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ブータンがスノーマンレースをする本当の理由~地球を大切にしよう!~
昨日のNHKスペシャルは「秘境ブータン 天空を駆ける」。
のろのろ書いているせいで、いまだに旅の半分も書き終えていないが、昨年の3月末にブータンに行ったばかり。
「ブータン」と聞けばおのずとビットが立ち、見たくなるというもの。一度、足を踏み入れ、さらに地元の人と仲良くなると、そこが自分の第二第三の故郷になっていく。なので、今は故郷が100以上に増えてしまった。
冒頭はティンプー市内にあるメモリアルチョルテン。3階建ての真っ白い仏塔が青空に映える美しい建物。その周りにあるマニ車をぐるぐる回しながら、お祈りをし続けるブータン人が見られる場所。(←まだ書いておりません。今年中には・・・)
その次に現れたのが、日本の伊勢神宮的存在、ブータン人が一度は訪れたいと願う聖地「タクツァン僧院」(←これもまだ未記事)。
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崖にへばりつくように建てられた僧院で、富士山よりは少し低く標高約3000mの場所にある。1時間半~2時間くらいで登れるのだが、わたしが行った日は曇りのち雨。3月末はまだ肌寒く、酸素も足りなく、もはや苦行といってもおかしくないくらいの勢いで登っていた。今回のスノーマンレースの風上にもおけないトレッキングであるが、ブータンで山を登ったものとしては見ずにはおれない。
ブータンは国土の98%が山地、70%以上が森林におおわれ、自然と調和した暮らしを重んじている。そんなブータンで10月に開催されたのが、世界で最も過酷なレースといわれているスノーマンレースだ。
世界の屋根「ヒマラヤ」の東に位置する天空のトレッキングコース。走破した人の数はエベレスト登頂者よりも少ない。なぜなら山々は神が住む神聖な場所だとブータン人は信じているため、高い山への登山を禁止しているからだ。
ここまでは知っている情報。この情報だけで、今回のスノーマンレースは、なかなか見ることができないヒマラヤの手つかずの大自然を世界のランナーの目線を通じてみることができるレースなのかと思っていた。
だが、違っていた。真の目的は、環境保護に力を注ぎ、カーボンネガティブを世界で初めて達成した国の気候変動への緊急対策を呼び掛けるものだった。ちなみにブータンは排出する二酸化炭素の量の3倍以上を森林が吸収しているという。さすがである。
ロシアでも地球温暖化で永久凍土がとけてマンモスが出てきたとかニュースで見聞きしたが、ブータンにある氷河も驚きのスピードで溶けている。その氷河が溶けていくとどうなるか。氷河湖の水位が上がることで決壊し、GLOFと呼ばれる氷河湖決壊洪水により、麓の村が飲み込まれるという。村の存続はおろか、人々の命がおびやかされることをランナーの目線を通じて、世界の人々に現実を知ってもらうことがこのレースの真の目的だった。
ルートの総距離は186kmで、5日間決められたコースを走破する。全行程の平均標高は4200m。酸素の量は最も低いところで平地の半分。遭難防止のためGPSを装着し、ヒマラヤの奥深くを駆け抜けていく。
青空に雪を讃えたヒマラヤの山々が美しく、こんな景色を一度は自分の足で歩いて、見てみたいなとうっとりする。厚さ50mもある巨大な氷河の下は絵具で塗りたくったようなエメラルド色の氷河湖。ブータンにはこういった氷河湖が567個もあるという。この世のものとは思えない美しい氷河湖だが、氷河湖を支える土手(モレーン)がブータン各地で決壊しているという。
ブータンに迫る気候変動の危機。ただただ美しい景色を、灯油ストーブをつけ、ホットカーペットで体を温め、おいしいスープを飲んでみているわたし。なんだか申し訳ない気がして、ひとまずホットカーペットのスイッチをオフにした。
ヤクとともに暮らすブータン人女性がレースに参加していた。気候変動で、牧草が減り、遊牧民はより高地に行かなければいけなくなる。収入源が限られる村で、このレースに勝てば報奨金がもらえる、さらに気候変動について発信ができるといっていた。
スープを飲む手が止まる。灯油ストーブも消す。ヒマラヤの現実を目の当たりにし、自分ばかり快適な生活を享受していいものかと思ってしまい、胸が痛い。
レース中にも関わらず、熱心に動画をとるタンザニアからきたランナーがいる。タンザニアといえば、キリマンジャロ。ここでも同じ問題が起こっているという。キリマンジャロの山頂にも氷河があるが、ここ10年で大幅に半減。2030年までに消滅されているといわれ、ふもとの町では深刻な水不足がおこっているというナレーションとともに、大根を収穫する人々の姿をみて、水の大切さをかみしめる。2030年といえば、あとたった5年。今まであったものがたった5年で消滅してしまうのだ。
気候変動を止めるのは1人の力では難しい。だからといってあきらめてはいけない問題。灯油ストーブとホットカーペットを消したからといってすぐに止まる問題ではないが、だからといって何もしないわけにはいかない。
ランナーたちがレース途中で滞在するテントで気候変動の問題について議論していた。さまざまな国の人からの多様な意見を聞くことはとても重要なこと。「小さなステップが大事」。胸に突き刺さる言葉だった。
過酷なレース中、息も絶え絶えに自分の思いを動画に残す。世界一過酷なレースで、体力の限界に達しながらみる美しき絶景。そしてその絶景がなくなる危機。
「言葉ではとても・・・」
「今まで見てきた中で、最も、ずばぬけて美しい場所。私の全人生の中で・・・」
「太陽が昇り、山々とヤクを照らしました。信じられないほど美しい・・・」
「お茶をもったおばあさんがわたしたちを待ち・・お茶を・・・言葉にできない」
「洪水がこの美しい場所を、村を破壊してしまうなんて・・・」
涙ながらに語るランナー、言葉が続かないランナー。実際に目にした光景を言葉で言い表すことができない。
「ほんとにもう、ボロボロ、もう頭がまわらなくてどこにいるかもわからない」
「わたしはここで飛行機できて、エアコンを使って、暖房を使って、たまに肉を食べて~はあ、わたしはそうやってたくさんの地球の人々を犠牲にして超快適に生活しています。だからほかの国のことを批判する前にまずは自分の行動を見直すべきだと改めて認識している」
激しく納得した。
1人では難しい。ブータンだけがやったとて意味がない。皆が世界中の人々が一丸となって取り組まなければならない問題。
仲間は多い方がいい。1人では誰も信じない。
ゴミを拾う、木を植える。みんなで行動したほうがモチベーションも保てるし、より多くの課題の解決策が見える。
けれど、最初の一歩は自分から、誰もやってないから、自分1人ではどうにもならないからではなく、自分から。意識を変えさせてくれた番組だった。
素晴らしい景色、ブータンにいる友達を失いたくない。
あと何年生きるかわからないけれど、自分よければすべてよしではないのだ。輪廻転生があるとは思っていないが、もしあって自分が虫になったり、空気になったり、まあ、なんかしらのものになってここに戻ってきたとき美しいままで存在してほしいと願う。
スタートから約28時間、ランナーを迎えたのはブータンの子ども達。実はわたしも迎えられたと勘違いしたことがある。それはとても暖かくてほっこりする時間。ブータンの子ども達はほんとにフレンドリーで、手を振れば振ってくれるし、カメラを向ければ笑ってくれる。ランナーたちが心が温かくなったという感想をもったのも無理はない。
ウェルカムされていると勘違いした事件の詳細はこちら。
インフルエンサーでもなく、フォロワーも少ない物書きではあるが、このnoteを書くことでどこかの誰かに地球温暖化を考えるきっかけになればと思う。みんなで地球を大切にしようではないか!と、妙に青春時代よろしく熱くなっているのである。
空から見たブータン東側のヒマラヤの話
NHK+で配信中。
日本人ランナーのInstagram
https://www.instagram.com/demochan0809/
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