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オープンDの音色を追って 54 ~すぎやまこういちの証言・後編~

(約6分で読めます)
 前回の記事をマガジン「邦楽 記事まとめ」に入れていただきました。
 ありがとうございます。

『学生街の喫茶店』のヒットに関してすぎやまこういちが語ったことには、記憶違いだろうと思える部分があります。
 なにぶん昔のことですし、「気軽に引き受けた」「メンバーのやる気のなさに、レッスン途中で帰った」「編曲はしていない」「いつの間にかレコーディングされていた」という経緯(前回をご参照ください)ですので、思い違いがあっても無理からぬことでしょう。
 違うだろうという部分はひとまず置いて、以下に発言のまま書きますね。

すぎやまこういち・談(HIT SONG MAKERS 栄光のJ-POP伝説より)
 札幌の冬季オリンピックの主題歌を村井くんが作ったんですよね。 それが当然A面で、しょうがないからB面ていう。B面にこう(『学生街の喫茶店』を)くっつけたんですね。それでレコードが出た。
 それで1年何ケ月か経って、GAROの次のシングルリリース、次のリリース、次のリリースってもう4枚ぐらい出た後の頃。
 ニューカレドニアに遊びに行ったときかな。アメリカ行ったときかな。飛行機の中で村井くんに偶然会ったのよ。
 そんときにうちのかみさんがお喋りしてて「ねぇねぇ、村井さんがね。GAROの『学生街の喫茶店』がね、急になんか売れてきたって言ってるわよ」ってのを聞いて、「へぇ~」って。
 北海道のラジオ局が、北海道のオリンピックの曲だから、かけるじゃないですか。
 で、ついでにB面をかけたりなんかしてたみたいでね。
『学生街の喫茶店』が北海道のラジオ局からどうも火がついてきたらしい。
 それで、発売1年3ケ月後になんかずーっと売れてきて、あっという間に30万いったっていうんで、慌ててAB面引っくり返して刷り直して、バッと増刷して、200万近くいっちゃったんですね。
 ですから、僕としては、まるで気合が入ってない曲だったんですけども、僕自身がもうびっくり仰天という。
「村井くんありがとう」って感じです。
 レコードも引っくり返ったけど、僕も引っくり返ったって感じだったですね。

 以上の内容を整理しましょう。
・札幌オリンピック:1972年2月
・オリンピックテーマソング『虹と雪のバラード』(作詞:河邨文一郎 作曲:村井邦彦 歌:トワ・エ・モワ)、発売は五輪に先立つ1971年8月
・『学生街の喫茶店』が『美しすぎて』のB面として発売されたのは1972年
 6月

 71年、72年と近い時期に起きている出来事なので、混同するのもわかります。
「いつの間にかレコーディングされていた」「まるで気合の入っていない曲」ということですので、余計に記憶が定かではないのでしょう。
 北海道のラジオから火がついたというのは本当なので、それが札幌オリンピックと結びついてしまうのも仕方がないと思います。

 トワ・エ・モアのB面にGAROの曲、というカップリングは、商品としては考えにくいです。
 両グループとも、のちのアルファミュージックの歌手ではありますが、当時のトワ・エ・モアのレコード会社は東芝。GAROは日本コロムビア系のマッシュルームレーベル。
 違うレコード会社の音源をカップリングすることは、まずないでしょう。

 ただ、有線放送用の非売品レコードだと、A面B面に違う歌手の曲が入っている盤はあります。
 歌手だけでなく、レコード会社まで違う場合もあります。

 私はテイチク株式会社に勤めていたとき、白いラベルのシングル盤を見たことがあります。レコード会社側がプッシュしたい曲をカップリングして、有線放送やラジオ局に配るための非売品でした。
 そのときはA面とB面に違う歌手の曲が収録されてはいましたが、両者ともがテイチク所属の歌手でした。

『学生街の喫茶店』に関しては、有線放送用のシングル盤がありました。

この曲の有線放送用のシングル盤がある(ゆうせん YKS-010)。
B面は何故かグループ・サウンズのオックスの「スワンの涙」(1968年発売)。
レコード会社も違うし、作者も年代もジャンル的にも異なる2曲だが、有線用シングルでは珍しいカップリングではない。

えとせとらレコード GARO ガロ/コンプリート・ディスコグラフィー
ヤフオク! に出品されていた
「プロモ ガロ/学生街の喫茶店/ゆうせん YKS 010」

 こういった盤も存在するので、すぎやまこういちの記憶にはそのイメージが影響したと思われます。

『学生街の喫茶店』のAB面が入れ替わったのは72年11月。
 最初の発売から5ケ月後です。

『美しすぎて/学生街の喫茶店』リリース後、GAROが新曲として出したシングルは『涙はいらない』だけです。4枚も出てはいません。
『涙はいらない』が『学生街の喫茶店』のヒットの陰に隠れたような形になり、その次のシングルは、すぎやまこういち作曲『君の誕生日』です。

君の誕生日

このシングル発売前の3月頃に、ラジオの深夜放送で「君の誕生日」「散歩」「君の肖像」「憶えているかい」の4曲が流され、リスナーのリクエストによってシングル曲が決定されるというキャンペーンがあり、その結果「君の誕生日」「散歩」の2曲が選ばれた(ことになっている)。

えとせとらレコード GARO ガロ/コンプリート・ディスコグラフィー

 なぜ『君の誕生日』が選ばれたのか?
 間奏に『学生街の喫茶店』のメロディーが挿入されているので印象に残りやすかったのでしょう。
『学生街の喫茶店』と合わせての二部作とも受け止められます。
 あまりにもあからさまな引用がなされているところを見ると、キャンペーンの結果を待つまでもなく、最初からこれを次のシングルにするつもりだったのでは? とも感じます。
 なお、上記キャンペーン対象の4曲には、ボーカルは入院中だったため参加していません。
『君の誕生日』にも有線放送用シングル盤があり、B面はザ・フォーク・クルセダーズの『帰って来たヨッパライ』(1967)でした。

『学生街の喫茶店』の売上枚数は、オリコン発表では77,2万枚。すぎやま作品の売上ランク第1位です。『君の誕生日』は45,2万枚。同ランク第3位でした。

(つづく)
(文中敬称略)

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