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大切な記憶に気づくとき

日中、雨がざっと降った。雨雲レーダーを見るとしばらく降る様子。今日の夕方は出かける用事。それまでに止んでほしいと願う。

17時過ぎ。外へ出ると雨は止んでいた。空はシャワーを浴びたようにさっぱりした顔を見せた。灰色の雲はじゃぶじゃぶと洗われ白に戻り、濁りが取れた空は爽やかな青へと戻る。湿っているけれどすっきりしている。太陽はドライヤー。上から光を届け、空を包む。

空気は涼しく、半袖では少々肌寒かった。

もうそろそろ長袖出さなきゃだなぁ。
半袖の方が好きなのに。

ふとこの肌寒さに、覚えがあるように感じた。

次の瞬間、映像が頭の中に映し出された。それは幼稚園の先生の頃の風景だった。

秋始めの夕方。用事で園庭に出ると預かり保育の子どもが遊んでいる。

私の姿を見つけると「あーやまだせんせいだ!」と走り寄ってくる。こんな遊びをしてるよ、今日のおやつはおせんべいだったよ、一通り話すと子どもたちはまた遊びへ戻っていく。

「みんな、そろそろ戻るよ」
預かり保育の先生から声がかかり、部屋へ戻る子どもたち。誰もいなくなった園庭。

半袖だとそろそろ寒いなと思いつつ私も保育室へ戻る。明日の準備に、いそいそと取り組む。

自分でも不思議だった。
肌寒さを感じて、この映像が思い出されるのは。

あの頃、大人数の子どもを見て、関わって、クラスを率いていくことへ大きな不安があった。いつも自信がなかった。あの頃よりは成長した今、同じ状況に置かれたとして、自信をもって子どもの前に立てるかはわからない。

けれども確かに言えるのは、何気ない日常の中で子どもと言葉を交わした時間がたまらなく好きだったということ。

まだまだ未熟な私を「先生」にしてくれて、優しさや驚き、嬉しさをたくさんくれて。日ごとに成長し、大きくなる姿に励まされて。

もらったなぁ。
いろんなものを、たくさん。

あの頃の記憶は、間違いなく今の私を形作る大切な記憶。空気と連動し即座に思い出されるほどに、鮮度高く、色鮮やかに、まだ残っている。

忘れないよう、改めて心にしまっておこう。空気と連動しなくても、すぐ思い出せるように。手に取りやすいところへ。


そうして季節はまた一つ、進んでいく。




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