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どうやって頑張らせるか問題!(動機づけ面接のすすめ)

 前回は「どこまで頑張らせるか問題」でその考え方について書きました。基本的には「本人の無理のない範囲で頑張らせるのがよい」ということなのですが、
:「無理のない範囲で頑張ればよいよ。」
と言ってしまうと、
こども:「じゃあ、自分やりたいときにだけ頑張る。今は無理。」
と言って全く勉強せずに、本当にずっとゲームをしてしまう子もいるでしょう。かといって、
:「すぐにゲームをやめて勉強しなさい!」
と言うと、
こども:「だって今はやめれないところだし!」
と言い合いになってしまうのが目に見えています。

 親がこどもを育てていく上で、一番知りたいことは、

「子どもが大切なことを自律的にしてくれるようになるには、一体どのように声をかけたらいいのか」

ということでしょう。

 この問題については、様々な理論や意見がありますが、私が大切にしているのは、

動機づけ面接法(Motivational Interviewing; MI)

という技法です。これはもともと、アルコール依存症の人にどのように声をかけたら、お酒をやめて健康的な生活を送れるように支援できるかということを研究する中で、生み出されてきた技法です。

 想像してみてください。あなたは毎日仕事が大変で、晩酌だけが楽しみという生活をしています。体に悪いことはわかっているので、お酒は控えるべきだということは言われなくてもわかっています。しかしやはり飲み過ぎてしまって、会社の健康診断で肝臓の値が引っかかってしまいました。病院に受診するように言われ、しぶしぶ内科を受診しました。そこで医師に、

医師:「体に悪いことはわかっているのに、どうしてお酒をやめないのですか!? お酒をやめて運動しないと肝硬変になってしまいますよ!」

と言われてしまいました。あなたはどんな気持ちになって、どういう返事をするでしょうか。おそらく、

患者:「仕事が大変でお酒が唯一の楽しみだし、今はやめられないんですよ!」

と答えるでしょう。そしてそう答えた後は「だからお酒はやめられないし、仕方ないじゃないか。」という気持ちが強くなっていることでしょう。
 医師は医学的に正しいことは言っていますが、この場面での医師の仕事は、患者さんにお酒をやめてもらうようにすることなので、正しいことを言っているけれど、仕事としては失敗しています。

 では動機づけ面接を使った会話だとどうなるのか、見てみましょう。

医師:「肝臓の値が上がっていると検査結果で分かりましたが、これについてどう感じてますか?」
患者:「正直なところ、ちょっと心配です。でも、そんなに深刻じゃないかなと。」
医師:「心配はしているけれど、深刻ではないと思ってるんですね。そのお気持ちは理解できます。もう少し詳しく聞いてもいいですか?この検査結果を聞いて、今のお酒の飲み方で何か気になることはありますか?」
患者:「飲みすぎかもしれないな、とは思ってます。でも、仕事が忙しいので、飲むことでリラックスしているところもあるんですよ。」
医師:「お仕事が忙しいし、お酒がリラックスの手段になっているんですね。たしかにそれは大事なところですね。一方で、飲みすぎが体に影響を与えているかもしれないとも思ってると。」
患者:「そうですね。わかってるんですけど、なかなか減らすのが難しくて。」
医師:「そうですよね。減らすのが難しいという気持ち、よく分かります。お酒を控えることには何か良い点があると思いますか?」
患者:「そうですね…肝臓の値が良くなるかもしれないし、やっぱり健康にもいいですよね。」
医師:「肝臓の値が良くなり、健康に良いことは確かですね。逆に、このまま飲み続けた場合、どうなってしまいそう?」
患者:「うーん、もっと肝臓が悪くなって、病気になるかもしれないですね。それは嫌だなと思います。」
医師:「そうですね。その可能性はありますよね。それを避けるために、どんなことができそうですか?」
患者:「少しずつ飲む量を減らしてみる、くらいかな。でも、完全にやめるのは難しそう。」
医師:「完全にやめるのは難しいと感じるんですね。それでも、少しずつ減らしてみるという考えは素晴らしい一歩だと思います。どのくらい減らしてみるのが現実的ですかね?」
患者:「とりあえず、週に2日は飲まない日を作ってみようかなと思います。」
医師:「それは現実的でとても良い目標ですね。その目標から始めてみるのはどうですか?その結果をまた一緒に確認しながら進めていきましょう。」
患者:「そうですね、試してみます。」

どうでしょうか。あなたがこの患者さんの立場で、医師と会話していると、「お酒を控えてみようかな。」という気持ちに傾いたのではないでしょうか。

 上記の会話において、医師は動機づけ面接法という技法を用いており、この技法は学んで練習すれば誰でも使うことができます。動機づけ面接法では、以下の4つのポイントがまず大切にされています。それは、

  • 協同(Partnership):本人と協力して問題を解決する。医師が一方的に教えるものではない。本人(自分の人生についての専門家)と医師(健康行動についての専門家)が、取っ組み合ってレスリングをするのではなく、相手の歩調に合わせてダンスを踊るよう目標に向かって進む。

  • 受容(Acceptance):好ましくない考えや行動であっても、本人が面談の中で話しをすることを受け入れる。その時は、以下の点を意識する。

    • 絶対的価値:本人に対して無条件に肯定的な関心を寄せること

    • 正確な共感:客観的な視点を持ちつつも、その人のように世界を見てあげること

    • 自律性の援助:あくまでも決める自由は本人にあること尊重してサポートすること

    • 是認:欠点や問題を指摘するより、本人の強みや努力を認めて、それを肯定すること

  • 思いやり(Compassion):専門家として本人の健康や福祉の向上を第一に考え、セールス(医師の利益)のためには絶対使わない

  • 喚起(Evocation):本人の本来持っているやる気や動機を引き出す。強みを探し出し、認めて上手く発揮してもらうようにする。こちらから何かを与えたり、教育したり指導したりするものではない。

 こういったポイントを意識して、変っていってほしい相手に声掛けをしていくと効果的であることがわかっています。ただ、動機づけ面接法のポイントを理解するだけで、誰でもすぐにできるようになるわけではありません。もう少し細かいテクニックについても学ぶ必要がありますし、実際に会話の中で練習をすることも大切です。
 さらに、基本的には大人に対する技法として開発されているので、こどもや子育てにおいてこの技法を使う場合は注意や修正が必要になってきます。
 しかしこの技法を身に付けることができると、子育てだけでなく、様々な場面で応用がきくので、しばらく動機づけ面接法についてシリーズで解説していきたいと思います。







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みずはらクリニック 児童精神科・精神科・心療内科
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