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「政治と英語」、オーウェルの書き方指南
スペイン内乱を経て、全体主義を批判し続けたイギリスの思想家/作家、ジョージ・オーウェル、このたびオックスフォード大学出版から出されたエッセイ集のなかに「Politics and the English language」 という小論が収録されている(これは以前にロンドンのペンギンブックスから単著で公刊されたものの再掲)。
オーウェルはこの短いエッセイのなかで、書き方について指南している。まず、批評や評論などの言説や言語の腐敗は、政治の腐敗によるものだと断罪し、言語は何らかの考えを表現する媒体である以上、ものを明確に考えられないゆえ(政治の混乱ゆえ)、その言語もあいまいになってしまうという。これはたとえば、何か失敗した男が酒をあおり、そのことでますます落ちぶれていくことに似ているとする。そこでオーウェルは1946年当時、実際に書かれた悪文の見本を例にあげ、具体的に指摘している。
そして最後に、ではどうすれば明確に書けるのかと次の6つのルールを提案する。
Never use a metaphor, or simile or other figure of speech which you are used to seeing in print.
(刊行物によく見るような暗喩や直喩、そのほかの比喩を決して使うな)
Never use a long word where a short one will do.
(短い語ですむなら決して長い語を使うな)
If it is possible to cut a word out, always cut it out.
(語を省くことができるなら、つねにそうしろ)
Never use the passive where you can use the active.
(能動態を使えるなら決して受動態を使うな)
Never use a foreign phrase, a scientific word or a jargon word if you can think of an everyday English equivalent.
(相応の日常語がある場合、外来語や科学用語や専門語を決して使うな)
Break any of these rules sooner than say anything outright barbarous.
(露骨で野蛮なことを書くくらいなら、これらのルールのどれでも破れ)
言葉は時代や場所とともに変遷し、使う人によって使い方も意味するものも異なったりとまるで生き物のようなものだが、こう言われてみると(普段は日本語中心の生活とはいえ)鋭い指摘である。ときに深遠さを装ったり、科学的偽装をしようとして難語を使ってみたり、すっきり書けばすむのに遠回しで回りくどいものにしたり、まったく見当外れの思いつきのたとえを散りばめたり、単にカッコつけようとしたりと、頭が痛い限りである。これもまた文章力/表現力以前に、思考のあいまいさと混乱によるものだろう。
が、こうして慧眼なオーウェルだが、ここにもうひとつのルールを見落としている。これらのどれにもましてこれは書く際にもっとも重要なことである。つまり、
Never write over a drink, I drink stop!
飲んだら書くな、アイドリンクストップ!