不思議な体験その1・死ぬ前の母に会う
夜、玄関の外に誰かが居る。いぶかしんで玄関まで出ると、そこには入院しているはずの母が立っていた。
外出の許可が出たなんて聞いてなかった!驚かせようと思って内緒にしていたのだろうか。何にせよとても嬉しい。
母に、早く中に入ってと声をかける。とにかく家の中に入って欲しい。一緒に明るい部屋で談笑したい。しかし、入れないのか、入りたくないのか、母は悲しそうな顔で頭を横に振る。
家には少し寄っただけで、どこかに行かなければならないのだろうか。どこかに行く途中なのかと訊ねる。けれど、母は何も話さず、悲しそうに頭を振るばかりだ。
悲しそうな母を見ているうち、せっかく母が帰ってきた喜びが薄れ、悲しくなってくる。何か、自分の予想外のことが起ころうとしているのだろうか。不安が込み上げてくる。
………
そんな夢を、続けて見た。当時はアパート住まいだったのに、夢の中では一戸建ての家に住んでいたし、母は玄関前にいたり屋根の上にいたり(!)と夢らしい不自然もあったが、母はいつも家の中に入らず悲しそうで、私はいつも不安になるのだった。
三晩続いたあくる日、母は亡くなった。
恐らく、母の死期を、私自身が悟っていたのではないか。目覚めている時は、死んでほしくない、奇跡が起きてほしいという願いの方が強く意識される。だから、死期を悟っていることに自分で気付いていなかったのだろう。
でも、そうだとしたら、私はなんて残酷なんだろう。母が生きている時から、亡くなった時の心の準備を始めていたのだ。それが人間の防衛反応なのだろうか。母を失った悲しみは、多少の準備なんて軽々と超えるほど深いものなのに。
どうせ悲しいなら、せめて生きている間は、夢の中でも諦めずに母の生存を願ってあげたかった。
サポートありがとうございます。貴方がいい時間を過ごすためのお役に立てたなら見に余る光栄です!