毒親からの解放ストーリー (49)
私の思いもかけない反撃に驚いたヒロシだったが、こんなことで諦めて引き下がるような男ではないはずだ。きっと今日のお返しの為に、誰かを連れて私を襲いに来るだろ。
そこで室内に防犯カメラを設置した。主な設置場所は、母の寝室とリビングルームなどだ。それから玄関口にも付けておいた。これをつけておけば、万が一私が先に暴力を受けた場合には、反撃として暴力をふるったとしても正当防衛が適用されるだろう。そんな暴力沙汰など起きないに越したことはないが、ヒロシのお金に関する執着は相当なものなので、常に用心しておかなければならない。
自分では働かないくせに常に母親の懐を当てにして、毎晩賭け事や、若い女のいる飲み屋に入り浸っているような生活をしているうちに、体力、知力共に衰えて、歳よりも老けているように見える。
夫が亡くなりひとり親になった私は、子供を守るために体力をつけたいと思い、週に一度キックボクシングのジム通いをしている。たまたま近所にジムが出来たことがきっかけだった。基礎的な体力がつくことによって、チョット威圧的な感じの男性の患者さんが来院したとしても、以前のようにビクビクしなくなったと思う。
そしてヒロシを撃退して二週間ほどたった日曜日、診療所が休みなので、駅ビルでランチの弁当を買い求めて、母のもとを訪れた。
母は、あの日以来私に対してすこぶる大人しくなっている。母が弁当を食べているあいだに、お茶の支度をしていた時、玄関ドアの鍵をガチャガチャと乱暴に開ける音が聞こえた。玄関ドアの鍵は防犯カメラを設置した時に、最新の鍵に付け替えた物だった。
すると今度はドアを荒々しく叩く音が聞こえてきた。母もそのただならない気配を感じてか、ユリ、ユリ、と叫んでいるのが聞こえた。弟が誰かを連れてやってきたに違いないと身構えて、玄関口に行くと。
「何故だよ、何故鍵をとりかえたのだよ」
といきまいているヒロシの声が聞こえた。
急いで玄関ドアを開けると、ヒロシが目を合わせないで、声だけ私を威圧するように荒げながら、
「ここは俺の家だ。それなのにどうして鍵なんか取り換えたのだよ」
と言いながら玄関口にすばやく片足を入れながら、後ろにいる女の人に、家に入るようにと、顎で合図を送っていた。こうして二人は母のいる寝室に入り込むや、母に向かってこう言い放った。
「ママ、こちら俺の結婚する人、今日は挨拶に来たよ。この人と結婚すれば、もう俺たちでママの面倒を見る事が出来るから、安心して良いから。そうすれば、もうオネエに来てもらわなくても良いから」
そう言ってヒロシの後ろにいるメグミという女を紹介した。その人は、さほど派手ではないが、家にある一番地味な服を選んで着てきたのだろう。しかしそれは流行遅れでしかも安っぽいものに見えた。しかし彼女の中ではフィアンセの家に行くというので、手持ちの中で選んだ服に違いない。
メグミという女性は薄化粧をしているが、普段はきっと厚化粧をしているのがわかった。暗いトーンの肌は荒れて、いかにも今日は化粧をとって来ました、いう感じが見て取れた。
それでもヒロシにすり寄って、母に挨拶をしている。その挨拶が男性客に媚びを売るようでいながら、私に対しては無視をきめこんでいるようだ。ヒロシから色々と私のことを聞かされているのだろう。一瞬目が合ったその目は、憎悪にみちていた。