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【詩集】のこされた夕日は琥珀を透す

No.1

ペットボトルの底で居残りをしている
昨日の宿題の答えをおしえてと振り返る
だれのことを信じていたのか、もう忘れた
放課後のチャイムが鳴るとき、
琥珀色した飲みのこしを透す
無関心に立ち尽くして、たまに、歩いては
見上げた先にあるもの、
だれのことを信じていたのか、

片手でつぶしたプラゴミがすこしささる
「いたい」、そうつぶやく時、うつろになる

昨日の宿題の答えは知っている

明日のこと、
100年後のこと、
ぜんぶ、ぜんぶ、知っているけれども

だれのことを信じていたのか、もう忘れた
居残りは二度と無い、ゆるされてしまった
夕日だけが残されて、片手から鳴る音はむなしく

【のこされた夕日は琥珀を透す】




No.2

きれいにたためなくて当たり前
終わりは大体の情緒にシワが入って
誰かが怒って、誰かが泣いて、誰かが笑って
どの表情にも罪がないのなら
僕が汚した来歴も澄んでいる

はじまりが混沌なら、おわりも混沌
おなじところに戻るまでが遠足だと
教えてくれる、僕たちの根源的な帰巣本能

濁っているとき、漂白はそばにある
インクも血液も、きっと同じように隠蔽される
そういうものに、安堵したり苦しんだりな生き物。

【食物連鎖とトリックと】



No.3

きれいは透き通るから何もかも拒まない
だから目を閉じて、たまに痛む瞬間は
おなじくらい透明な涙が伝っていた

温度計は雲の向こうの太陽
青空がふたたびもどるころに
僕は蒸発を終えているだろう

試験管を盗んだのは星空が欲しかったから
薬品の匂い、目が痛くなる、星々のかがやき
きれいは遠くて、体は熱い、涙は空、僕の気体

【からになった、めぐすり】





No.4

呼吸するたびに記憶は巡っては消えゆく
僕の思い出はかえさなければいけない
どこへ?どこへでも。
だれに?だれにでも。
思い出もなしに生きていけるというの?
呼吸がつづいている、心臓がうごいている

深く、深く、呼吸をする
軽くなってゆく、無防備になってゆく
やさしい記憶、やさしくない記憶
すべてが同じ重さだと気付くとき
一秒前は、少しずつ崩壊してゆく

呼吸するたびに記憶は巡っては消えゆく
たいせつな記憶、たいせつじゃない記憶
すべてが同じ重さだと気付くとき
意識したこと全て、少しずつ崩落してゆく

【まわりつづけて、崩落】




No.5

君が地上から離れていって
君と僕の距離が25メートルを過ぎた日
思い出したように絵日記をかきだしていた
つまらないような気がしていた日々を
君が離れていった場所のことを
手を伸ばすのも飽きてきたことを
溶けてしまった24色でかきだしていた

君はたのしそうに空をおよいでいる
僕にはアスファルト、すり傷ばかり

つまらないような気がしていた日々を
君の水彩のような生き方には届かない
思い出したように絵日記をかきだして
君が地面であそんでいた日に
僕がプールをおよいでいた日に
なにも変わらない日々に


【褪せて逝った色鉛筆】


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