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【詩集】千夜一夜の虚構たち

No.6

うそつきだけの怪談に背筋をこおらせて
ついたうその数だけ消えていく蝋燭に怯えて
うそつきと言った瞬間じぶんの影を疑って
違和感だけがうしろをつきまとうから
教室を抜け出したあとも日常は戻らない
なにの味もわからなくなって、青空はうそみたい
こんなに鮮明なら記憶に違いない
どこにも、僕は認識しながら存在しない

違和感がうしろから這い出て、
背中をとおりすぎて

自分より前へと歩いていくのをただ、
見送る夕暮れ

僕の言葉が落ちてゆくだけの怪奇現象
どの怪談も、季節をふちどって
見るものを、全部うそにしていって


【千夜一夜の虚構たち】




No.7

緋色の鍵盤を叩くときに
僕の影は指揮をふった
強風はフルコーラス

そのとき、僕の心だけが凪いでいる

だれかの激情
あのこは嫉妬
むかえにきた、カタストロフ
全部がかなしくて、全部がきれいだった

そのとき、僕の心だけが凪いでいる

どうして、譜面にも脚本にも、僕はいないのだろう
いつだって、避けてきたのは、視線からだった
影だけが、音階を、言葉を、貪欲に求めていた

そのとき、僕の心だけが凪いでいる

しわ寄せ、因果応報、
全部がささって、全部がせんめいだった


【揺れない日々の矛盾】




No.8

夏の冷気にむせてみたのは反抗的な喉
よかった、君のベロはあかくなってて
おなじだけの氷が、君のからだに沈んでい


【夏、青のした】




No.9

仄かなにがみ、その後の煙たさ
どこへ、どこへ、名前をおこう
くり返された秘密を、どうしよう
あたまを抱えて、夜は神経がとがる
そうして刺す、背後から、だれかの影

この秘密は、スキマから這い出てゆく
だれにも、だれにも、閉じこめられない
液体よりも、気体よりも、巧妙な固体として

眠りにおちる午前0時は、
だれの口の中に潜むか
アメ玉のような味のする、
一瞬、それはむせて、飛散する秘密の仕掛け

だれの手にも落ちず、だれの手にも負えない
いつか、いつか、白日のした、影をとばして


【ミステリーの余波】




No.10

耳を塞いではくことば
それにあたる星のひかり
たぶん君が星のひとになる
僕の、頭蓋骨にだけひびく
耳を塞いではくことば
それにあたる星のひかり

僕の、頭蓋骨にだけひびく
時間差、胸にささることば
星のひかり、もう遅いのかな
たぶん君が星のひとになる
そのときに嘘を消せたのなら
まだ、間にあうかもしれない
希望的観測は新しい星のした

耳を塞いではくことば
なにから逃げて
なにを拒む
君は星のひと、消せないひかり
遅延する、ことばを待てなかった


【間に合わなかった幾億光年】



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