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ドキュメント生還-山岳遭難からの救出/羽根田治#35

わたしはかなりの田舎育ちであり、山に囲まれた生活をしてきたが、今更ながら登山をしたいと切実に思っている。

実家の宮崎に住んでいる従姉妹が本格的な登山をしているのが、そう思ったきっかけだ。
コロナ前まではよく登山をしており、登山をした者しか見られない美しい景色や過酷な体験に、「わたしもしてみたい!」という気持ちが高まった。従姉妹はわたしの父とも普賢岳に登山に行ったことがある。ずるい。

運動をするのは好きではあるし、登山も子育てが落ち着いたら趣味の一つにしても良いなって思った気持ちを、ぺっしゃんこのくっしゃくしゃにするほど押し潰したのがこの「ドキュメント生還-山岳遭難からの救出」だ。


本の内容は、山で遭難し生死の境を彷徨った後に生還した登山者に密着取材したもの。厳冬の北アルプスから近郊の低山まで、重傷を負った人も長期間遭難した人も、どう生き延びたのかということが綴られている。

あとがきに書いてあったが、取材を断った人もいるらしい。
読み終えればそれもそうだろうな、と納得する。
ある者は幻覚を見るほどの極限状態にあるし、ある者は正常な判断ができずに怪我をしたりと、壮絶という言葉だけでは言い表せないほど生死をさまよう体験談ばかりだ。

登山をしていなくても、「なぜここで引き返さなかったのか」というツッコミもしたくなるし、自分ならこう行動するかもしれない、という人間の精神状態の変化を自分自身に重ねて読み進める面白さがある。
「沢には行くな」「迷ったらもどれ」という鉄則があることも、この本から知った。

遭難には一つとして同じ条件はなく、悪天候だったり持ち物の数、遭難した場所からそれぞれの方法で生還している。
どんなにベテランの登山者であっても遭難はするし、その生死の境を分けたものが「精神力」なのだということも痛感する。

ちなみにわたしの従姉妹は本格的な登山者で、この本を薦めたところ大変気に入った様子だった。遭難してここからどう助かるのか、ということが知りたくてあっという間に読み終えたとのことだった。

そんな従姉妹が「山頂もうすぐですよ、なんて言葉もすれ違う人に気軽に声をかけてはいけないんだね」と言う。登山者同士の挨拶や掛け合いが、思わぬ判断ミスに繋がることもあると本書は教えてくれる。

高い山に登る人だけではなく低山のハイキングやトレッキングなど、これから登山を始める人の必読書ともいえる一冊である。



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