記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

劇団四季『ゴースト&レディ』観劇レポ【ネタバレあり】

はじめに

やばすぎる。本当にやばい。

もうなんか“圧巻”としか言いようが無くて色々文章にしようとしてきたことが全て吹き飛んだ。それぐらいとんでもない作品だった。めちゃくちゃ期待値高かったけれどそれを全て飛び越えてきた。最高なんて言葉じゃ足りない。最高なんて陳腐な言葉じゃ表せない。この世にあるありったけの称賛を積み上げても代えがたいものを得た。ほんとうにありがとう。

というわけでネタバレましましで感想を語っていこうと思います。

以下、本編

まずもうあれだよね。緞帳から美しい。額縁みたいね。

これで期待マックスーーーってところからのランプ。今作の象徴。2回目でようやっとわかったけれどガス灯だよね? それだけ時間が経ったってことじゃ"ん"!!! ラストシーンのこと全部歌ってるのに最後まで行って始めてピースはまるの気持ちよすぎる脚本。演出が美しい。

なんかさー!!!! 冒頭の馬車の歌でグレイはなんだってできるすごいゴーストなんだ! って思ってたら、後半で魂を麻痺させるのはすごく消耗することで、その極致が生者を殺すことだから、ゴーストも消えちゃうって発覚するとさ……フローの家でのシーンは既にグレイの愛というか同情だったのかなって思っちゃうよね。思い通り生きられない辛さを、彼はよく知っているから。聞くに堪えなくて、それから自分の知ってる女とは違う行動をしたフローが気になって、つい魂を麻痺させてしまったんだろうな。うわーーーーーーー!!!! ところで、あのシーンのダンスパソドブレみたいでめちゃくちゃ好戦的で好き。おれは社交ダンスでルンバとパソドブレがとても好きなんだ。最高に癖すぎる。

初回、ダンスの上手すぎる軍人さんとシスターたちに気を取られて気に留めてなかったけれど! フローとグレイのダンスシーンで手を触れていないのはゴーストは人間に触れられないからか。切なすぎる。あときちんとエスコートするあたり気品のある紳士じゃないかグレイ。きっと引き取られた家でマナーとかダンスとか仕込まれたんだろうな。従者といえど礼儀知らずじゃ困るもんな。あと正式に養子にしようとしてたんだもんな。あんなことがなければ、息子と仲良かったら、息子の性格がちったあマシだったらいい家で暮らしてたんだろうな。全ては夢の彼方だけどね。

なんかさ、過去と現実と無自覚な恋心と決闘代理人としてのプライドと気品でぐちゃぐちゃになりながら、最悪だ! って歌ってるグレイとかいう男、沼すぎる。シアターにいれば、現実を見ずにキレイなものだけ見ていられる。ずっと外に出なかったのは未練だけではなくて、勿論芝居が好きだったのもあるだろうけれど、始まりは現実逃避でもあったのかなと個人的には思うわけですよ。あんだけの時間をシアターで過ごした意味は、思ったよりも重いのかもしれない。

そして、ナレーションであり史実であり、観客との橋でもあるラッセルめちゃくちゃいいな。言ってほしいこと全部言ってくれる。話のつながりがスムーズであって、説明的でない。舞台にするにあたって色々端折っただろうけれど、違和感ないもん。すげえ。思いついた人天才か? 俺たち読者なんだ……って思うもん。何回でも言うけど脚本が巧み。

1番途中まで共感してたのエイミーだったんだけど、アレックスと結婚します! さようなら! でうわうわうわお前〜〜〜ってなった。でも冷静になったらアレックスみたいなタイプと結婚するならエイミーみたいな女の子がいいよな。憧れてたものは遠く、追いかけ続けることができないけれど、隣で寄り添いあっていける人同士。あるいは、フローを前にして諦める道をとった、当時としてはあまりに“普通”の人たち。

夢を追いかけるのは辛い。しんどい。ついていけない。だからバイバイってするエイミーとアレックスの気持ちも、1人で何でもできるから隣にいなくてもいいよねってされるフローの辛さもよくわかる。わかるからこそ誰も幸せにはなれないシーンだなとは思った。誰もが痛みを分かち合いたいけれど、痛みの抱え方が違って、かえって傷つけ合うみたいなのがさ……。でもさぁ……フローにグレイがいたのは救いだよな。殺してやるって言いながら中々殺せない。いやまぁ、ゴーストにとっての殺す=心中だからなんだけれど、それだけでなくて、お前のためなら死んでも良い、って言葉の裏返しでもあるから。ほんとうにそれだけ想ってくれてる相手が居てよかったねフロー……。

ここまで考えてみると、「絶望したら殺してやる」は、「お前がほんとうに辛いなら、殺して楽にして一緒に寄り添って消えてやる」ってことでは?????? さすがにオタクの妄言がすぎるか。究極の優しさだろこんなもん。はじまりは言葉の綾かもしれんが、後半本物だったじゃん!!! 愛通り過ぎてもうなんて言ったらいいかわかんないよ……。連れ合いとして最上級の言葉。感情が重すぎて供給過多。こんなんなんぼでも本が出るぞ。

そして、2人の感情の、関係性の積み重ね方が上手いからこそこの2人の愛がより際立ってくる。視線だけで想い合ってるのが伝わる。フランクになって、愛しく想って、ずっと隣にいたくなる。そんな甘酸っぱさを組み立てるからこそ、グレイの過去編がいい具合に効いてくる。脱帽よ脱帽。終始ライトの演出がまた良い雰囲気出してるしさぁ……まじで。いい。

あとさぁ……定期的にある幽体離脱とか壁抜けとか浮遊とかいつの間に入れ替わった? 仕込みやった? って思ってしまった。よりめの配信で見てもまったくわからん。ゴーストの振る舞いが人外すぎる。役者さん絶対ほんとうに幽体離脱できるし飛べるし壁抜けできるとしか思えない。なんだあれ。

「限りなき感謝を」の女王陛下の威厳がすごかった。もう跪きたい。ひれ伏したい。あとコーラスで世間の声が入るところでふと思ったんだけれど、マスコミに煽られて騒いだり、英雄を持て囃したりするのはいつの世も変わらないんだなぁ……ってのがさ。最悪で最高の世間の演出だよね。あとリプライズの時はだいぶ服がわかってて、時の流れを感じたね。あんまり広がらないストンとしたシルエットのドレスだったところとか。それだけ長い時間、フローはグレイを待ってたのか。ぐっ……。

グレイとデオン様のダンス、パソドブレとルンバのミックス感がありましたね。勇ましさと同時に、物悲しさと艶っぽさが同居した、誘うようなダンス。ルンバってさぁ……男女の絡みや葛藤を表現するダンスなんだよね。だからあの、デオン様の激情をパソドブレで、実際は女の身である葛藤と過去の栄光の葛藤をルンバで表したのかなと素人は思います。いややばいな。また真っ赤な照明と衣装が似合うんだよなデオン様は。

「偽善者と呼ばれても」を聞いててまじで鳥肌たった。特にフローの叫ぶような激唱が素晴らしかった。心を抉り出して、赤の滲む手を吹雪の中に掲げて、刺すような痛みの中を進むような歌声だった。あんなん……あんなん聞かされたらさ……泣いてしまうよ。エイミーやアレックスに離れられたフローが、それでも継いでくれる人が、後を歩く人がいる、だから死んでも良いって歌うのがあまり切なくて、苦しくて、それでいて彼女の信念を感じた。あなたの歩いた道を、今でも追いかける人はいる。俺だって追いかけてる。でもあなたも1人の人間だろう。生きろよ! 幸せになれよ! なぁ! と思ってしまった。

作中を通して「ナイチンゲール」ではなく「フロー」と彼女を呼ぶのは、彼女は決して英雄でも、偉人でもなくて、ただの人なんだ、俺が恋した女なんだ、というグレイの意志なのかなって思う。彼しか知らない物語を、俺たちに見せてくれている。ほんとうに心のやはいところを見せてくれている。そのやはいところを見せてくれているからこそ、「フロー」は「フロー」として、1人の人間として観客に扱われる。いやめちゃくちゃ良いな。脚本が良すぎる。新聞で語られるのは、史実の彼女。でも演劇ではグレイのフロー。出来すぎてる。やばい。

あと全体的にランプが印象的だったけれど、間違いなくグレイの灯りはフローだったんじゃないかなって思うんだ俺は。そのグレイが書いた物語だから、ランプに始まりランプで終わる。時代は変わっても、ランプという概念が彼女の代名詞となる。そして、火がいつまでも継がれていくように、彼女の信念、切り拓いた看護の道が現代にも継がれていく。ランプは代名詞で、彼女の生きた証であり、メタファーでもあるのかな。それをずっと、グレイは此処で見守っている。まるで、空気のように。いや2人で幸せななれよ……最後目が合わないのがつらすぎる。いやでも、フローは天国で、グレイは現世を彷徨ってるから、フローは見守っててもグレイには1000年後だってわかりゃしないから仕方ないのかな。最後絶対再会して天国で2人幸せに暮らしましたとさ、ちゃんちゃんだと思ったのに!!! おいフローをあんまり待たせるな! グレイ成仏しろ!

もしも俺がこれを劇場で見ていたなら、帰るときに席にグレイが居ないか確認すると思う。あの、グレイがいるとされた席に。もうあれよ。観客に灰色の服の人が居たらほんとうにびっくりすると思う。見失ったらそれこそグレイだったのかなと思ってしまう。それくらい観客も舞台の一部になる、体験型エンターテイメントだった。なんだろうね。文劇3でもあったけれど、傍観者のはずの自分が舞台に上げられている感覚。舞台と自分の境界線が無い。隣に彼らが居るみたい。でも手が触れそうで、触れられない感覚も同居している。まるでゴーストだ。正しく夢をみて、俺はこれから彼の残像を追いかける。とんでもない作品に出逢ってしまった。一生忘れられないように、優しくぐちゃぐちゃにされた気分。それが幸せではある。いや……良かったな……。

代表挨拶だからアレなんだけれど、終幕からカーテンコールまでグレイしか喋らないのちょっぴり淋しいね。もう皆いないんだもんね。グレイだけが遺るんだから。でもフローとハグしたりキスしたりするのは最高のファンサ。え、やる? みたいな顔もまたいいぜ。あとはけるタイミング間違えるデオン様は申し訳ないけれど可愛かったです。

もしもこれからゴースト&レディという作品が末永く上演されて、もしもロンドンの大劇場で演るってなったら、それこそ幕が開く前から泣きそう。あれロンドンで演ってほしいよ。頼むよ。いや演ってないで観てないでグレイにはさっさと成仏してほしいけど。

ほんとうに演劇だからこその演出、価値を魅せてくれた作品だった。配信を買って良かった。そして消えるミュージカル歌枠でゴースト&レディの曲を歌ってくれて、興味を持たせてくれた周防サンゴちゃん、東堂コハクさん、佐伯イッテツさん、宇佐美リトさんの4人には感謝してもしきれない。原作者の藤田和日郎先生もありがとう。からくりサーカスもうしおととらもそうだけど、あなたの作品やっぱ最高だよ。今度原作買います。ほんとうにありがとう。

最後に。
フロー、あなたの灯りを継げる人間になるよ。
グレイ、あなたの観客より、愛を込めて。

〈了〉

いいなと思ったら応援しよう!