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あえてイタリアを選んだ集中治療医が伝えたい―あなたに合った留学先を選ぶ3つのコツ

留学の話題が出ると、まず最初に「どうしてイタリアなの?」という質問をよくいただきます。日本人医師でイタリアを留学先に選ぶ人は非常に稀だからです。特に、ぼくのような集中治療医の場合、アメリカ、カナダ、オーストラリアあたりはよく聞きますが、非英語圏になるとぐっと減り、さらにイタリアはほぼいらっしゃらないのではないでしょうか。そこで今回は、ぼくがイタリアを研究留学先に決めた経緯をまとめることで、あなたにピッタリの留学先を選ぶための3つのコツをシェアしてみます。

そもそも留学を志した理由

ぼくが留学に興味を持つようになったのは、後期研修の時代です。初期研修の頃に症例報告や自施設の観察研究に関わる中で、少しずつ研究に興味を持ち始めました。集中治療を専門に選んでからは、「日本のICUから世界を驚かせるような研究をしてみたい」という夢を持ち始めました。いろんな研究手法が出てきている中でも、いまだにインパクトが大きいのはランダム化比較試験(RCT)です。そこで、「RCTを量産している海外の施設に留学して、そのノウハウを勉強したあとで、日本でRCTをやりたい」と考えるようになったのです。

最初はカナダかオーストラリアを想定

以前noteに書いた通り、2021年1月に翌年4月からの渡航を決意しました。

この時点では何となくカナダかオーストラリアを考えていました。これら2カ国には、RCT量産システムが確立されていたからです。その量産システムとは、臨床試験グループ(Clinical Trial Group: CTG)と呼ばれる組織で、カナダにはCCCTG(Canadian Critical Care Trial Group)、オーストラリアにはANZICS-CTG(Australian and New Zealand Intensive Care Society Clinical Trial Group)があります。カナダかオーストラリアのどちらに留学し、CTGの中で仕事できたら、とぼんやりイメージしていました。つまり、当初イタリアは候補にも入っていなかったんです。

「イタリアに紹介できる教授がいる」

そう言ってイタリアを提案してくれたのは上司の林部長でした。知り合いの大学教授が、ここ数年で目覚ましい成果を上げているので、候補に入れてみるように言われました。そのお知り合い、 Giovanni Landoni教授について検索すると、過去7年で彼が研究責任者のRCTをNew England Journal of Medicineの2つ、JAMAに1つを出版していました。さらに、500以上もの文献を執筆している、非常にパワプルな研究者でした。

ここで重要なのは、あなたの指導教官として適切かどうかです。優れた研究者でも、あなたに合った留学先でなければ意味がありません。一流の研究者が一流の指導者とは限らず、他の人にとって良い指導者が、あなたにとって最適なメンターかもわかりません。

ぼくが特にチェックしたのは「筆頭著者」と「研究分野」でした。筆頭著者を重視したのは、若手にも執筆のチャンスが与えられ、貢献が業績として反映されているかを知りたかったからです。この点、原則的に筆頭著者は若手が務めていて、実際に若手が書き、それが彼らの業績につながっているようでした。研究分野については、「心臓麻酔」「循環」「腎臓」が目立ちました。ぼくも循環に興味があったので、うまくマッチするだろうと感じました。

残る2つのハードル

よさそうな教授であることは分かったのですが、あと2つ懸念が残りました。1つは非英語圏ということです。もともと、特に理由なく英語圏であることを前提に留学先を考えていたので、戸惑いました。妻に「イタリアに良さそうなところがあるんだけど、どう思う?」と聞くと、最初こそ驚いていましたが、ぼくにとって一番良いところに選ぶよう後押ししてくれました。

もう1つの懸念は先人がいないことでした。ぼくが当初オーストラリアやカナダを候補に上げていたのは、日本人の知り合いが留学していたことも大きかったのです。一方で、イタリアに留学していた知り合いは一人もいません。唯一のつながりは、林先生とLandoni教授です。そもそも受け入れてくれるのか、いざ行くとなったらビザの手続きや日常生活はどのように進むのか、事前に聞ける相手がおらず不安でした。

これら2つの不安を林先生に相談したところ、「前例がないから行く意義があるんじゃない?」と言われました。前例がないからこそ新しい人脈を作れますし、新しい経験ができます。そう言われると、成果がイメージしやすい国に行くよりもワクワクしたんです。一旦気分がノッてしまえば、言葉の壁や先人がいない不安はどこかに消えてしまいました。早速林部長からLandoni教授に連絡してもらうように頼みました。

いきなり面談

最初のメッセージに反応がなく、数週間後に再送してもらうと、CV(履歴書)を送るように返事がありました。準備して送ると、1時間後にこんな返事がありました。

1時間後にTeamsで話せる?

いきなりすぎてドキッとしましたが、チャンスを逃すわけには行きません。ぜひお願いしますと返事して、面談までの1時間に以下の2点を端的にアピールしようと準備しました。

  • なぜ留学したいのか

  • なぜLandoni教授のところに行きたいのか

あっという間に面談の時間になりました。世の中はコロナ真っ只中、世界的に見てもミラノでの流行状況はかなりひどい時期でした。N95マスクをぶらさげた、スクラブ姿のLandoni教授が画面の前に現れました。挨拶もそこそこに早速本題に入りました。幸い想定外の質問はなく、自分の思いをぶつけました。面談は30分くらいで、終始穏やかな雰囲気でした。

ひとの縁が叶えてくれたイタリア留学

面談翌日には受け入れ許可の旨を伝えられ、無事イタリア行きが決まりました。最後に1つ裏話をさせてください。実は林部長とLandoni教授が知り合ったのはお互い医学生のときでした。当時林部長がイタリアに短期留学した際のホストファミリーが当時ミラノ大学の医学生だったLandoni教授だったんです。そんな2人が偶然同じ集中治療の道を選び、30年の時を経てぼくの留学をつないだと思うと、ひとの縁の不思議さを感じずにいられません。

留学先の決め方のヒント

ぼくのイタリア留学はこうして決まりました。そして幸いなことに、2年間の留学生活はとても充実していて、イタリアを選んで本当に良かったです。ぼくがイタリアを選んだ過程には、あなたにも当てはまる3つのコツがあります。

  1. 筆頭著者と研究分野を参考に、あなたに合った指導者を見つける。

  2. 先人がいないことは、新規開拓というメリットにつながる。

  3. 突然訪れる面談チャンスを活かして、自分を精一杯アピールする。

世界に無数にある留学先から1つを選ぶのは簡単なことではありません。インターネットから得られる情報には限界があり、行ってみないとわからない部分も大きいです。そんな状況でも、あなたにピッタリの留学先選びをするために、このnoteを活用してもらえると嬉しいです。

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小谷祐樹
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