![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/151211585/rectangle_large_type_2_4beb790b0798edc57e2cac4e357724f6.jpeg?width=1200)
十三夜
かつて google にあった一葉の傑作「十三夜」 のイラスト。当時の上野広小路の森に挑ぐ満月のもと、なるほど、主人公お関(原田の奥)と録之助(村田の二階)が偶然再会し、別れる最後の場面、その寂寥がうまく描かれている。
この物語は、玉の輿的に高家に嫁いだ女がその家で苛められるも、親孝行のため子供のため、親に諭されながらその虐めに耐えていこうと決心する心の揺れを描いている。しかしその帰途に偶然出会った男は、かつて両想いだった初恋の幼馴染、この男もまた零落して車夫となっていた。喜びもつかの間、ここで哀しい永遠の別れを告げる。それでも十三夜の月は清らさやかにこれを見守っている。それはそのままこの二人の心の清けさでもあり(この心の清けさは、封建身分制度が名残をとどめていた往時にあって、過酷な社会にたいするべく作家がもっとも尊重したものだと思われる)、また物語に距離を取る他ならぬ作家の象徴でもあろう(と私は思う)。さらに月は一隅を照らすのみならず、万端をも隈なく照らすために、これは万人に共通のものとして考えていたに違いない。
十三夜とは旧暦秋の名月で、十五夜ともどもお月見が催された。どちらか一方だけだと「片見月」とされ、縁起が悪いと信じられていた。しかし、十三夜の月は、これから満月に向かっていく少し満ち欠けた月、縁起はよくも不完全さの符牒でもあった。あるいは書き手の一葉は、離れ離れになってしまう男女の運命を十三夜の満ち足りなさになぞらえたのかもしれない。いずれの作品も舞台がふいに暗転するようにあっけない幕切れで終わるのが特徴だが、それによって冷ややかな余韻のなかに無音の残響がこだまするのは、この作家の才筆である。
日付変わった明日20日の未明は満月だが、今年2024年の十三夜は、10月15日。