顔を出さない2.5次元アイドルのライブを生で見た感想と、そこから気づいたこと

兼ねてから娘が好きな2.5次元アイドルのライブに同行した。
私は、そのアイドルに全く興味がなかったが、顔出しをしていない匿名性のある
アイドルの顔を見てやろう、というある意味ミーハーは気持ちでライブを楽しみにしていた。

とても広い会場で、娘が当選した席はステージまでかなり距離がある席だった。
150か、いや200メートルか。
これだと遠すぎて顔が分からない。でも双眼鏡を持参したから、
ある程度は見えるだろうか。

そんな気持ちで、ライブはスタートした。コロナ禍ということで
歓声は最小限にが求められるが、やはり登場するカウントダウンでは、
黄色い声が上がっていた。ファンではない私も、会場の熱気に飲まれ、
自分も好きなんじゃないか、と錯覚に陥るからすごい。

そして登場するアイドルたち。
ステージの上に立っても、誰が誰かはわかるとはいえ、
小さすぎて顔のディテールまではよく分からない。
でも、ステージ上にある巨大モニターがある。
これに顔が写れば、しっかり見えるだろう。

と思ったら、モニターに映った顔には、うっすら
フィルターのようなものがかかっていて、どうにもはっきり見えない。
「ぐぬぬぬ」。
双眼鏡を思い出し、双眼鏡から目を凝らしてみるが、
ピントは合っているが、どアップで見えるという
感じではなく、小さいけど割とはっきり見える程度だった。

顔出ししないアイドルの顔を見るのが、一番の楽しみだったのに
それが見えないとは。悲しい。

辛抱強く見守っていると、トロッコと呼ばれる台車で
アイドルたちが後方席にまでやってくることが数回あった。
その度に双眼鏡を片手に、目をグッと開いて「お顔を見せなされ!」と
じっと観察した。

そこまでして、やっとそれぞれの大まかな顔の様子が
確認できた。でも目の前で顔を見たり、ドアップのポートレートを
見ているわけでもないので、なんとも実感が湧かず、
「彼らは本当に存在しているんだろうか」
「実は3Dでそこに写されているだけなんじゃないか」
などという、不思議な気持ちになってきた。

とはいえライブは盛り上がり、アンコールを経て
再びアイドルが登場して、それぞれが観客に挨拶をするシーンになった。
このシーンでは、それぞれが今の思いを、じっくりと語る結果になった。
そのアイドルグループが経てきた6年という年月、
メンバーの不祥事、さまざまなのことを乗り越えてきて今がある。

そんな挨拶は、1人10分くらいはあったんじゃないかと思う。
少々長いようにも感じたが、その時間の長さも、それぞれの気持ち
の大きさだったのかもしれない。そんな言葉を聞いているうちに、
彼らが1人の人間で、そこに存在して、体温を保って今、
そこに生きているということが、やっと伝わってきたような気がした。
それによって、彼らを初めてきちんと人間として受け止められた気がする。
(もちろん普段から動画などを見ていたりしたら別だろうけど)

顔を出さない匿名性に、どんな意味があるのか。
アイドルのプライベートは守られるだろうけど、出さないことで
希少性や理解が深まるのか、という不安もある。
ライブで会うまでのワクワク感の高まりや、
「顔が見えなくても好き」「顔がなくても好き」という
ちょっとしたハードルが好きの気持ちをよりアップさせて
いるのかもしれないとも思う。

顔を知ってしまった今、私としては、
「イラストのアイコンよりも、自身の顔の方がいい」と
確実に思ってしまった。
イケメンとかイケメンじゃないかとということ以前に、
そっちの方が断然、気持ちが高まっていくし、
応援する気持ちも強くなる。
人間としての彼らに、より興味を持ってしまったからだ。

となると、顔って、何の意味があるのだろうか、と思う。
見た目から人を好きになる場合もあるだろうし、
見た目で人を嫌いになることもある。
だけど、それって余計な要素なのかもしれないとも思う。
その顔がなければ、勝手に好きになったり、
嫌いになったりもしなかったろうし。

顔という、誰もが最初から一番に気にしそうな最強アイテムを
持たない選択をしたことで、一般的なアイドルと一線を画してきた
このアイドルは、ある意味強いなとも思う。

じゃあ、もし推しのアイドルが思っていた
顔とちがっていたらどうなのだろうか。
嫌いになる人もいるかもしれないけれど、
ずっと好きだった人を即座に「嫌い」ゾーンに
突き落とすことは難しく、「それほど嫌いじゃない」ゾーン
へと受け入れ、許容範囲を広げてくるのかもしれないと思う。

人は見た目が何割とか、まずは「顔見せて」と言われることも多いけれど、
顔には、ほぼほぼのその人の持っている性格や
生きてきた歴史が刻まれている場合が多い。
性格や行動を知っていれば、それが好きだから好きになるし、
その性格や行動から導き出される顔もある程度想像できる。

顔に縛られていたり、コンプレックスを感じている人は、
改めて、そんなアイドルのことを知ってみてもいいと思う。
「顔はおまけ」やで、と。


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