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マクラメのネガティブな側面を考えてたら人生論になった

私はマクラメ教室の先生なので、「マクラメは楽しいよ」「マクラメは没頭できてストレス解消になるよ」と言っている。

*私の教室のホームページより

*noteの記事より

なので今日は敢えてマクラメにおけるネガティブな側面を書いてみたい。

ひもの長さが分からない

マクラメは、最初にひもを切る作業から始まる。どんな結び方でどんな模様を結び、完成時の長さになるかを想定して、ひもの長さを計算し、切る。
つまり結び始め前に完成図が思い描けなければ材料の準備もできないというわけだ。

そういう意味では洋裁も似ているかもしれない。型紙にそって布地を切るところから始まる。
けれども、服を縫うときにデザインからパターンを起こして作れる人はよほど熟達した人であって、たいていの人は作りたい服などの型紙を買ってくる。型紙には簡単な手順が記されてあって、順番に縫っていけば形にはなるというわけだ(もちろん美しく仕上げるには技術が必要だが)。

マクラメで型紙に相当するのはひも長が明記されたもの、ということになる。
では、洋裁に倣って、ひも長が分かり手順が分かれば作品が作れるだろうか。

結び図が分からない

実はマクラメにおける手順の部分で重要なのは「結び図」と呼ばれる設計図である。
これは編み物の編み図と似ていて、結び方によって違う記号がびっしりと並んでいる。これが読めなければ、作り始めることができない。
大きな作品になると結び図が2~3ページも続くこともあるし、途中で結び方がどんどん変わるので、図を追いかけるだけでも大変な苦労を伴う。

作りたいけど作れない

今は動画サイトで検索すれば、結び方は分かる。
けれど、結び方を知ったとしても、ひも長が分からず結び図が読めないと作品を作ることができない。これでは、マクラメって面白そうと思ってもなかなか手が出せないかもしれない。

時間的・経済的余裕や興味があり教室に通ったり通信講座を受けたりして指導を受けられるのなら、マクラメは必ず誰でも作れるようになるものではある。でもたいていは、そのハードルを越えるほど強い熱意なんて、始める前には持たないものだ。

ハードルを乗り越え教室に通えたとして、用意された作り方のレシピに沿って、結び図の読み方や結び方を教えてもらえれば、憧れの「自分のオリジナル作品を作る」という次の段階に進めるだろうか。
実はここでまた、ひもの長さが分からない、という結ぶ以前の問題に突き当たり、進めない人が多い。

私の作り方

ところで、マクラメの先生をしていて生徒さんに最も良く聞かれる質問は、「どうすれば新しい作品を考えつくんですか?」だ。
聞かれた私はというと、つい首をかしげてしまう。どうやって新作を作っているか、実は明確な答えを持っていない。

私の作り方は、いわば「金曜日の冷蔵庫方式」だからだ。「制限の中の偶然」と言い換えてもいい(なんかカッコいいから)。
要するに、あるものでなんとか形にした結果なのである。「天からデザインが降ってくる」とか言いたいところだが、残念ながらそんなかっこいいものではない。

教室で生徒さんが教材として作る作品、という前提があるので、学んでほしい結び方やひもの動かし方という「狙い」があり、その狙いを必ず含むという条件はあるものの、「ネックレスだから4mくらいかな」とか「太目のブレスレットにしたいから1mを10本くらい切ってみよう」とか、始まりはあきれるほどおおざっぱである。
そんなだから、自慢じゃないけどスムーズに完成することなんてほとんどないし、失敗で終わることも相当数ある。
たくさん失敗しているから経験値の蓄積になっている、と強がったところで、クリエイターとしては低能なのではないかと思う。

でも、ふと思うのだ。それって人生も一緒じゃん、と。

マクラメも人生も

私が生まれ、育ち、今の状態になるまで、計算通りにいったことがどれほどあっただろうか。
その場しのぎというか、その時々で選択をしてきた結果であって、「日本に生まれた」「女性に生まれた」などの制限の中の、いくつもの偶然の出来事が、今の私を形作っているのだ。

常に最善の選択をしてきたわけではないから、美しく整った状態にはなっていないとしても、今の私に満足できて幸せなら、それでいい。
(他人を傷つけることに喜びを感じるなどの特殊なケースを除いて、)本人が幸せだ、というのが最良で最強の結果だ。

あるものの中で、一生懸命。しなやかに。マクラメも人生も。


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