恋愛中学生 / No.003
『知子滞在二日目(木曜日)』
知子さんが僕の街に遊びに来れたのはタイミングがよかった。当時、パートタイムの仕事で働いてた僕は、時間に余裕があった。
初めは知子さんが遊びに来ると言ったとき、少し迷った。仕事もままならない僕が呆けて良いものかと自問した。しかしこのまま無駄に時間を費やし、意味の無い生活もしたくない。切り替えを必要と考えた僕は、知子さんと会う決断をした。
「今好きな人がおんねん」
知子さんの好きな人の話を聞いて安心した。良い人のようだ。
「今までの男はカス」
そして今までの恋愛遍歴をバッサリと切って捨てた。明るく話す知子さんは、恋愛で悩んでいるようには見えない。少しずつ知子さんへの心配事が薄れていく。
「ハァ〜…。でもな〜…。借金だけはせずに済んだけど…」
四ヶ月前に開店した店を、すぐたたむ羽目になった。理由は共同経営者が資本金を持ち逃げした事だった。警察に被害届けをだし、事の惨事に整理をつけようとしていたが、信用していた人からの裏切りに、心の整理はまだついてなかった。僕は知子さんの気持ちを和らげる事ができない。優しい言葉もかけられず、ただ単にうなずき知子さんに同調するだけが精一杯だった。
「えっ!僕…?うん…。いるよ」
知子さんは話を切り換えるために僕の事を聞いてきた。そして今の現状を話した。
「会社が人件費削減でパートタイムのシフトになってん」
「働く時間帯が減った分、お給料が少ないってことやね」
「うん。このままじゃやっていけへん」
「何を言うてんのよ」
「でも会社の人達は本当に好きやから辞めたくない」
「会社辞め」
「え!」
「友情では食べていけないけど、友情は会社辞めた後でも続けれるから」
「そうなん?でも好きな人も会社におるねん」
「辞めるまでに気持ちを伝える事やね」
「会社辞める前提なん?」
「うん。それ以外に何があるの?」
「う〜ん…」
「このままパートタイムの仕事を続けるの?」
「ま…そらそうやけど…良い人達に囲まれてるからさ…」
「辞めや!で、それまでにちゃんと気持ち伝えんねんで」
知子さんはスパスパと僕の悩みを解決していった。たったその会話の中で仕事と恋の問題を解決してくれた。
そして僕はもう一つの悩みを知子さんに話した。正確に言うとチャットで少し話した事はある。知子さんが僕の街に来る一年ちょっと前に、初恋の人もまた知子さんのように突然僕の街にやって来た。
中学校を卒業した後も僕と初恋の人は三、四ヶ月に一度はメールや電話で互いに連絡をとり、二、三年に一度会うぐらいの仲だった。当時の僕は心の中でずっと初恋の人、瑠衣子に依存していたことに全く気づいていなかった。
つづく…