ワンマン運転化に不安はないか?
JR東日本が山手線などの都内の路線において、2025~30年にかけてワンマン運転を導入する方針を発表しました。
以前より、都内主要幹線へのワンマン運転導入の方針は示されており、そして更に踏み込んだ「ドライバレス運転」の構想も出ております。
これについてツイッターのタイムラインを見てみたところ、賛否両論といった感じで真っ二つに意見が別れておりました。反対意見の中で最も多いのが「安全面は問題ないのか」といったものでした。
ワンマン運転が導入されることで、安全面に問題がないのかどうかを考えていきたいと思います。
そもそもワンマン運転とは
まず前提として、今回導入が発表された「ワンマン運転」がどういうものなのかについて、簡単に触れておきます。
車掌が乗務せずに運転士のみが乗務しているものをワンマン運転と言いますが、日本の鉄道では大きく分けて2つの方式のワンマン運転があります。
・運転士が運賃収受を行うもの
・運転士が運賃収受を行わないもの
ざっくり分けるとこうなります。今回の発表にあるものは後者になります。
安全面に課題はないのか?
一番気になるところは「安全面」だと思います。事故発生時に問題が起きないのか、運転士が急病で倒れても安全なのか等。
事故発生時の対応は大丈夫か?
まず大切な点としては「事故が起きない環境づくり」が着実に進んでいます。その中のひとつが、駅ホームへのホームドアの設置です。
今回の発表の中で、具体的な路線名として挙げられていたのが山手線、京浜東北線、南武線です。この中で、山手線と京浜東北線については、全駅へのホームドア設置が発表されており、設置が完了した駅から順次稼働しています。
南武線については武蔵小杉駅への設置が進められております。JR東日本では2032年度末頃までに東京圏の主要路線全駅にホームドアを設置する方針のため、南武線の各駅についてもホームドアが設置されるものと思われます。
ホームドアの整備により、駅ホームでの旅客と車両との接触事故は、限りなくゼロに近くなるはずです。これにより、ワンマン運転時の安全確保が図られるのです。
既に10両編成でのワンマン運転を導入している東京メトロ副都心線では、開業後13年間で、線内の駅ホームでの人身事故が、新宿三丁目駅で発生した1件のみだったと記憶しています。
また、踏切道の除却も行われており、こちらも合わせて「事故が起きない環境づくり」が進んでいるのです。
それでも人身事故などが起きてしまうことはあるでしょう。そういった場合には、運転士と輸送指令でやり取りをして、駅職員などと協力して事故処理にあたることになります。これについては運転士と車掌の2人体制より運転士への負担が増えてしまいますが、だからといって安全性が損なわれるということではないので、問題はないと考えます。
運転士が意識を失ったら大丈夫なのか?
運転士が運転中に急病などで意識を失ってしまうこともあるでしょう。ワンマン運転時にこのような事態に陥っても安全なのでしょうか?
JR東日本の車両には緊急列車停止装置(EB装置)という安全装置が搭載されています。これは、運転士が一定時間の間に運転に係る機器の操作をしないと、警報ブザーが鳴動した後に非常ブレーキが動作するというものです。
また、EB装置以外にも、自動列車停止装置(ATS)や自動列車制御装置(ATC)などの保安装置があるため、制限速度を超えることはありません。加えて、ワンマン運転に際しては自動列車運転装置(ATO)の導入が前提になるでしょうから、運転士の運転操作は駅出発時のATO出発ボタン押し下げのみで、あとは前方注視による安全確認のみとなるでしょう。そのため、仮に運転士が意識を失ったとしても、安全性には問題がないはずです。
ツーマン運転だとしても、10両編成の両端にいる運転士と車掌が、それぞれの状態を常に把握するのは不可能です。運転士が意識を失ったとして、その瞬間に車掌がそれを察知するのは無理なのです。そのため、ワンマン運転にしたからといって、運転士が意識を失った際の安全性が著しく低下するということはないのです。
車内でのトラブル発生時の対応は問題ないのか?
先日、京王線の車内で刺傷事件が発生しましたが、そういった車内トラブル発生時に問題はないのでしょうか?
これについてもツーマンとワンマンの差はそれほどないと考えています。車内で非常通報装置が扱われた際に対応するのが、車掌から運転士に変わるだけです。
しかし、ワンマン運転になると車掌が直接トラブルのあった車両に急行するといった対応は出来なくなります。ただ、これに関しても東京圏の駅間距離であれば、車掌が問題のあった車両に辿り着くよりも、次駅に辿り着くほうが早いでしょうから、運転士が運転司令に対して駅職員に対応要請をすることで問題はないと考えます。
最後に
このような感じで、ワンマン運転化で安全性が低下することは基本的にはありえないと私は考えています。
既につくばエクスプレスでは時速130km/hでのワンマン運転を行っていますし、東京メトロ副都心線でも最長10両編成でのワンマン運転を行っています。
今回のワンマン運転発表については、安全面の問題よりも、労使間の問題の方が大きいのではないかと私は考えています。