夫の精神年齢は小学生。
夫の精神年齢。それは間違いなく10歳以下であると私は思う。
夫は私よりも10歳以上年上だ。これまで波乱万丈な人生を歩んで来た夫。当然ながら人生経験は彼の方が上である。しかし、豊富な人生経験を積んでいるわりに彼の言動は子供じみているのだ。
スイーツやお菓子が大好きで、チョコレートやスナック菓子は常に手元にストックしている。関東では販売終了となってしまったカールを西日本への旅行中に見つけた彼は、なんとそれを一箱分購入した。私はその時、一緒に行くことができず留守番していたのだが、夫から嬉々としたメッセージが送られてきた。「こんなところにカールが!」と、店先で高く積み上げられたカールの箱の写真付きだった。まさか旅先でカールを箱買いしてくるとは夢にも思わず、私は心底驚いたのだった。
夕飯の後にテレビを見ながらお菓子を食べるのが夫の日課だ。夜の9時を回ってもまだお菓子を食べていることがある。「こんな時間に食べたらダメでしょ!」と言うと「何が?」「俺は何も食べてない」と、知らんぷり。まるで子供を叱っているような気分である。言っておくが、酒のつまみではない。彼は酒が苦手で、滅多に飲まない。だから正真正銘のお菓子好きであり、大の甘党なのである。
それから夫は下ネタが大好きである。男という生き物は大抵が下ネタ好きだが、彼の下ネタは小学生レベルである。表現の都合で具体的なことは割愛するが、例えるならクレヨンしんちゃん系ということになる。夫の日課というか、習慣はもうひとつある。風呂に入る前と上がった後に全裸で部屋中をうろうろするのだ。その状態で下ネタを連発するのだからたまらない。私はすさかず言う。「いいから早く着替えなさい!」まるで子供を叱っているような気分である。
私の家族は比較的大人しい。父親を除いて全て女だということもあり、下ネタや直接的な表現を口に出すことは何となく避けて来た。当然、父親が家族の前で全裸でうろつくなどということもあり得なかった。家族の誰もが皆、そういう表現や行動を取ることを恥ずかしいと思っていたからだ。いや、今でも当然恥ずかしいことだと思っている。しかし、あまりにも夫があっけらかんとしているので、最近では私自身あまり抵抗がなくなってきてしまった。
しかし、精神年齢が低いといっても呆れることばかりではない。
彼は思ったことをそのまま口に出すタイプなのだが、それが周囲を和ますことが多々あるのだ。家の中での独り言はもちろん日常茶飯事だが、外出先でもそうなのである。
例えば、コンビニに行ってレジ前のホットスナックが美味しそうに見えたとしよう。しかし、大人はそれを口に出すことはない。心の中で(美味しそうだな)と、思うだけだろう。しかし、彼はそれを堂々と口に出すのだ。
「うわぁ~肉がめっちゃ並んでる!」
「この店のホットスナック、いつも凄く充実してるよな!」
おまけに声も大きいので店内にいると目立つ。(昨今ではもちろんマスクをして会話を控えめにしているが)すると、レジを担当している店員さん達が笑うのである。中には夫に話し掛けてくれる人もいる。そうなると、夫の話はもう止まらない。店員さんとホットスナックの話で盛り上がる。ご飯を食べに行った店の店員さんにもにこやかに話し掛ける。忙しそうな様子を見ると「忙しい時にすみません、頑張ってくださいね」と一言添える。店員さんは一瞬驚くのだが、すぐに嬉しそうな笑顔で「ありがとうございます」と返してくれる。私はそんな夫の姿を見る度に、自分もこういうことを自然に言えるような人間にならなければ、と思うのだ。
婚約した直後、新居を探しに不動産屋に行った時のことである。無事に良い家が見つかり、契約書へのサインなど手続きを進めていた。その合間に担当営業さんと談笑をしたりしていた。その時はまだ普通の談笑だった。しかし、その時の宅建の担当者が非常にフレンドリーなおばちゃんだった。すると、夫はノリノリでおばちゃんに宅建のことについてあれこれ聞き始めたのである。
「宅建の試験って凄く難しいんですよね?!」
「そうなのよ~あっあの若い子も今年受けるのよ!ねっ?」
「あっ、はい、そうなんですよ!」
最終的には店内にいる全ての営業さんを巻き込み、何故か宅建の試験の話で最高に盛り上がってしまった。内見と契約書の手続きで疲れていたので、私はその時内心、早く誰か終わらせてくれ……と思っていた。しかし、後から考えるとあれだけ大勢の初対面の人全員を話に乗せ、笑顔にできるというのは凄いことだなぁと我が夫ながら感動してしまったのだった。私には到底真似できない技である。
私は夫とは正反対の性格なので、基本的に店員さんと話すことはない。むしろ顔を覚えられるのも恥ずかしい、というタイプである。なので、そうした自分にはないものを持っている夫を羨ましく思うこともある。憧れや尊敬といった気持ちを抱くことも度々ある。
私はA型、夫はB型。血液型占いをすれば必ず「相性が最も悪い」とか「絶対に上手くいかない」という結果になる組み合わせだ。何故かというと、正反対が故にお互いに相手の気持ちが理解できないからである。私も夫の気持ちが理解できないことが沢山あるし、夫も私の気持ちが理解できないことが沢山ある。それで険悪になったことも沢山あるし、夫にキレられたことも何度もある。(ちなみに私は平和主義者なので、何か思うことがあってもキレることはない)性格の似ている夫婦ならこんないざこざは起こらない。相手の気持ちが分かるからだ。しかし、もしもお互いがネガティブな性格だったらどうなるだろう?想像すると悲惨である。
しかし、正反対の性格というのはメリットもあるのだ。お互いにない部分を補うことができる。私は精神的に弱いところがあり、ネガティブである。しかし、夫は精神的にとても強くポジティブな人間だ。その二人が一緒にいるとどうなるか。ポジティブな夫に引っ張られ、自分もどんどん前向きになっていくのである。ネガティブに陥ったとしても夫と共にいるといつの間にか忘れている。そこが最大のメリットであると思う。夫自身もそれは自分で理解しているようだ。
「過去に付き合った人達も雪子みたいにネガティブな人が多かったけど、別れる時は皆、俺よりも明るくなっていたよ」
そう言っていた。もしかしたら、夫はネガティブな人間を引き寄せて、ポジティブな人間に生まれ変わらせる力でもあるのではないか?と私は思わず考えてしまった。そんな私も夫のポジティブオーラに引っ張られた人間の一人なのかもしれない。
最初に書いたように、夫の精神年齢は小学生かもしれない。だが、私はそれでも良いと思っている。
私がこうして毎日楽しく過ごすことができているのは、子供のように無邪気でスーパーポジティブ人間な夫のおかげなのだから。
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