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【詩集】新色テスター絶滅ネイル


『汚染された旋律を繰り返し』 



No.21

なんだかつまらないけれども
それらしいものが並んでいて
ランドセル置き場はもやついている
先生、連絡ノートを書く時間に、
カセットテープを流さないで、
憂鬱になる、大人になっても、
あの夕暮れ時を思うと、
なんだかつまらないけれども
それらしいものが並んでいて
みんな上手ってとってつけて
本当は優劣がちゃんとあって
それをはっきり言わないで
カセットテープに巻き込んで
うやむやにしてみんなを帰すから
空になったランドセル置き場には
いつだってもやついた感傷が居残り続けてる

【タイムテーブル居残りテープ】




No.22

いなおるように、息をして
卵焼きを巻ける、菜箸で
そういう人を羨んでいる

何も作れない
家では何も取り繕わないから
何も、何も、作れない

外とは何だろうか
寝転ぶ時が、自我な気がする
怠惰と呼ばれたく無いから、
外では、立っている
今にも、寝転んでいたい
それが、自我な気がするから

隣で、卵を巻いている人
卵を巻いて、息をしている
羨む、どうして、作れるのだろう

卵を割った、殻が入った、
フライパンに落として
菜箸でぐるぐる掻き回すと
テフロンは剥がれて、白身はひっつく

胃に入れて、息をした
やはり、寝転がってみると
これが、自我な気がする

台所では、水が一定のリズムで
落ちる、音がしていた

【当然を知る人に目を瞑り】




No.23

わたしの恋は一行の滅びであった

あれは熱帯夜に見続けていた夢だった
あれは白昼夢に揺蕩う気まぐれだった

それでも、

今年も向日葵が咲くから、
僅かな自嘲を消せずにいる

顔も名前も短絡な日々も、淡く沈んだあと

それでも、

私の火傷の跡だけは未だ愛おしかった

いつだって、

わたしの恋は一行の滅びであった

【アルバムから取り出しただけの鼓動】



No.24

空な目をしてピカピカを歌うころ
おどうぐばこは、無気力にぶらさがる
ピカピカ、ピカピカ、
ランドセルはすぐにくもっていった
机の中はまっくろになっていった
ピカピカ、ピカピカ、
読めない文字を書いてたのはいつまでだ
上手ではない文字でも意思疎通は出来てる大人
ピカピカ、ピカピカ、
片道一時間、歩かされていた、吹雪の日も
みんな車で通勤していたのに、歩けと怒られた
ピカピカ、ピカピカ、
言語化がうまくいかなくて意思疎通出来てなかった
だから未だに大人を誤解しているのにわたしも大人
ピカピカ、ピカピカ、
誰のことを歌ったんだろうとか
わたしだってそういうものだと思っていたとか
熱が出たらよかった低学年
期待されない代わりに疎まれた高学年
わすれてないよ、ピカピカ、ピカピカ、
点滅したまま、田んぼの鳥居を眺めて、ひとり

【なにも見ていない歌をたからかに】




No.25

今は夢を見るよりも、夢に泳がされている
夢に見た魚は、実際、わたしのことであって
夢に見た川は、実際、わたしの透明な血管であって
わたしは、泳いでいた、
現実には、抗っていた、

夢に泳ぐことをうながされているとき
現実は逆流して、わたしはうなされている
それでも、
わたしの心臓はわたしが夢に泳いでいても
わたしのことを見捨ててはくれていなくて

【完成されたブレーキ、ただの破壊衝動】



No.26

身をほぐして探すように食む
このなかに、わすれたものが
骨にかわって、わたしの喉を
刺そうとしていると警戒する

わすれたかったからわすれたの?
わすれたことはわすれてないの?
箸の使い方、いつごろ覚えたのか
それは、わすれてしまったこと?

思い出したくなることは
海のなかで生きていても
わたしの胃の中にもどらない

わすれる、は、さよなら?

それは、習わなかったから、上手な食べ方も
消えてほしいこと、に、忘却をかけてみても
化学反応は起きないから、小鉢に潜んでいる

わすれたい、は、きらい?

【忘却が先か、嫌悪が先か】




No.27

吐けないものは、体をめぐっている
わたしはわたしの汚染をやめられない
きれいなのは言葉という音だけ
棘の刺さる心臓を隠して鳴らす
吐けないものが、血液にひたっている
わたしはわたしを隔離することができない
音はひびいている、眼球運動、リフレイン
きれいなのは世界という奇跡だけ
吐けないものは、わたしを生かしている
きれいなものは、感じるものだけ、鼓動、巡回、
わたしはわたしを消し去ることができない
もうなにも、もうなにも、つむぎたくない
吐けないものは、わたしに生み出させている
きれいときたない、よろこびとかなしみ、
わたしはわたしを許すことができない

【汚染された旋律を繰り返し】




No.28

孵化するときの音はいつもリリカルに
再生するときの音はいつもリズミカルに

もしかして、かざぐるま?
孵化と再生の音のリピート
回転する魂は何に見える?
もしかして、フラフープ?

その回転はカラフル?
速度を上げて、輪廻転生、
わたしの卵、わたしの魂、
その色は、

【とてもポップに六道輪廻】




No.29

溶けて混ぜてカルシウム
君が人間で本当によかった

このどろっとした気持ち、
プラス、君、
が、ミキサーにかけられて、

喉が渇いていたから
それだけの理由で
飲みほした午後

わたしは君になっているだろうか
頬骨に触れてみても鏡は見ていない

その理由も、溶けてしまったから
いまさら、君が君だったことにも
わたしが、君を飲みほしてしまったことも
わたしがわたしのままか、
君を内包するわたしなのか、
それは、
同じくらい、意味のないことに変わるから

【さかいめ、いらない、くだけて、ばいばい】




No.30

ベルが落ちてくる、夢を見た
下敷きになる前に、音にとばされた
その音は、まだ、耳に残っていて、
イヤホンの向こうに居る、
ボーカリストの声が遠い
目覚めてから、随分経っても、鼓膜が揺れる
なにかを、消してくれる音なら、よかった
今日も消えない、ありきたりの、色々が山積み

帰り道には、
イヤホンの向こうに居る、
ボーカリストの声が近い、
何も解決しない、ありきたりは、ありきたりのまま
何かが、変わる予感がしていたのなら
何を、変えたかったのだろうか、
鐘の音に、願うものたちも、
わからなかった今日の終わり

近くなる、ボーカリストの喉から生まれる
リリック、どうか、このありきたりを、言語化して

【怒涛をひたかくして歌った】



No.31

溶けたかき氷が、真っ黒なアスファルトに
ぶちまけられて、花火の音がしていて
みんなはきれいなものを信じている
足元に落ちた蝉の死骸には何も見えない
暗闇にも輝きがあるのならば、世界はまだつづく
浴衣を着て、楽しそうに、此岸の際を歩くことに
わたしは、いつの日か感傷ばかりを飲み込んでいた
花火は、瞳の中につくられた万華鏡、
多次元、宇宙、夏と世界の終わりと、
溶けたかき氷が、真っ黒なアスファルトに
ぶちまけられた、今に、脳天をぶちぬけば
わたしはこのシミと、何も変わらないまま
蝉の死骸と並んで、何も見れなくなるという
結果を飲み干すことが出来るのかもしれない
虫になる、火花になる、塵になる、夏は おわる

【夏は誰もが影になる】




No.32

カタツムリのゆくみちの
アジサイは枯れてしまって
梅雨の空のしたには
灰色のにおいしか残らなかった
わたしは、
傘の色をわすれたまま濡れて帰る
コンクリートの上をのろのろと、
萎れたアジサイをとむらうように
だれかの、
長靴が、みずたまりに、勢いよく
水しぶき、ハッとして、傘をさす
もう、ずいぶんと、濡れてしまった肩
塀の上を、のろのろと、カタツムリ
わたしの、目玉には、萎れたアジサイ
梅雨はつづいても、枯れてしまうのなら、
諦めて、諦めて、時に、水たまり、
ふりかえる、むしむしとした空気に、

【どろどろどろとアスファルト】




No.33

入道雲のなかに
わたあめ、みたいな、雪もふる
そのことを知らないまま
夏は過ぎていってしまった
日に焼けてみた時代、
いまは、日陰に棲む雲を見つめて
わずかな、雨模様は
絵日記に落ちた水玉
いまは、日陰に棲む蝉の声のみ
入道雲のなかに
未だ棲む、冬の名残は、風情に忘れられて
夏は過ぎてしまった
日焼けを拒む時代、
絵日記には平成最後の大冒険
わずかに、嵐のまえぶれ
未だ、棲むか、何かの時代、何かの惑い
いまは、日陰に棲む塩素のにおい
夏は過ぎてしまった

【知っていた、明日の夏を】



『新色テスター絶滅ネイル』



No.34

波の立つときには
きみが旗をふって
一瞬だけの白さに
共鳴するよろこび

白波、きみの足首も、貝殻と一緒
わたしはシーグラス、ヤドカリと一緒
どこにも行けて、どこにも行かないまま

地球がまるいということは美談?
そういう話はつかれてしまった
もっとどうしようもなくなりたい

どうして押して返す、退屈なのは陸地?
わからない、誰と喋ってるの?
もう名前も形もくだかれた、貝殻だよ、

【溶かされていった星々】




No.35

ユーフラテスは夢を見て
チグリスの思いは馳せる
人間が在って、人間が去る
ここから行く時、遠くも、近くも
いつだって等間隔に存在している

きみの爪先にきれいなブルーが映えるころ
わたしの指先はシャッターを押すだろう
遠くから来たような、近くから来たような
透明な時間と、透明な細胞と、透明な認識、
きみ、わたし、それを分解する言葉たちは、
最初はひとつの交わりであり、
原初のひとつに喜びはあって、
言葉とは音、それは、肌への伝達だった
隔たれるときに、必要なのは、揺らぎであった
きみの爪先はブルーを反射するから、
わたしは透明を認識している
シャッター音は、きみとわたしの肌を揺らす
ここからふたたび、別れていったとしても、
遠くない場所、近くない未来に、きっとまた、

【透明に映るインスタントカメラ】




No.36

誰にも見えなくなったあの星が
今でも誰かを見ていたら…

いつかあの星を
見上げた時の目の光
光線みたいに届いていたのなら

もしかしたら、寂しくないのかもしれない

今は望遠鏡にも映らないけれども、
いつか届く光が、ここに誰もいなくなったあと
ここにいない、誰かのために注がれたものなら

もしかしたら、寂しくなるのかもしれない

祈られなくなった星々が、焦れて、ここに落下して
干上がっただけの地面に、寝そべるしかなくなって
ここにいない、誰かの願いを叶えたくなったのなら

もしかしたら、優しくなれるのかもしれない

【IFだけの流星群】




No.37

天気は変わって、朝焼けは世界の終わりみたい
この街を、もしもひとりで歩いていたのなら
わたしも、さみしくなるのかもしれない
避けてきた人たちを追いかけてゆくのかもしれない

そのとき、わたしの足元はくずれてゆく
それから、くずれた地面が流れ星になる
わたしは、誰にも追いつけないまま

いつか、迎えにくる箒星に、もやされる朝がくる

【明け方、低い桃色の空を】




No.38

あつめられた、砂のなかに
なまえのない、
貴金属のたぐいに似た
わたしの宝探す夜の終わりに
この目には、星々がちらつく
きっと、
無事に、あつめられたから、
わたしの目は、光っている

この、
朝焼けを反射するように
砂の中から、光るものだけを
探しあてる、夜だったから、
朝の訪れに、はにかんでいる
この、
わたしだけの、ささやかな夜に
かき消すような、定刻どおりの朝に
わたしの目の輝きは、かなうだろうか
ささやかな夜の、わたしのはたらきは
はっきりとした、朝の無表情にむかい
怯まない微笑みで、こたえられるだろうか

【理解を求めない宝の島】




No.39

その夜は、きっと銀色の動物を飼っている
誰の目にも、星座のきまぐれと映っている
瑠璃をまとう夜に、銀色の毛並みを寝かせ
その夜は、きっといっとう、まぶしくなる
誰の目にも、大気のきまぐれと映っている
真実は、きっといっとう嘘より美しくなる
その夜は、きっと人々の願いをきいている
流れて落ちる星々は銀色の動物の餌になる
そのかわり、人々の些細な悲しみも食べる
その夜は、きっと銀色の動物を飼っている

【神にいちばん近い真夜中】




No.40

ネイルにふれたときのつめたさ
この指に、必要なのは絶対零度
ふたしかな、距離を思い煩う時
ふたたび、とおざかるのは星々
さみしさの代わりに塗られた指
もはや願いは手段でしかなくて
つじつまだけを合わせてひかる
もっともらしい、発色をみてる
なにを、信じて、地上にのこる
だれにも、言わなかったことば
つめたいままの、ネイルに触れ
なんども、問いをつづけている
この色は、きれいで、つめたい
彗星の好むような、絶対零度に
ふたしかな、距離を思い煩って
とおざかる、運命にあらがって
この色は、ソラに上がる飛行船
人類の礎、地球の限界にひとり
なにを、信じて、地上にのこる

【新色テスター絶滅ネイル】




No.41

涙はルビーの代わりになる
そうして指輪はつくられた
誰もが泣き続けたあかしに
そうして指輪ははめられた
誓いは絶叫、歓喜にふるえ
もう喉は焼き切れてしまい
この誓いのつづきを言えず
わたしひとりの指輪物語を
毎夜毎夜、つむぐほかなく
ふたたび涙はルビーにされ
そうして指輪はつくられた
放たれた光に、つぶれた目
瞼の裏に残るのは指輪物語
わたしひとりのための物語
この涙はルビー、それから
誓いは、物語のまえに失せ
誰の絶叫も歓喜も消え去り
この不可思議な文化の消失
終わりのための物語を生む
運命の女の名前、その姿を
未だ、誰も知ることは無い

【染まって褪せた物語たち】

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