永井玲衣氏『世界の適切な保存』より(2)
聴覚や視覚、感情、世界への感覚は、たまに誤作動を起こす。なぜ起きるのかはわからない。自分で自分を助けるためなのだろうか。すいすい、つるつるの世界に、割れ目をつくることによって、自分をずっこけさせて、倒れて、冷たい床に頰を打ち付けて、そのまま寝かせるためなのだろうか。
自分で自分を助けるためだけでない。世界の方も、誤作動を誘っている。準備している。あまりに物事がしんどくて、何もかもが立ち行かない時に、友人に「降伏だ」とメッセージを打とうとした。機械は、わたしの状況などつゆ知らず「幸福だ」と変換した。わたしは自分で自分のことを幸福と言ったことがなかったから、それを真新しい目で見ることになった。