美しき日本の冬の夜の設計


てふてふが一匹韃靼だったん海峡を渡つて行つた

この有名な一行詩で知られる安西冬衛ふゆえ(1898-1965)。断絶を意味する海峡を一匹の蝶がひらひらと飛んで行くことで、連結や地続きの連綿を見事なまでに表現した。本来は菜の花畑にいるはずの蝶が荒波の海を悠々と渡っていくことで、幻想的なイメージが想起される。本来そうであると思っていることがそうではなかったという神秘こそシュールレアリストたちが追求したものだが、しかし安西は鋭い感性と新しい知性で、これを端的に示した。個人的には、リズムと音律、調性をもった音楽的な詩が好きだったが、それらを一切無視して切り捨てたこうした視覚的な詩も素晴らしいものである。

安西のもうひとつの詩もその好例である。「美しき日本の冬の夜の設計」がそれだ。

冬の夜、徳川は松平家の正統な血を引く作曲家、松平頼則よりつねの管弦楽曲「南部子守唄を主題とせる管弦楽のための変奏曲」を聴き終わるや、歴史的な幻想が浮かび上がってくるという内容。詩人は、この詩でその音楽を想像させるようにきわめて意図的に書いているが、古典的な静けさと厳しさに満ちた日本の冬を「見る」ことができよう。古語の多様がなおさら古典的厳粛さと絢爛を彩る。

納戸なんど色の陰翳に富む哲学的な日本の冬の夜という表現に、思わず吸い込まれ、歴史の現在に立ちながら過去を幻想的に顧みる気にさせられる美しい詩だった。

短い断片的な小説、あるいは随想や日記として読むこともできるが、冬衛の言葉の魔法にひとたびかかれば、それは一瞬にして詩になってしまう。



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