シンメトリーの古典美
「雪」
太郎を眠らせ、太郎の屋根に雪ふりつむ。
次郎を眠らせ、次郎の屋根に雪ふりつむ。
「青空」(1927年)より
朔太郎門下だった三好達治のこの一篇、たった二行だけなのに衝撃を受けた。ここでの太郎/次郎とは一般的な男性の人称だが、ここには子供であろう太郎と次郎をあたかも雪がしんしんと降り積もって寝かしつけている静けさがすぐに見えてくる。改行することで、二人は兄弟ではなく、隣家の別の子であることも想像できる。ぐっすり眠る子供らの純粋さと屋根に積もる雪の純白さとが重なって、冷たい雪なのに暖かい布団のようにも思われてくる。
文語で詩を書いた達治だが、だからといって古典的というだけではなく、ここにみるようにシンメトリーの均衡の美を保っていることも古典的といえるひとつではなかろうか。たったこれだけなのに、均整美のなかに静謐で素朴で、優しさとちょっとのおかしみがあって、とても見事な詩だと思った。