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直観に反する不動点定理

世界的に有名な数学者、角谷静夫(Kakutani Shizuo)、その不動点定理(「角谷の不動点定理」)の証明は、数学が苦手な自分には困難を極めた。とはいえ、数学の証明は実際に数式を使わなくとも、直観的理解によって可能かもしれない。むしろそのほうが不動点定理のエッセンスを理解できる。かつて教わったことのひとつに、数学とはつねに直観の助けを借りてこそというものがあった。そこで、誰もが愛してやまないこの不動点定理を直観的にみてみたい。すると驚くことに、不動点定理の直観的理解は、他ならぬわれわれの直観に反するものだった。


数学的に書くと、不動点定理とは、

写像C : X → X は、以下の条件を満たすとき、少なくとも1つの不動点をもつ。
1) ユークリッド空間でXが非空、コンパクト、凸部分集合であること
2) 写像C は閉グラフをもつこと


不動点とは読んで字のごとく「動かない点」である。たとえば、マグカップに入ったミルクがある。このミルクは小さな粒子(点)でできているとする。そこでスプーンで思いきり攪拌するとしよう。すると、かき混ぜる前と後とでは少なくとも1つ、全く動かない粒子が存在するというのだ!これは本当か?一体どうやって証明すればいいのか?

そこで四次元空間で考えてみよう。物語はこうだ。

C君は朝6時に山登りをスタートした。山道は細く曲がりくねっており、ときに緩急が激しい場所もある。途中休憩することもあるだろう。あるいはスマホで写真を撮ったり、友達にLINEを送ったり、自撮りしてインスタに投稿するかもしれない。でもなんとか夕方5時には山頂に着いた。そこの宿で一泊して、翌日朝6時に今度は同じ道を下山する。昨晩飲みすぎたおかげで二日酔いだったが、下りは歩くのが楽で、ときに小走りで下ることができ、お酒も抜けてきたので休憩はほとんど取らなかった。明らかに登りのときより早い時間に下山できた。

さて、角谷の不動点定理では、登山時と下山時でC君が同じ時刻に通過する山道上の地点が一点だけ存在する。この不動点が存在することを証明せよ!

なんとも直観に反するような話だが、本当にその不動点は存在するのだ。登りと下りとではスピードがまるで違うはず。でも同じ時刻に通過する一つの場所があるというのである!

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