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「パリの国連で夢を食う。」を読んで

川内有緒(かわうち・ありお)さんの、「パリの国連で夢を食う。」を読み終えた。

この本に出会えてよかった。心からそう思えた本である。

読後はまるで、1本の映画を観終えたかようだった。

文章のリズム

まず文章のリズムが素敵なのである。私は昔、ライターの師匠に、「五七五調」や「七五調」を取り入れると文章のテンポが良くなる、と教わったことがある。

有緒さんの文章は、見出しから本文まで、すべてが心地良かった。たとえば、

【見出しから抜粋】
エッフェル塔は輝いて
   →七五調(えっふぇるとうは かがやいて)
引き揚げられた戦艦大和
   →七七調(ひきあげられた せんかんやまと)
五月の雨のノルマンディー
   →七五調(さつきのあめの のるまんでぃー)
不思議の国の魔法はとけて
   →七七調(ふしぎのくにの まほうはとけて)

などである。

本の世界に浸りながら、何度も音読してしまった。

謎のメールの正体は?

序章は、有緒さんが当時勤めていた、ある研究機関が舞台だ。夜23時のオフィスである。

当時31歳だった有緒さんは、コンビニのおにぎりを頬ばりながら、パソコンの画面と睨めっこしていたという。ふと受信トレイを開くと、「あなたは書類審査に通りました」という、謎の英文メールが。

なんとそれは、パリの国連からだった。身に覚えのない有緒さんは戸惑うけれど…!?

アメリカの大学院で修士号を取得後、コンサルティング会社や研究機関を経てパリの国連に採用されたという、華々しいご経歴をもつ著者。自分とは別世界にいる方なんだなと、誰もが思うだろう。

ただ私は、あらゆる文面から親近感をもった。たとえば、

「なんだか、泣けてきた。 ランプがどう、という問題ではない。私は今、暗くて寒い部屋の真ん中で、段ボール箱に囲まれてお腹がすいている。行き当たりばったりで、穴だらけの計画のおかげで。そして、私は一人だった。それはまるで自分の人生の縮図のように感じた。」

ここはもっとも共感した部分である。

ちなみに本のなかで有緒さんは、「アリオ」や「アリオサン」、「サマ」と呼ばれている。理由はぜひ、読んでみてほしい。

パリを散歩しているかのよう

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パリへは1度、観光で行ったことがある。シャンゼリゼ通りやルーヴル美術館、ノートルダム大聖堂……読みながら、当時の美しい光景と、うっとりして口が閉まらない10代の自分が少しずつ蘇った。

一方で、私がみたパリと、有緒さんが実際に働き、暮らしながらみた風景は180度ちがうとも感じた。

私が歩いたシャンゼリゼ通りは、パリ市内でおそらく、一番華やかな場所。少し道をそれると、アーティストたちの住む不思議な建物「スクワット」があったり、すこし電車に揺られると貧しい町があったり、国連の建物自体がものすごくボロかったり……というのは、知る由もなかった。

自分の夢を、思い出す

もともと私は「色んな世界を見てみたい」という気持ちがつよく、学生時代には高橋歩さんの本に感化されて旅人になろうと考えたり、大学のろうかに貼り出された「留学生募集」のチラシをみて衝動的に「行く」と決めたり、20代では「東京を見てみたい」と思い立ち、就職を決めて上京したりと、じたばたと人生を歩んできた。

ヨーロッパへの憧れもあった。独身時代は、一人暮らしの部屋で「ブリジットジョーンズの日記」を読んではロンドンのキャリアウーマンになった自分を妄想し、「ノッティングヒルの恋人」を観て、ノッティングヒルでの優雅な暮らしを思い描くのが日課だった。

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けれど結婚し、次第に自分の「好き」は、隅に追いやるようになった。当時はなによりも旦那さんに好かれたかったから、彼に好んでもらえるような趣味を一生懸命探していたのだ(当時の自分には、「いつか限界がくるのでやめたほうがいいよ」と淡々と伝えたい)。

そして、子どもを2人、授かった。物心がついてきたら親子留学したいな、ともぼんやり思っていた。自分が海外留学でとてつもなく視野が広がったので、彼らにも、たとえ数週間でも数ヶ月でもいいから滞在させてあげたかった。

だがそれも、子育て歴が長くなるにつれて忘れていった。自分と子どもの周りの、小さなコミュニティを楽しむことで一杯いっぱいだったのだ。そのうちに、厄介なウィルスが広まり出した。

けれど「パリの国連で夢を食う。」を読んで、思い出した。

いやもう、「よし、コロナが終わったら行く。」である。

決め手となったのは、後半に描かれたパリの音楽祭の1日。ルールも時間も仕事もぜんぶ忘れて、ただ「今」を楽しむ、パリの人たち。

「そうだ私、子どもたちに、こういう世界を見せてあげたかったんだ…!」

日本ではきっと味わえない、この感じ。誕生日やクリスマスを「え、そこまで?」と引くほど盛大に祝っていた、イギリス留学時代のファミリーを思い出す。

実現する・しないは子どもたちの状況や気持ちが優先だけれど、希望がひとつできたことで、自分の心に彩りが増えたのはたしかだ。

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正直に生きる

私にとって、有緒さんの著書は、空にかかった大きな虹のような存在となった。

自分のなかのささいな違和感を見逃さず、気づいたら軌道修正することを繰り返してきた著者にも、憧れがある。

私はこれまで自分軸じゃなく、他人に好かれようと自分を変えてきた。でも今は、それが限界を迎えている。

「いつでも軌道修正できるんだよ」

この本には、そんなメッセージが詰まっているように感じた。

続けて購入した「バウルを探して〈完全版〉」と「パリでメシを食う。」も、大切に読みたい。


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原由希奈
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