恋愛中学生 / No.001
僕がこの街に引っ越して来たのは二〇〇七年三月。新しい春が始まった頃に、僕の生活も新しく始まった。慣れない場所にいつも翻弄し、二ヶ月間は決まったルートしか使わなかった。通勤途中に電車の中から見える海が綺麗で、夏までには一人でそこへ行けることを楽しみにしていた。
僕は高校をすぐ中退した後、卸会社に五年半勤めていたが人間関係を上手く築けないのを理由に、あまり人と接する事の無い職業を選び始めた。
パソコンスキルの重要性を知った僕は、卸会社を辞め2年制のデザインスクールへ通った。絵を描く事が好きだったのがきっかけだった。そしてパソコンに向かって人と会話すること無く、淡々と仕事をしていれば良いと思っていたが、その考え方は間違っていた。
そもそもの原因は僕の内向的な性格であり、会社勤めをする限りそこには人がいる。結局デザインスクールを卒業後、この内向的な性格が原因で広告代理店やデザイン会社を転々とするような生活を5年間過ごしていた。ずっと親元での生活がこのような性格を維持したという要素もあった。
早く親元を離れたい気持ちはもちろんあったが、一つの会社を長続きできない事が僕を実家に留まらせ、親元での生活が僕の内向的な性格を維持させる悪循環から抜け出せないでいた。薄々とはこの悪循環に気が付いてはいたが、どのようにそこから脱却をすればいいのか解決策が見つからなかった。
実家を離れる転機が訪れたのは、引越し先の印刷会社に就職が決まった事だった。広告デザイナーとし就職が決まったその印刷会社は、紙媒体が中心とした会社で、大手の新聞社や有名雑誌をも手がけている。面接で自分の今の現状と、会社を転々としていた事を正直に話したのが印刷会社にとっては好印象に映ったようだった。二十九歳にして初めての独り立ちに情けなくも感じたが、自分で懸命に藻掻いての現状がある事に十分に納得できた。
二十九年間住み慣れた地元からようやく新しく動き出す事ができた。自分自身では。どこかちがう国へと移住するような気分でもあった。
生まれた時から二十九年間の思い出はすべて実家のある「僕の街」にある。自然が多く、よく山川遊びをしていた。いつも一緒に遊んでいた彼は今どうしているんだろう?小学校の低学年までは記憶に残っているが高学年辺りからあまり記憶が無い。いつも一緒で、何をする時でも初めに相談をしてから遊んでいた。彼の名前が思い出せない。小さな僕よりもほんの少しだけ小さいが同学年の彼は同じクラスにいた。彼は転校したのかな?中学校の時はいなかったような気がする。
「こちらで全部でしょうか?」
「あっ、はい。有難うございます」
一緒に引越業者のトラックに乗り込む。そして慣れ親しんだ実家を見ながらそんな古い思い出の回想を蘇らしていた。
つづく…