貴方が思うより、心配しているし貴方が思うほど、全く同じ気持ちではない。
むかし。
例の某ぬるま湯有料老人ホームに、私が入社したての頃。
かつて私が居た、超大手グループ。
この施設は、そのグループの 元フランチャイズ施設だった。
超大手グループは大好きなのだが、いかんせん家から遠い所ばかり。
まだここは、家から近い方だし、駅からすぐ。
しかも、元フランチャイズならば、
さぞかし運営はしっかりしているだろうと信じて入ってみたら
見事に裏切られた。
いや、私の見る目がなく、あまりに節穴だったのだ。。。
運営はあやふや、やたら社員は多いし働かない職員が多すぎる、間違った介護技術を平気な顔をして教えている、居室内のポータブルトイレへの誘導時にカーテンを全く閉めない。外から丸見え。言葉遣いも最悪。実力があろうがなかろうが、年功序列でリーダーになっていくシステム。
管理者もリーダーも、しっかりしないから、完全に学級崩壊状態。
もう、何だかびっくりな事ばかり。
某大手グループの良さが何一つ残っていなかった。
…どうしよう、入社してしまったし。
辞めるなら、試用期間中に申告した方がいいかも。
と、毎日途方に暮れていた時、3ヶ月早く入社していた、同じくらいの介護経験を持つ、3つ年上の
Oちゃんという、フレンドリーな女性が居た。
Oちゃんは、シングルマザー、訳ありな家庭環境らしい。
バブルの申し子のような女性で、元ヤンだなと分かる性格、言葉遣いだったけれども
高齢者に対する愛情と、介護技術は誰よりも素晴らしかった。責任感も人一倍強かった。
少しずつ、少しずつ、私達は仲良しになっていった。
少しずつ、彼女がここに居てくれるならば、少しでもより良くできるように頑張ってみようかと、思うようになった。
でも、私も幾千もの裏切りやひどい人間関係を経て、ここにいる。
そして、私なんかより、Oちゃんはもっと沢山の傷を負っている事が、醸し出す暗い悲しみに包まれたオーラで分かった。
だから、急接近とは行かなかった。
本当に、薄いガラスにそっと触るように。
少しずつ、少しずつ。
ある日、Oちゃんと休憩が一緒になり、彼女がボソッとつぶやいた。
「ハルちゃんが、リーダーなら私すぐついて行くのに。どうして、ここのリーダーは年功序列で、介護技術や人格で決めないんだろうね。やってらんないわ。」
私は、Oちゃんにリーダーをしてもらえたらいいのにって思ってるよ、と笑顔で答えた。
「ダメだよ、ハルちゃんは管理者経験があって、相談員もしてたんだから、即戦力じゃん。私はね、職員にそうやって愛を持てないから、多分無理だな〜。」
そう微笑んで言う、Oちゃんの瞳は、いつもよりも更に沢山の悲しみを抱えているように見えた。
…数日後から、彼女は無断欠勤し、一切の消息が掴めなくなった。
どうやら、未経験上がりの3年目、Nさんの清拭のあまりのレベルの低さに、やってられねぇ。とOちゃんはボヤいていたらしいが
何が原因か、真実は今でもわからない。
私は、Oちゃんの身に何かがあったのではないか、と気が気ではなかった。
家庭事情が複雑らしいし、元ダンナも訳ありらしいし、事件や事故に巻き込まれていないかと思っていた。
そして、あの日、特に悲しみに包まれたオーラにもっと早く気がついていれば…と後悔した。
毎日、毎日、Oちゃんの無事を祈った。
数日が経過した。
管理者から、一言報告があった。
『大家さんより、詳しい事情は言えないが、Oさんは無事です。とだけ、知らせて貰えました。』
ホッとして、膝から崩れ落ちた。
と、同時に悲しさと怒りと悔しさが満ち溢れてきた。涙がはらはらと溢れてく。
Oちゃん。無事で居てくれて良かった。
でも、何があったかは知らないが、何て無責任な事をしているの。貴方がそんな人だとは思わなかった。
少しずつ、打ち解けようと勇気を出していた事も、ここにしばらく居て頑張ろうと思った事も、全てがバカバカしくなっちゃったよ。
もう無理かも、と打ち明けてもらえなかった事がショックだったし。
ただ、それは私の独りよがりだろうから、仕方ないのかな…。
Oちゃんからすれば、逆に余程に堪忍袋の尾が切れるような出来事があったのだろう。
わかるけど、ダメだよ。それだけは。
今まで、人に裏切られて悔しい思いしてきてるのに、何で自分自身で人に心配かけてるの?
投げてもいい。逃げてもいい。
でも、何にも言わずに消えるのはダメだ。
貴方が思うより、皆貴方を心配している。
でも、貴方が思うほど、私は同じ考えではない。
絶望しても、諦めたくない。
だからこそ、身体も心も壊れてしまうのかも知れないが、それでも無責任な事をしてしまったら
貴方が嫌だと思った奴以下になるんだよ。
そいつらは、そこまで社会人の基本としてダメな事はしてないんだもの。
ずーっと、モヤモヤしていた。
彼女が出来なかった改革を、私が少しずつでも進めて行こうと思った。
だが、その思いも一年で打ち砕かれたが。。。
その話は、またの機会に。
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