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庭前の一葉


一葉は日記のなかで、通った歌塾「はぎ」の師であった中島歌子からの教えを記している。

...すべて文にまれ、歌にまれ、気骨といふものこそあらまほしけれ...つひによわきに流れて、はては心まで青柳のいとのごと成ぬべきなめり。されば文まれ歌まれ、真(まこと)といふこころになりてつづくり出なば、人をも世をもうごかすにたるべきものぞ。

気骨とはまことのことであり、その心なくばそうした言葉もありえず、よって人も世の中も動かすことはできないという。この歌塾では「古今集」を範とし、一葉は万葉の神韻と天地あめつちを歌いながら国振くにぶり(国風のこと)と国家の大本おおもとを守ろうとしたようである。

また、佐藤春夫は「伝統のなかに民族の心を見出し、民族の心をもって人生の現実を知る以外に国民文学の道はない」と書いているが、あるいは一葉は、花薄はなすすきそよぐ万葉の古来と、それに歩を合わせた「あはれ」を示そうとしたのではなかろうか。

はるか満山の紅葉も見事だが、庭前の一葉のほうに私は大きく心が揺さぶられてしまうのである。

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