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てんこ小豆で広まった初潮
お赤飯。それはおめでたい日やお祝い事には欠かせない料理だ。
もち米のもちもち食感と小豆の甘味、ほんのり塩がきいた赤飯は大好物だったのだが、ある時から赤飯を見ると、恥ずかしい気分になるようになった。
小学校6年生ころから中学1年生ころにかけて、同級生が少女から大人の女性になっていた。かわいい小袋にウィスパーを仕込み、いつきてもいいように準備をしている。
「わたし、量が多いから気になっちゃうの」
量が多いと何が気になるというのだ。そう。わたしは初潮が遅かった。
違う意味で、フィリックスザキャットの小袋にウィスパーを仕込み、いつきてもいいように準備をしていた。
が、1年たってもなんの予兆もなく、フィリックスザキャットの小袋に入ったウィスパーの袋が持ち運びすぎて、ウィスパーの文字が消えかけていた中学2年の冬。その時がきた。
冬休み最終日の朝。おなかが痛い。昨日、食べすぎたからか・・・と外と同じくらいの気温じゃないかというほど冷え切った廊下をすたすたと歩き、トイレに座る。
おなかが痛いのに、出ぬ。なぜだ・・・
と立ち上がろうとしたときに、赤いものがとろりと出た。
あんなに待ち焦がれていたのに、初潮と気づかずに、起きてきた母親に
「赤いものがとろりと出た」
というと、
「やだ~、やだ~!よかったじゃない!あんなに悩んでて・・・もうお母さんも何気に悩んでたんだから。やだ~やだ~、ね~お父さん~」
と夫婦の寝室に行ってしまった。
あの、赤いものが・・・とトイレに戻り、トイレットペーパーを仕込む。
今度は、起きてきたおばあちゃんに
「ばあちゃん、赤いものがとろりと出た」
すると、いきなりあたふたし初め
「おやおやおや、そいだばいけね、朝から忙しくなるど」
と台所に行ってしまった。あのう、わたし、どうしたら?
とここでやっと、仕込んでいたウィスパーの出番がきたことに気づき、かばんに忍ばせていた、フィリックスザキャットの小袋を持参してトイレにいく。
友達から使い方を聞いていたからばっちり。ウィスパー装着が完了し、安心したせいか、また眠くなり、ベッドにもぐりこんだ。
冬休み最終日はゆっくり寝るぞと、いつまでもごろごろしていたら、弟が部屋に入ってきた。
「ねえちゃんが女の人になったから今日はお祝いっていって、ばあちゃんが赤飯炊いてくれたよ。おいしかった~」
な、なんですと。弟はよくわからないが、赤飯をたらふく食べられて幸せ顔だった。
慌てて下に降りていくと、お父さんもお母さんもおばあちゃんもおじいちゃんもみんなにこにこして
「よかったな~おめでとう」
とうれしそう。確かにずっと待ち焦がれてはいたが、おめでとうって・・・めでたいのか?いや、めでたい。これで女であることが証明されたのだ。
そうだ、めでたいぞ!と赤飯をむしゃむしゃと食べた。
冬休みが終わり、大人の階段を登った1日目。
なんだか景色が違う気がする。と、ルンルン気分で投稿。友人たちは、2日目はお腹が痛いとおどしていたものの、まったく痛くもかゆくもなく健康そのもの。量が気になるくらいだ。(←やっと理由がわかる)早速、友人たちに
「今日、あれなの~」
と自慢げに言おうと思ったら、友達から
「ちょっと、あんた昨日、なったんだって?!よかったじゃん。フィリックスザキャットやっと使えたね」
ちょっと待て、なぜ知っている。
するとクラスのみんながなんだかお祝いムード。
友人曰く、私と同じ町内に住む男子Aの家に、おばあちゃんが赤飯をもって自慢しにいったらしく、瞬く間に広まったそうな。
好きな男子にまでお祝いされて、恥ずかしいったらありゃしない。
今でも同窓会で集まると
「ゆきんこは、中学2年の冬だったよな。おれの娘、小学校5年生できたと嫁がいってた。」
と言われたりする。今となってはいつまでも飽きないネタを提供できてありがたき幸せであるが、中学校卒業するまで、
「おめ、今日、あれだべ?」
と30日ごとにいわれて、がっくりしていた。
学校から帰って、すぐさまばあちゃんに、
「信じられない、ありえない、ばあちゃんなんて嫌いだ」
とさんざん罵倒して、ばあちゃんがしょんぼりしていた記憶がある。今思えば、ばあちゃんなりの愛情だったのに。しかも、あの当時、赤飯は、豆を煮て、もち米に煮汁をいれて、蒸し布で蒸して、そのまま蒸し器にセット。火加減の調整をしたりと、見ているだけでかなりの作業量だった記憶がある。一所懸命、朝から作ってくれたのに・・・と今なら思う。
そんな作るのがめんどくさいイメージがある赤飯。今はお赤飯の素さえあれば炊飯器で簡単に作れるのだそうだとお赤飯の素を販売しているお店のおかみ(友人)がいう。
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なにそれ~なにそれ~と興味津々で聞きまくっていたら、プレゼントしてくれた。これがお赤飯の素。しかも、もち米3合もセットしてくれるあたりできるおかみだ。
もち米を洗い、お赤飯の素をどばっと投入。これだけ。味付けも一切なし。
大盤振る舞いでてんこ豆がごっそり入っているのがうれしい。
ちなみにてんこ小豆というのは、皮がしっかりしていて煮込んでも割れにくい黒ささげのことを秋田ではてんこ小豆というのだそう。てんこって何?と調べたら、お店のサイトにたどりついた。要は方言とな。
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お赤飯の作り方のとおりに投入し、炊飯スイッチをオンかと思いきや、「おこわ炊き」で炊飯してくださいとある。
おこわ炊きなんてあるのか?と自宅の炊飯ジャーのメモリをみて発見。
ある!使ったことなかった。便利な世の中になったものである。
おこわ炊きで炊くこと45分。
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うまく炊けている。赤飯らしいいい色つや。
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黒ごまを買い忘れたのが残念ポイントだったが、てんこ小豆もりもりなので問題なし。若干、塩が入っているため、塩なしでも甘味があっておいしい。
3合炊いたのに、おいしすぎて半分くらい食べてしまい、おなかがはちきれそうだ。
あのおめでたい日から月日は流れ、今では、一刻も早く早く終わってくれと願うも、今度はなかなか終わらない。手ごわいやつ。
さようならの日がきたら、今度はわたしが赤飯を炊いておばあちゃんの仏壇に供えよう。第二の女の人生がスタートしたよと。
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