバーで老人会に入れず、いまだ青年会に所属しなければならないほど老人しかいない町内になってしまった。
泣く子はいねが~となまはげが来ても、泣く子供がほんとにいないのでなまはげの存続を心配している次第だ。
学校の行事と同じくらい、子供会の活動も活発で、秋田県人の究極のコミュニケーション活動といわれる「なべっこ遠足」は春、夏、秋と3回も行われ、町内会の運動会、ラジオ体操などなど、とにかくいろんな行事が行われ
次の行事は何かな~と新聞よりも町内会報誌が届くのを心待ちにしていた。
その中でもダントツでお気に入りだったのが「スキー教室」。
教室といっても、免許もなにも持たないただのスキー自慢のお父さんたちが子供たちをスキーに連れて行ってくれるというもので、町内会なのに観光バス2台でいくほどの盛り上がり。
秋田生まれ秋田育ちなのにスキーを滑れない恵子(母)まで参加するほど、子どもだけでなく、大人たちにも大人気の行事だった。
なぜ恵子が来たかというとスキー場の近くに源泉かけ流しの温泉があるからだ。ママ友たちと温泉入りながらべちゃくちゃしゃべりにくるだけで、ゲレンデには一切登場しない。
足を揃えて颯爽とすべる、いわゆるパラレルという滑りを披露し、さんざん子供たちにマウントをとるだけでちっとも指導をしないお父さんたちもランチとともに酒が入り、午後は誰もゲレンデには来ない。
午後は子供たちが勝手にすべりキャッキャし、親共は、酒、温泉三昧。
子供も大人もウィンウィンの行事というわけだ。
さて、大人たちが堪能しまくった源泉かけ流し温泉。
この温泉、厄介なことに硫黄泉なのである。
よく卵が腐った匂いがすると言われる硫黄泉だが、朝から晩まで頭の先から足先まで、硫黄まみれになった大人たちの体から放たれる匂いといったら。
おそらく硫黄泉だけでなく、酒、加齢臭などが相まみれ恐ろしい匂いになっていたのだ。そのカオスになった匂いを放ちながらバスに乗り込む大人たち。
一番後ろの座席に固まって座り、眠りこけてた子供たちが一斉に起きるほどの匂い。バスの扉が閉まると、暖房でさらに匂いが充満し後部座席に硫黄の香りが押し寄せてくる。
酒が入った大人たち、鼻がつまっていたり、匂いに敏感ではない一部の子供らは爆睡しているが、嗅覚が犬並みと自負する私はたまったもんじゃない。
すると隣に座っている友達が
はぁはぁ
と息苦しそうにしている。
どうしたのかと聞くと、鼻で息をすると臭いから口で息をしているという。
それはいいアイデア!とばかりに二人ではぁはぁしていると、栄吉(父)がどうしたとやってきた。
来るな!来るな!とゼスチャーしてるのに
「なんか、苦しそうだな」
あろうことか硫黄まみれになった両手で顔を包んだその瞬間、犬並みの嗅覚を誇る鼻が硫黄を一気に吸い込み、そして意識を失った。
もちろん、隣の友人にも硫黄まみれの手で顔を包むという余計なことをしたばっかりに、その後ぶっ倒れたらしい。
かくして栄吉は、二人は自分が優しく快方したおかげで安心して眠りについたと自画自賛をし、席に戻ったが自宅にたどりつくまでの2時間、私らは白目をむいていた。
この体験がトラウマとなり温泉と聞くと=硫黄泉になり、温泉嫌いになってしまったのだ。
ニュージーランドで温泉の癒し効果を知る
温泉嫌いのまま、高校を卒業しシティーガールになるべく東京に進出。
20代前半は、温泉旅行よりも海だ、プールだと水着を着て、わがままバディーを披露して歩いていた。
そんなキラキラ青春時代をおう歌している中、ひょんなところからニュージーランド行きが決まる。特に何も調べもせず、海外で生活できる~とルンルンでいった先にあったのは羊と山、そして温泉。
当時、温泉は日本特有のものと思い込んでいたため海外に温泉があることに驚いた。温泉嫌いがわざわざ温泉に行く理由もなく、スルーしていたのだがそのほかにすることといえば羊と山。
羊と遊ぶこともできないので、友人に誘われるがまま山登りを始めた。
山登り、海外ではトレッキングとかっこいい言葉があるのだが、山登って何が楽しいんだよとぶ~ぶ~言いながら登っていたのだが、ニュージーランドのトレッキングコースがとにかく美しい。
何より、道が整備され、歩きやすい、山小屋の掃除が行き届いていて清潔。
ということであれよあれよとはまっていき、はまるとしつこい私は、毎週末トレッキングをするほどになった。
そんなある日。ニュージーランド南島にあるコップランドトラックに行こうと誘われた。どんなトラックであれ、トレッキング病にかかっていた私は二つ返事でOK。
すると友人が
「水着持ってきてね!1泊目の山小屋のところに温泉があるの!すごいよね」
というではないか。
温泉なのに水着?いや、そもそも温泉はいらね~しと、温泉は入らないと返事すると
「いや、絶対に入るべき、とにかく持ってきて!」
というので、渋々持って行った。
真夏のトレッキングは山とはいえとにかく熱い。
吊り橋をわたり、うっそうとおいしげる原生林の中をぬけ、汗だくになりながら山小屋に到着。水シャワーでいいから汗を流したい!と思いつつ着替えようとすると
レッツゴー、ホットスプリング~
と言いながら水着に着替える友人。
あ、温泉があるんだった。
この暑いのに温泉か・・・でも、とにかく汗を流したい、Tシャツ脱ぎたいと水着に着替えて温泉へ。
山小屋から砂利道を歩いて1分、湯けむりが見えてきたが、うん?野天風呂?
山の中の池という感じで脱衣所も何もない。
ただの池。
しかも老若男女あいまみれて入っている。
だから水着なのか。
温泉というと素っ裸で入るモノという先入観があるため、温泉という気はしないが湯けむりは温泉そのもの。
本物の野天風呂なので、足をいれるとにゅるっとした感触。
底が泥になっているのだ。
ちょうどいい深さで、座ることもできる。ただ、もれなくお尻も泥だらけになる。
泥だらけで気持ち悪いな~と最初は思っていたものの、お湯に体を預けていると疲れがす~っととれていくようで、気持ちいい。日が沈んでくると空気が冷たくなり顔をなでる風が心地よい。
何より卵の腐った匂いが全くしない!
源泉が下から湧いているからか下からポコポコと泡が出てくる。足を心地よく刺激するもんだから疲れがとれるのなんの。
湯けむりに包まれてウトウトしてしまったほど。
おじいちゃんやおばあちゃんが
「温泉に入ると疲れがとれるのよね~」
とよくいっていたが、初めて温泉の気持ちよさを知った。
しつこいがほんとに気持ちがいい。
温度も40度くらいで長湯できるのだ。
しか~し、真夏の森というのは虫がつきもの。
頭を数か所さされ、激しいかゆみに襲われたので後ろ髪惹かれながら温泉を後にする。
虫さされのせいで癒し効果は半減したものの、温泉の良さを知ってしまった私は、その後、トレッキングを卒業し、ニュージーランドの温泉巡りデビューを果たす。
日本とは違い男女混浴、誰かが作った無料の野天風呂もあちらこちらにあり
楽しいのなんの。
温泉のすばらしさをニュージーランドで知ったのである。
新鮮なお湯がドバドバ流れるオーバーフローの心地よさ
すっかり温泉に魅了されて日本に、いや秋田に帰郷し、さっそく両親に温泉行きを催促。
あれほど温泉嫌いだった娘が、外国で温泉好きになって帰ってくるとは思いもよらなかったようでかなりの驚きようだった。
が、そこは意地悪父ちゃん。
なんと連れていかれたのはあの小学校のときに通ったスキー場近くの硫黄泉。
温泉が好きになったら当然、大丈夫だよなといわんばかりのどや顔で娘を見る。
年を取ると肉より魚とか味覚が変わるというが嗅覚も変わるらしい。
実は車の中で、なんかいい香りがしてきたなと思っていたのだ。
恐るべし嗅覚変化。
脱衣所に近づくにつれ硫黄の匂いが強くなってくる。
匂いが強くなればなるほど高揚感も高まる。
そして、浴室の扉を開けた瞬間、ぶわ~っと湯けむりとともに硫黄の香りが解き放たれた!
なんとかぐわしい。
こんな素晴らしい癒し効果抜群の香りをかいでなかったななんてもったいない!とまで思った。年を取るのも悪くないのう。
肌にお湯を滑らせると湯の花効果もありとろ~りすべすべ。
お湯を救い両手で顔を包むと硫黄の香りをこれでもかと感じられる。昔、失神したとは信じられない!
ただ、源泉温度が熱いため、ずっと入ってられない。
しかも、温泉成分が濃いほど体力も消耗するので長湯厳禁なのだ。
と思いついたのが、タオルの硫黄泉づけ。
作り方は簡単。
おけに温泉をいれ、タオルをひたひたに浸す。
ゆる~く絞って、ビニール袋にいれて持ち帰り!
帰りの車の中、ビニール袋に顔を突っ込んでいる姿はかなり危ない。
法律違反のなにかをかいでるんじゃないかというほどの依存ぶり。
一気に硫黄泉ブームに突入した私は、硫黄泉めぐりをし、ビニール袋に硫黄泉の香りを詰め込んで帰るというよくわからないルーティンを楽しんでいたが、両親が高齢になってくるにつれ、
「温泉入ったあとの車の運転は疲れる。もう長距離運転したくない」
といわれ、秘湯にいくには往復運転せざるを得なくなった。
ここで問題勃発。ビニール袋に顔を突っ込んだまま運転はできない、さて、どうするゆきんこ!
と編み出したのが、泥棒巻き。
手ぬぐいで頭をくるりと包み、鼻の下で結ぶやつだ。
タオルだと結べないので、手ぬぐいを調達し、硫黄泉に浸し、ぎっちり絞って泥棒巻きをして帰るようになった。自分のひらめきに驚くばかり。
「そうまでして硫黄泉かぎたいの?変な子」
と母親はかなり怪訝な顔をしていたが、そうまでしてかぎたいのだ硫黄泉を。
と硫黄泉にはまりつつも、温泉自体も好きになりあちらこちらの温泉めぐりをするようになる。
そんな中、次にハマったのがオーバーフロー。
豊富な湯量を誇る温泉地は、源泉かけ流し、いや垂れ流し。
新鮮なお湯がドバドバ流れる中入る気持ちよさよ。
鹿児島の秀水湯でドッパドッパのオーバーフローのお湯を体験してからというものオーバーフローに魅了されている。
東北にもどこかないかな~といろいろ探した中、見つけたのが古遠部温泉。
10年前に発見し、秋田に帰省するたびにわざわざ車で2時間もかけて通うほどお気に入りのオーバーフロー温泉なのだが、なんと2023年5月末で営業を終了するという。
古遠部温泉の復活を願う
秋田県との県境、秋田犬やきりたんぽの聖地大館市にほど近い場所にある古遠部温泉は温泉マニア激押しの人気の秘湯温泉。
HPによると毎分500Lものお湯がボンボン湯舟に注がれ、湯舟に収まりきれないお湯がどんどんこぼれるいわゆるオーバーフロー状態で温泉が楽しめる。
ということで床に寝転がって寝る「トド寝」ができる温泉として有名だ。
正直、トド寝ができるほど広くはないのでトド寝をしたことはないのだが、お湯がとにかく柔らかい。
そして、42度とちょうどよい温度。
山の中にあるので窓をあけると涼しい風がふわ~っと入りいつまでも入っていられる。
コロナ禍でなかなか気軽に行けなかった温泉。
今年のGWは久しぶりに古遠部に行くぞと意気揚々としていた3月。
「古遠部温泉 事業継承者募集」を知る。
な、なんと!
高齢になったということと、交通事故で体の限界を感じたことがやめるきっかけになったという。
こういうニュースがあると最後だから入りに行かなくちゃ!と思う全国の温泉ファンが押し掛けるだろうとは思ったが、やっぱり行かないという選択肢はない。
5月末でやめるとはいえ、温泉が枯渇しているわけではない。
いつもどおり新鮮なお湯がドバドバ流れている。
次はないんだと思うとなかなか出られない。
いつも受付の窓が閉まっていて、気軽にトーキングできるオーナーではないものの、どうしても先行きが気になり、ベルを押す。
6月以降について聞いてみると
「まだ決まっていないんです。ひとまず5月末で終了です。もし、次の人が決まればリニューアル期間になるのでいずれにせよしばらく入れないですね」
うん?リニューアル期間。
もしかしたら決まるかもしれないところまではいっているのか?
とかすかに期待をしてしまう。
古遠部温泉だけでなく、各地の温泉で後継者不足で廃業が続いているニュースを見聞きする。
両親が通っていた地元の温泉というかお風呂もボイラー故障を修理する費用が捻出できず閉館となったという。
帰りの車の中で恵子(母)が寂しく言った言葉が忘れられない。
「年とってくるとお風呂掃除が面倒でね。しかも、お風呂場が寒いでしょ。
やっぱり脱衣所も浴室も温かくて広いお風呂に入れるって気持ちいいのよ。
しかも、ここに来るとお友達ともあえるし、お風呂場でいろんなこともしゃべれるし一人じゃないって思える。温泉がなくなるのはいろんな意味で寂しいわ」
温泉は観光客の日々の疲れを癒すためだけじゃない。
地域の人と人をつなぎ、生きる力を授けてくれる役割も果たしているのだ。
とはいえ、温泉を買い取れる財力もなければ、移住して守ることもできない。
ただ、こうして発信することはできる。
発信することで一人でも多くの人に気づいてもらい、新たな活路が見いだせればうれしい。
運転できる限り、さまざまな温泉に浸かり匂いをかぎ泥棒巻きで帰る幸せを感じ続けたい。
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